地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回は、本州の西の端に位置する、東側が広島県と島根県に接していつ山口県にフォーカスします。

  • 山口県のソウルフードはわりと豪快


水産物に恵まれた山口の郷土料理といえば……

もっとも多くの総理大臣を輩出している県として有名な山口県。戦国時代に毛利氏が治めた地域で、幕末時代の日本が好きな人からすると長州というとしっくりきます。日本海と瀬戸内海の2つの海に面していることから水産資源に恵まれ、国内のフグ類シェア80%、アマダイ鯛漁獲量も日本一という感じになっています。

  • 「瓦そば」のタペストリーが目を引きます

今回お邪魔したのは、神田にある「瓦.Tokyo Y- STYLE」(以下「瓦.Tokyo」)さんです。新日本橋駅から神田駅方面に向かっていくと1分くらいで見えてきます。

  • 落ち着いた店内で主張する山口の日本酒たち

縦長の店内で、テーブル席のみ20席。シンプルで落ち着きのある造りです。

さて1品目は「削り蒲鉾(かまぼこ) on 冷奴」(480円)。保存のために乾燥したかまぼこを鰹節のように削ったものだそうです。宇部市にある「宇部かま」さんのものを使用しているとのこと。

  • ふんわり桜色がかわいらしい「削り蒲鉾 on 冷奴」

かなーり薄く削られているので風が吹くとなびきます。そして、淡いピンク色が華やかさを演出。添え物として料理の彩りになることから、お祝いの席でも好んで使われているそうです。

山口では、そのままおつまみやおやつとして食べることもあるようですが、今回は鰹節の要領で冷奴の上にのせていただきます。豆腐と口に一緒に運ぶと、ふわふわとした食感。豆腐にかかった出汁の味に加えて、ほんのりかまぼこの甘さが広がります。

魚のおいしいところを凝縮した塊のかまぼこ、豆腐にかけるだけでこうも味わいが変わるものなんですね。シンプルだけどおもしろい!

お次に登場したのは「クジラのユッケ」(980円)。山口には捕鯨船の基地がある関係で、クジラのお肉が食べられているそうです。

  • 赤身が鮮やかな「クジラのユッケ」

クジラの赤身の肉をコチュジャンとごま油を混ぜてユッケ風にしてあります。そこにウズラの卵をオン。混ぜ混ぜしていただきます。

コチュジャンの味は濃いですが、ふわふわとやわらかいお肉の食感と風味が広がる、上品な赤身の味わい。卵が入っていることでよりまろやかにいただけます。口の中でゆっくり堪能いたしましょう。ごま油の香りも芳しい……。これはお酒が欲しくなるやつ。

食べる機会があまりないクジラですが、臭みがない、こういうクジラをいただけるのはうれしいですね。個人的にはお刺身で食べてみたいくらいおいしかったです。

続いてお願いしたのは「フグ唐揚げ」(780円)。なんといっても下関といえばフグですね。 フグ料理でいうと刺身や鍋もいいですが、筆者は断然唐揚げ派。

  • 一匹をそのまま食べることができる「フグ唐揚げ」

出てきたのはよく食べるものと若干ビジュアルが異なるフグ。お話を伺うと、個体の小さいサバフグという種類で、頭を落として丸揚げにしたスタイルなんだそうです。多少骨はありますが、背骨とかはそのまま食べられるそう。

  • たしかにお魚っぽいシルエット

言われてみるとヒレもついている。筆者がよく食べるフグの唐揚げは、大きい個体をぶつ切りにしたものが多い気がするし、ヒレとかはついてません。

かぶりついてみるとよく知ったフグの唐揚げの味。サクサクでジューシー! フグの白身に下味と衣の芳ばしい香りがよく合います。いま、幸せを噛みしめております……

ただ、今回のフグは歯応えが全然違う! 小さい個体だからでしょうか、以前食べたものと比べるとギュッと詰まったようなプリプリ感です。より一層フグを食べてるって感じ。

フグにもいろいろあるんですな。冬が近づいてくるとフグの唐揚げがよくみられるようになるので大変うれしい筆者。こんなに好きなのに恥ずかしながら不勉強でした。

見た目に驚愕! 「瓦」を使った豪快料理とは?

最後の〆にお願いしたのは「瓦そば(山口STYLE)」(980円)。こちらも下関の料理だそうで、熱した瓦の上に太麺の茶そばを乗せて炒めるものだといいます。

茶そばとは、抹茶の練りこまれた蕎麦。具は牛肉、ネギ、錦糸卵。その上に、のりと薬味で輪切りのレモンともみじおろしがのっています。山口県では、家でもよく食べられており、その際はホットプレートなどで作るのが一般的だそうです。

  • 店主さんが重そうに持ってきてくれた「瓦そば(山口STYLE)」

本当に瓦に乗って出てきました(笑)。というか瓦をこんなに近くでまじまじ見るの生まれて初めてかも。しかもロゴ入り。なんでもこの瓦、瓦そば用に特注した、耐熱処理がされた特殊なものなんだそう。

元は旅館のおもてなし用のメニューということなので、見栄えのインパクトがすごいですね。「直火用瓦食器」とググるといろいろ出てきておもしろいっす。おすすめ。

食べ方は、萩の甘口醤油を使用したあたたかい出汁の中に、茶そばの上に乗っていた具をすべて入れ、麺をつけていただく。つけ麺みたいな感じですね。

  • まずは具を出汁にIN

麺はというと瓦の熱でこんがりしています。石焼きビビンバのおこげみたい。だいぶこんがりしてるので板状気味になります。それをほぐしながらたぐり、まずは一口。パリパリとした瓦に面していたところと、そうでないところのモチモチした食感のバリエーションが感じられます。

  • 麺をこがしていい感じにパリパリ

やや焦げついた部分の芳ばしさ、麺に練りこまれた抹茶の風味、牛肉や甘口の醤油の味、口の中でかなり複雑な要素が駆け巡る。トゥーマッチになりそうなところを、レモンともみじおろしが引き締めてくれます。瓦のインパクトに負けず、なかなか驚きに満ちた食べ心地でした。

ちなみに「瓦.Tokyo ORIZINAL」(830円)というメニューもありまして、こちらは細麺の茶そばを使って、関東の醤油を使った出汁でいただきます。店主さん考案のもので、茶そばは細目、出汁が関東風の醤油をベースにしており、関東のお客さんに山口の料理をなじみやすくしたいと思ってできたそうです。次回は挑戦してみよう。

獺祭などおいしい地酒も味わって

山口県各地の日本酒を取り揃え10を超える種類を楽しむことができます「瓦.Tokyo」さん。今回は、店主さんの故郷である宇部にある永山本家酒造場さんの「貴」(1,100円=一合)をいただきました。最初にお米のやさしい風味がして、スッと引いていくスッキリした後味が特徴。海産物と一緒に飲むのにぴったりです。

  • ずらりと並ぶ山口の地酒

ほかにも知名度の高い「獺祭」は、スパークリングや精米度合いの異なる純米大吟醸が3種並ぶなど、あれもこれも飲みたくなってしまう憎い品揃え。獺祭好きにはたまりませんね。

  • 出身・宇部の日本酒「貴」と店主の西田聡さん

ご店主の西田聡さんは宇部市の生まれ。上京されて以後、料理好きのお父さんが作ってくれた瓦うどんをはじめ、懐かしい山口の料理を、なかなか東京で食べる機会がないことをもどかしく思っていたそうです。「ならば自分で作ってしまおう」と一念発起。脱サラしてお店を始めたと話してくれました。店主の山口を思う熱い気持ちが伝わってきますね。

そんな山口の定番の料理や東京風にアレンジされた瓦そば、また地酒をおいしく楽しめる「瓦.Tokyo」に、神田にお寄りの際はおいでませ!

<店舗情報>
「瓦.Tokyo Y- STYLE」
住所:東京都中央区日本橋本石町4-4-17
営業時間:[ランチ]11:00~14:00、[ディナー]17:00~23:30
定休日:土曜、日曜、祝日

※年末年始の営業時間に関してはお問い合わせください
※価格は全て税込

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)