地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒やしてくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方のものを食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。
今回のテーマは、京都府です。近畿地方にあって、東は滋賀県と福井県、西は大阪府と兵庫県に挟まれた場所にあります。南にいくと奈良ですね。
京都の下町の味「べた焼き」って知ってる?
言わずと知れた古都。有名な神社仏閣がたくさん。そんな歴史を感じることのできる地でありながら、実は県庁所在地の京都市はバターの消費金額や牛乳の購入量が日本一。さらにパン屋の店舗数も全国2位、コーヒーの購入金額も1位と、アンビバレンツな魅力を有しています。
特産品としては宇治茶、京野菜と呼ばれる伝統野菜は有名ですね。また日本酒の生産量は全国2位でもあります。お酒が好きな方は京都のお酒を飲まずして日本酒の何を語るのかというほどに重要な土地ですね。
今回は、西葛西にある京都食材とお好み焼きのお店「京都・きん家」(以下「きん家」)さんにお邪魔しました。西葛西駅の南口を出て駅前の広場をまっすぐ進んで徒歩3分ほどの場所にあるお店です。
店内は横長でオープンキッチンが目の前にあるカウンター席と、テーブル席、座敷席を併せて44席ほど。どの席にも鉄板があり、熱々の料理をいただける仕様です。座敷席は掘りごたつ式になっているため、よりリラックスして楽しめます!
まずは、おだしたっぷりの「だし巻き」から
最初に登場したのは「だし巻き」(650円)です。居酒屋さんに来たら、ぜひ注文したい定番ですね。こちらは京風のお店なので、カツオと昆布の出汁をたっぷり使って作っているとのこと。
口に運んでみると、ふわふわでジューシー! わっと口の中に出汁の香りが広がります。お店でおススメしている通り、醤油をかけなくても十分なほどに味わいが豊か。こういうシンプルな料理に味の差が出たりするのがおもしろいですよね。
お次に登場したのは「京水菜の湯葉巻き」(600円=ハーフ)です。京都の料理でいうと豆腐や湯葉などは外せませんね。「きん家」さんでは、直接京都から仕入れた湯葉と水菜を使って生春巻きのようにしていただくメニューに仕上げました。
京野菜の水菜を中心にパプリカ、エビ、鶏むね肉がたっぷり詰まっています。彩りも鮮やか。下には濃厚なゴマダレドレッシング、上からはカツオだしの効いただし醤油をかけていただきます。
瑞々しく歯応えのある野菜とエビの弾力、香ばしさと旨味のあるドレッシングと醤油のコンビネーションは相性抜群。そしてゴマドレッシングに負けない湯葉のしっかりとした大豆の味も堪能できます。京都の魅力を丸ごと包み込んだような一品ですね。
次いで「鶏と九条ねぎ炒め」(830円)をお願いしました。こちらも代表的な京野菜・九条ねぎと鶏肉を塩だれで一緒に炒めたものです。オープンキッチンで炒めたものを、席の鉄板に持ってきてもらえるので、熱々のままいただけます。
ジューシーでゴロゴロっとした塊の鶏肉と、青々した九条ねぎがたっぷり。香りがよく肉厚でいてやわらかく、熱を加えることで甘みを増したネギが鶏の脂をよく吸っていました。塩だれがかかった鶏肉と一緒に食べるとシャキシャキとした歯ごたえと滲みだしてくる旨味を存分に楽しむことができます。
「べた焼き」は食べ方いろいろ、決め手は特製ソース!
そして最後に登場したのは「きん家スペシャルべたそば」(1,350円)。京都の下町グルメには、広島風お好み焼きのような「べた焼き」というものがあるそうです。クレープのような薄い生地の上に、いろいろな具材を載せて焼くもので、この「べたそば」はキャベツと牛すじ、そばをじっくり焼いて、その上に輪切りにした九条ねぎと生卵が乗っています。
食べ方はいろいろで、最初から生卵を崩してしまっても良いそうなんですが、店長さんにオススメいただいた、周りから食べていって最後に卵を崩す形で食べていきます。
そばは外周の方がよく焼けていてパリパリとした食感です。そこにお店特製の「辛ソース」をかけていただきます。ソースは粘度が低く、サラッとしていて甘めの味わいですが、そこに一味唐辛子をブレンドしてあるそうです。
最初は甘くて、あとからちょっとピリッと辛くて、後味はやっぱり甘いという不思議な味わい。そばのパリパリと、ネギのシャキシャキの好対照な歯応えを感じながらオリジナルソースを楽しみます。ちょっとジャンクな味わいがクセになります。
外周をすっかり食べ終えたところで卵を崩す。鉄板からの熱でじわりじわりと火が入って超半熟状態になった卵の黄身をそばになじませるよう広げています。するとそばにしっとり感が加わり、ソースと混ざるとマイルドな味わいに。なるほど二度おいしい。京都の下町のお味でした。
伏見の"ザ・日本酒"の一つ「桃の滴」
本来「日本酒」という呼称は、京都の伏見と兵庫の灘で作られたもので、それ以外を「地酒」と区別されるそうですが、今回はその伏見の蔵元・松本酒造さんの「桃の滴」(900円=1合)をオススメいただきました。商品名は松尾芭蕉が詠んだ句から名付けられたんだとか。なめらかで上品な口当たりと、ふくよかでやわらかい香りは、言われてみればかすかに果実のように甘かったです。
親しみのある京都を目指し、21年前にオープン
「きん家」さんは創業から今年で21年。オーナーの息子さんで京都出身の金城基真さんが、店長として頑張っているお店です。元々は東京で単身赴任していたお父様の長年の夢だった飲食店を形にしたのがスタートでした。家のようにした親しみを持ってくつろいでほしいという想いから「家」という文字を屋号につけました。
京都料理というと、なんだか雅な、お値段のしそうなものをイメージしがちですが、べた焼きのような下町の料理を食べることができるお店は、東京では貴重な気がしますね。季節の京野菜に、お豆腐、ゆば、油揚げなどこだわりの食材を京都から直接仕入れ、その魅力を届けてくれる「きん家」さんに、ぜひおこしやす。
<お店情報>
「京都きん家」
住所:東京都江戸川区西葛西6-13-14 丸清ビル1F
営業時間:[平日]17:00~翌1:00(金曜は翌2:00まで)、[土曜]12:00~翌2:00、[日曜・祝日]12:00~翌0:00
※掲載時は緊急事態宣言中のため、アルコール類の提供はなし、時短で営業している。
定休日:年中無休
古屋敦史
取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)