地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

そろそろ東北地方も、と思ったので今回は「岩手県」にフォーカスしました!

  • 海の幸を使った家庭的な料理がラインナップ

    岩手県民に愛される「ひっつみ汁」は必食


岩手県というと東北の日本海側。北は青森、南は宮城です。県庁所在地の盛岡にはベアレンさんという非常にナイスなクラフトビールの醸造所がありまして、個人的には岩手というとその名前が即思い浮かびます。国産のホップの生産量トップで50%のシェアを持つ岩手ですからね。ビール抜きには語れません。

それとやっぱり三陸の海の幸。中でも牡蠣なんか最高ですね。広田に赤崎、どこのものもおいしいんです。濃厚で旨味がたっぷり、ほどよい塩味と鼻から抜ける潮の香り。口にしてからたっぷり2分くらい目をつぶって味わいたい。

でも今日のお店は牡蠣ではないんです。筆者は牡蠣の旨味とビールに脳を蝕まれているので、酔って知らない人に牡蠣のおいしさを2時間語ってしまうくらいなのですが今回は自粛。そんなわけで、赤坂にある「いわて酒場 久世」さんにお邪魔しました。

  • こじゃれた装飾が醸し出すどこかオトナな雰囲気の店内

岩手の家庭でいただく海の幸を使った料理たち

お店は、赤坂駅から溜池山王方面に向かう道すがらの細いビルの4階。カウンターが6席と、奥にテーブル席がある明るめの店内です。

着物の上に割烹着を着た女将さんがお出迎えしてくれる小料理屋のような雰囲気。まずは手始めにホヤ串(1,500円)からスタートします。

東北の珍味といえばやはりこれ。「海のパイナップル」とか「初めて食べたやつ尊敬するわ」と言われている不思議な生き物「ホヤ」です。

詳しくは「ほやほや学会」さんのホームページをご覧ください(笑)。獲れたホヤを茹でて、身の部分でキモをくるっとしたあとに串打ちして乾燥させたものだそうです。それを炙っていただきます。

  • 甘味、塩味、苦味、酸味、旨味の5つの味が楽しめる……らしい「ホヤ串」

身のクニクニを楽しんでいると、肝の味がじんわりと染み出してきます。足が早い食材なので東京で食べると生臭いものにあたりがちですが、加工されているためかそういった嫌な風味はありません。

むしろ生のホヤが苦手な人には、こちらの方が食べやすいかもしれない。それでいて新鮮なホヤを食べたときに感じる爽やかな風味も遠くにたしかに感じられます。肝臓にも良い(!?)そうなので、お酒のお供としてはもってこいです! エンジンかかってきました。

お次に登場するのは、「すきこんぶ」(「ひっつみ汁」と合わせて1,000円)という料理です。細く刻んだ昆布にニンジン、エノキ、油揚げを加えて、醤油、みりん、出汁で煮込んだものです。松前漬けに似てますかね。

  • 目指せ血液サラサラ「すきこんぶ」

煮物の香りって「そろそろ夕食だー」って気持ちにさせてくれますよね。女将さんのお家では毎日のように出てきたんだそうです。昆布漁の盛んな岩手の母の味。具材はご家庭によって差があるそうですが、「いわて酒場 久世」ではこの具材がスタンダードなようです。

食物繊維も豊富そうだし、親としてはモリモリ食べさせたいでしょうな。昆布のプリプリした歯ごたえと旨味が口の中一杯に広がる「すきこんぶ」。味も染み染みで食が進みます。

続いてお願いしたのは「鮑の海宝漬け」(1,500円)です。アワビ、イクラ、メカブ、シシャモの卵を醤油ベースで漬けた、三陸の食材のおいしいところをギュッと詰め込んだまさに宝石箱的な一品。

  • ちびちび味わいたい「鮑の海宝漬け」

まずはメカブからいただきましょう。ねばねばにシシャモの卵が絡んでつるりと口の中に入ってきます。卵の粒がアクセントになっていい塩梅。しっかりと味つけされているのでお酒にも合いますよ。

味付けと歯ごたえを楽しみつつ、そこにイクラを絡めてもう一口。プチっとした食感のあとにイクラの華やかな味が口の中ではじけます! 贅沢の味がするー。

そして、ひと際存在感を放つ煮あわびをぱくり。するりと噛み切れるほどやわらかく、かすかに甘い。アワビはこんなに柔やわらかくなるものなんですなぁ。

「ひっつみ汁」の"ひっつみ"ってなんだ?

最後は名前が気になってた「ひっつみ汁」の登場。「水団(すいとん)」に似た、小麦粉を練ったものが入っている汁物で、岩手の家庭では一般的に食べ物なんだとか。「水団」のように生地を丸めるのではなく、薄く伸ばしたものを「ひっつみ(ちぎって)」鍋に入れることからそう名付けられたんだそう。

  • 南部せんべえの箸置きがかわいい「ひっつみ汁」

「ひっつみ汁」は、昆布や鰹節で濃い目に取った出汁と岩手・藤勇醸造の甘めの醤油をメインに南部鶏と舞茸、にんじん、ごぼうが入った一品。素朴ながらにしっかりと出汁が効き、やさしく上品な味付けです。

また、ひっつみは餅や団子のような水団に比べると、プルプル感があり、平たい麺みたいなかんじ。刀削麺なんかに似てるかもですね。

寒いところのこういう料理は、人をほっとさせてくれる効果がすごい。冬の冷えた体を温めてくれそうですなぁ。

  • 久慈の日本酒「久慈川」と「福来」

ドリンクメニューには、女将さん・久世喜子さんの故郷、久慈の日本酒「久慈川」「福来」をはじめ、「赤武」「南部美人」など岩手の日本酒が並びます。いただいた「福来」は、辛口ながら熟成感があり、まろやかさもあるため、非常に飲みやすかったです。寒くなったらお燗でいただくと料理との相性もアップしそうですね。

  • 「福来」の樽を持つ店主の久世さん

東京で誰でも入れる岩手コミュニティがここに

岩手県久慈市はNHKの朝ドラ「あまちゃん」のモデルなったところで、海女漁の行われる地域です。

久世さんは中学校卒業後に、進学のために上京。いろいろなお仕事をされたそうですが、早くに東京に出てきて来たこともあり、大人になってから改めて岩手の人と出会い、岩手のことを知りたいと思い、3年前にオープンしたそうです。

"いわて"とお店の名前についていると、自然と岩手出身者が集まり、年々増えているんだとか。

明るく楽しい雰囲気で場を作ってくれる久世さんに惹かれてか、ここへ来るお客さんの物腰がやわらかく、一人で訪れてもさらりと受け入れてくれますよ。そんな懐が深い「いわて酒場 久世」におでんせ(いらっしゃい)。


<店舗情報>
「岩手酒場 久世」 住所:東京都港区赤坂2-13-7 赤坂キヨシビル 4F
営業時間:18:00~24:00(木曜日は翌4:00まで)
定休日:土曜・日曜・祝日

※価格は税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)