地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

前回の岩手県に続いて東北・秋田県にフォーカスしましょう。寒いと熱燗おいしいからね。東北2連続も仕方ないね。

  • 秋田で有名なホルモンを使った料理を知ってますか?


秋田といえば、秋田犬、なまはげ、きりたんぽ、比内地鶏。それに僕の好きな日本酒「雪の茅舎」も秋田です。何やらおいしいものがありそうな予感。胸が高まりますね。

今回お邪魔したのは西荻窪の「秋田ほるもん酒場」さんです。メインで扱っている「鹿角ホルモン」は秋田の北、岩手と青森の県境にある鹿角市の名物だそう。東北でホルモンの印象はなかったので意外でしたが、郷土料理や地酒も多いお店ということなので楽しみです。あべ(行こう)!

  • 秋田への愛情いっぱいな外観

西荻窪駅の南口を右手へ出て小さい飲み屋さんの間を抜けていくと、1階の路面店に見えてくる「秋田ほるもん酒場」さんはカウンターとテーブル席があるお店(計24席)。秋田の地図やポスター、ゆるキャラが店内のあちこちに見られ、秋田愛を感じます。

名物いっぱい! 秋田を満喫しよう

まずはお通しで、「稲庭うどん」におろした「松館しぼり大根」と「とんぶり」が乗った小鉢が登場。最初からこれでもかというほどに秋田てんこ盛りです。テーマパークに来たみたいだぜ。テンションあがるなぁ。

  • 「お通し」名物3点奇跡のコラボ

稲庭うどんといえば、日本三大うどんに数えられる手延べのうどんです。そこに秋田の名産で、「畑のキャビア」とも言われるとんぶりと、鹿角市八幡平松館集落で生産される日本一辛い大根とも言われる松館しぼり大根をおろしたものがトッピングされています。

大根を少しつまんでみると、後から辛味が……なるほど、辛い。でもツーンと来たあとの引きは意外と早く、普通の大根よりも水分が少ないせいか風味も強め。今まで食べたことのない大根の新境地を見せてくれます。

うどんと絡めて口に運ぶと、汁の塩味と小麦の風味に合わせて、とんぶりのプチプチとした歯ごたえも楽しめる。そこに大根の辛味が時間差で突き刺さります。とはいえ、そのまま食べるより汁と合わさり辛さは抑えられ、薬味として程よい存在感を出していました。

プチプチとツーンをたっぷり楽しんで飲み込むと、稲庭うどん特有の滑らかな喉越し。こうも名物ばかり盛り合わせると味がケンカしそうなものですが、絶妙なバランスです。

さて、続いては「ハタハタの一夜干し」(700円)をお願いしました。日本海側では結構広域で獲れますが、秋田では「ハタハタがないと正月が迎えられない」とまで言われ、県の魚とされるほどの地位にあるそうです。ちなみに漢字で書くと「魚」に「神」で「鰰(ハタハタ)」。大きく出たな……。

  • 「鰰」と「鱩」の2通りあるらしい

小さい魚なので、焼いたものは骨まで食べられます。表面の香ばしさも、ほどよく乗った脂も、ホロホロと崩れる白身も、魚の身のおいしいところすべてをいただけます。シシャモではこうはいきませんし、大きい魚では骨が邪魔になります。ハフハフしながら、たまにマヨネーズ付けたりしつつペロリ。やっぱハタハタって神だわ。大好き。

そして満を持して本日のメイン「はじめてホルモンセット」(650円)が登場です。秋田でホルモンは炭鉱労働者のスタミナ食として人気を博し、今では家庭でも広く食べられる非常にポピュラーな料理なんだそう。

豚の大腸・小腸・ハツ・タンに加えて、牛ミノ・センマイなどのミックスをタレに漬け込んだものと、キャベツともやしがセットになっています。今回は、そこにトッピングで豆腐(100円)を追加していただきました。

  • お野菜いっぱい「はじめのホルモンセット」

まず出てきたのは山ほどのキャベツともやし! と思ったらジンギスカン鍋に野菜が盛られていたんですね。そして野菜の下には、ホルモンが隠れていました。この形が「鹿角ホルモン」のスタイルなんだそうです。

鍋の底はたっぷりのスープ。それをスタッフさんがスプーンですくっては上からかけるを繰り返し、スープと各具材を混ぜながら加熱していきます。

  • 出来上がり!

まずはホルモンをひと口。醤油と味噌、ニンニクが効いたタレの味がしっかりと滲みています。鮮度がいいのか、処理の方法がいいのか、ホルモン特有の嫌な臭みも気になりません。

2口目はしんなりしたキャベツともやしをいただきます。タレとホルモンから出た脂を吸っておいしさ最強無敵状態。そして噛みしめると甘みがじんわり染み出します。

そして3口目はホルモンと野菜を一緒にパクり。また違う種類のホルモンでパクリ。食べるごとに異なる食感が楽しめます。たまに豆腐を突いたりしていたら、あっと言う間に2人前を平らげてしまった……。

秋田グルメを〆まで堪能

ホルモンのボリュームが結構あったので、そろそろお腹いっぱい……と思っていたら、「食べ終わった鍋でうどんとチーズを焼いて〆にするのが人気なんですよ」とご店主。

なんですって! ジンギスカン鍋を使って丹念に落とした脂と交じり合ったタレをうどんに吸わせた挙句、チーズまでオンしちまおうってのかい(笑)。そんなの〆にしたら、さらにお酒がほしくなっちゃうし、晩酌終わらなくなっちゃうでしょ。

  • 人気メニュー「シメのうどんチーズ」

……はい、お願いしちゃいました。「シメのうどんチーズ」(300円)です。とんでもないモンスターだな……。うどんは見る見る残っていた汁を吸い上げて、今やすっかりカロリーの化身です。故にうまい。知能が低くなるくらいうまい。

モチモチのうどんにチーズがこんなに合うんですね。お箸ノンストップ。即完食。ホルモンを食べ終わった時点で結構な満足度だったのに、どこに入ったんだよ……。自分が怖いよ。

そこに追い打ちをかける登場したのが、秋田名物「きりたんぽ(甘味噌)」(380円)。いわずと知れたお米を練って棒に巻き付け焼いたアレです。なんでも鹿角市がきりたんぽ発祥の地なんだそうですよ。

  • 「きりたんぽ」定番の甘味噌味

ちょっとお腹いっぱいなんですが、奇しくも取材をした11月11日は「きりたんぽの日」(らしいです)。もはや運命でしょう。腹を括っておいしくいただくことにしましょう。

甘味噌はクルミ入りの特製なんだとか。ホルモンやうどんにない甘さの主張。食べきれるか心配な腹具合でしたが、デザート感覚で瞬時に平らげました。味変ってすごい! ごちそうさまでした。

  • 左から「古代米酒万座の舞」、「千歳盛 上撰」、「純米吟醸花輪ばやし」

今回の料理のお供は、鹿角にある千歳盛酒造さんの「千歳盛 上撰」(550円)でした。小さい酒蔵のため、都内で飲めるのはこちらのお店だけなんだそう。ふっくらとし豊かな味と香りで、後味はさわやか。長く飲めるいいお酒です。

ほかにも千歳盛酒造さんのお酒をはじめ、秋田の地酒各種が多数メニューに並びます。特産のリンゴや桃のジュースを、地元で愛される甲類焼酎「そふと新光」で割って作る「りんごハイ」(580円)や「北限の桃ハイ」(580円)など秋田を感じることのできるドリンクメニューもありますよ。

鹿角ホルモンを食べるならここで決まり!

店主の石田博生さんの奥様・明日香さんが鹿角市のご出身だったことからスタートすることになった「秋田ほるもん酒場」は今月の11月1日で開業5周年。

  • 石田夫妻とご満悦な看板息子の風磨くん

都内では珍しい鹿角ホルモンを扱っていることもあり、秋田出身のお客さんも多く訪れるんだとか。今年になってからは、ホルモンのテイクアウト(3,300円)が、さらに11月からは季節限定の「きりたんぽ鍋」(3,900円=要予約)もスタートします。

一度ならず二度三度と訪れたい秋田県の魅力がギュッと詰まったすてきなお店でした。皆さんも西荻窪で鹿角の味を楽しんでけれー。


<店舗情報>
「秋田ほるもん酒場」
住所:東京都杉並区西荻南3-12-1 日伸西荻プラザA8-1
営業時間:17:30~24:00(日曜は23:30まで)
定休日:不定休

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)