地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。
今回は、中国地方の日本海側、東に鳥取県、南に広島県、西に山口県が隣接している「島根県」をフォーカスします。
島根県で思い浮かぶものといえば「出雲大社」ではないでしょうか。出雲の地には旧暦10月に全国の神様が集うことから、この地域だけ「神無月」が「神在月」となる、パワースポットとしても有名な県ですね。
そんな島根県をもっと知るべく、東京メトロ銀座線の三越前駅近くにある「しまね料理とさばしゃぶの店 主水(もんど) 日本橋三越前店」(以下、主水)さんにお邪魔しました。
三越前駅から出て中央通り沿いに日本橋方面に歩いていき、三越劇場の正面にあるお店。奥に長い構造で、カウンターとテーブル席の全31席です。昼夜ともにおいしいご飯とお酒でビジネスマンの空腹をみたしています。店名にもなっている「さばしゃぶ」というのが、お魚大好きな筆者には非常に気になるところですね。
島根で人気の渋いやつ&赤いやつ
まず出てきたのは、「炙り板わかめ」(580円)。島根では子どもも食べる一般的なおやつで、おつまみとしても親しまれているそうです。都内では提供するお店が珍しく、島根出身の方は必ずといっていいほど注文されるメニューなんだとか。
初見の印象は、思いのほか"素"でわかめ(笑)、そして量が多い。炙られているのでほのかに芳ばしい香りがします。厚さはかなり薄めで、力加減を間違えると持っただけでも割れてしまうほどです。手ごろな大きさに砕いていただきます!
とりあえず、サクサク。その食感を楽しんでいると磯の香りと塩味のあとに旨みがじわーっと広がります。そして口に残る渋味。シンプルなアテですが、めちゃくちゃお酒が飲みたくなる一品です。スナック感覚で無意識に手が伸び、パリパリサクサクパリパリの無限ループ。細かくしてお米にかけてもおいしいそうです。
お次に登場するのは「浜田の赤天炙り」(580円)。魚のすり身に唐辛子を練りこんだてんぷら(さつまあげ)です。
こちらは島根県浜田の名物で、現地ではコンビニにもあるほどの普及具合。知らぬものはないという"ザ・ソウルフード"だそうです。なるほど、名前の通り赤みがありますね。なんでも戦後にハムカツをイメージして開発されたらしく、たしかにそれっぽい見た目です。
表面には薄めの衣が付いていて、ややしっとり。すり身の旨味と弾力、衣から滲みでる油を感じつつ、赤唐辛子のピリピリが楽しめます。そこにマヨネーズを付けるとまろやかさがプラス。このジャンクさがB級グルメの醍醐味ですね。辛みの主張もいい感じでクセになります。そしてやはりお酒に合います。
新鮮な鯖を贅沢にしゃぶしゃぶで!
続いて店名にも入っている「さばしゃぶ」(1人前1,580円)を注文。出雲市平田三津港ではこの「さばしゃぶ」が漁師料理として愛されているそうです。「主水」さんの鯖は鮮度が高く、刺身として食することができるんですが、それを贅沢にしゃぶしゃぶでいただく! 足の早い鯖を生で提供するお店自体珍しいのに、それをしゃぶしゃぶ! ちょっといけないことをしてるみたいでドキドキしますね。
しばらくして、大きめの鯖の切り身とお鍋が登場。お鍋には濃口の甘露醤油をベースにした出汁が入っています。かなーり黒々としてますね。
あまり火を通してしまうともったいないので少しレア感を残して……それを山芋と卵と出汁を混ぜた漬けダレでいただきます。
うま味の強い甘露醤油の味を漬けダレでまろやかにコーティング。程よく脂が落ちて、上品に仕上がった鯖の風味をじっくり堪能します。この状態でもわかる。そのままでも十分おいしい鯖だよ、この子は。でもしゃぶしゃぶすることによって、より鯖の風味が際立つ気がします、たぶん(笑)。
付け合わせで出てきた、おろしにんにくとしょうがも相性抜群。しょうがはよりさっぱりと、にんにくは食欲を一層加速させていきます。そこにもやしとたまねぎを鍋に入れて、くたっとしたところを鯖でクルリとしていただく。野菜由来の甘さとシャキシャキとした歯ごたえが加わってもう絶品の一言! しかも、玉葱ともやしはおかわり無料らしい。こんなの、つられて鯖を追加しちゃうじゃないか(笑)!
鯖好きからすると生で食べられるものをわざわざしゃぶしゃぶにしちゃうなんて罪深い!と思う方もいるかもしれませんが、一度は試してほしい料理です。罪悪感を超えた向こう側には新天地が……満足度高過ぎよー。
日本三大"そば"とこだわりの"地酒"も見逃せない
そして最後は「出雲割子そば」(1枚320円)を注文。日本三大そばってやつですね。そばの実をそのまま挽く「挽きぐるみ」という製粉方法を採っているので黒っぽいのが特徴だそうです。
小ぶりのお重のような容器「割子」に入って出てきました。確かに黒め。ざるそばとは違って、つゆをそばにかけていただくのが割子そばのお作法らしいです。
一段目を食べたら、容器に残ったつけ汁を二段目にかけて食べていきます。江戸時代、お弁当のようにそばを野外で食べたスタイルの名残とのこと。薬味はネギと海苔、そしてもみじおろしが乗っています。ワサビではなく、もみじおろしを入れるのも独特ですね。
そばを適量口の中へ。その瞬間から濃厚なそば独特の香りが広がります。あー「挽きぐるみ」ってこういうことなんですね。そして、歯応えは強め。ひと噛みひと噛みしっかり香りと歯応えを味わうことができます。「おれ、そば喰ってる!」って感じ。
弁当にしてまでそばを食べたかったほどの"そばフリーク"だった当時の人たちは、この「そば喰ってる!」感を追い求めたんでしょうなぁ……などと妙に納得してしまいました。そしてもう一枚もう一枚と食べてしまうのでした。"セルフわんこそば"か。
島根の食材いっぱいの「主水」さんは、もちろん地酒も充実しています。「しまね地酒マイスター」の資格を持つ利き酒師さんがお店にいらっしゃるそうで、島根の味を100%楽しむために、料理に合わせてお酒をおすすめしてくれます。
今回いただいたのは「月山 芳醇辛口純米」(小徳利880円)。「芳醇」と「辛口」ってなんとなく逆の要素なんじゃないかって思うんですが、飲んで納得。「芳醇」で「辛口」です。ふわっと上品なお米の感じと、後味の良さが同居しています。
何より驚かされたのは、口当たりのやわらかいこと。いわゆる辛口ですっきりした感じとは違う余韻があります。「超軟水」ともいわれる仕込み水を使っているそうですが、これほど水の性質を強く感じるお酒に出合ったのは初めてかもしれません。スイスイいくらでも飲めてしまいそうです。すごいよコレ……!
生産者の「熱」を東京に伝えたい
「しまね料理とさばしゃぶの店 主水」は、オープン15年目。途中リニューアルを挟んでからは2年目とのこと。島根に本社を持つ親会社が、隣接していた島根のアンテナショップの横に出店する形でスタートしたそうです(アンテナショップは現在日比谷に移転)。まさに地元企業の強みを生かして、島根自慢の多くの食材やお酒を取り揃えています。
今回登場したメニュー以外にも新しい島根のおいしいを教えてくれるメニューがたくさん並ぶ「しまね料理とさばしゃぶの店 主水」。ぜひ行ってごしない!
<店舗情報>
「しまね料理とさばしゃぶの店 主水 日本橋三越前店」
住所:東京都中央区日本橋室町1-5-3 福島ビル 1F
営業時間:ランチ=11:30~14:30、ディナー=[平日]17:00~23:00、[日曜・祝日]17:00~21:00
定休日:不定休
※価格は税別
古屋敦史
取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)