社内の会議で、取引先との打ち合わせで、あるいはビジネスレターで、誤った敬語や言い回しを使ってしまった経験はないだろうか。そこで本連載ではビジネスシーンで陥りがちな誤用表現などを取り上げていきたい。
謙譲の意味を持つ漢字を意識せよ
今回はビジネスシーンでよく用いられる「謙譲の意味を持つ漢字」について。まずは以下の例文をご覧いただきたい。
誤) 「どうぞ資料をご拝読ください」
敬語を使った丁寧な言い回しのようにも思えるが、「拝」には謙譲のニュアンスが含まれている。「拝む」という動詞からも想像できる通り、「拝●」は「頭を垂れて何かをさせてもらう」ということ。つまり上記の例文は、「どうぞ頭を垂れて資料をお読みください」と言っているに等しい。
正) 「どうぞ資料をご覧ください」
拝見・拝聴・拝受・拝借・拝察など、「拝」を使った熟語はオフィスで、あるいはビジネスレターにおいて頻繁に使われる。同様に、弊社、小社・小生・小誌、粗品・粗茶、拙宅・拙著・拙稿なども、すべて謙譲の意味を持った熟語。それぞれ正しい場面で使い分けられるようになりたい。
ところで第1回でも取り上げたように、動詞「行く」の謙譲語には「参る」がある。このため「参」にも謙譲のニュアンスが含まれているような誤解を抱いてしまうが、それは間違い。例えば「参照」は、以下のような使い方ができる。
正) 「ご参照ください」
正) 「参照させていただきます」
「ご参照ください」は相手の行為を敬う尊敬表現「ご~ください」に、「参照させていただきます」は自らの行為をへりくだる謙譲表現「~させていただきます」に、それぞれ「参照」を組み合わせたもの。「参」が謙譲の意味を含まないため、こうした言い回しも可能になる。