地方出身者が地元の料理を食べたくなったら駆け込める、同郷の人との触れ合いに飢えたときに癒してくれる、そんな東京にある"地方のお店"を紹介していくこの企画。コロナ禍の昨今、せめておいしい地方の物を食べて各地を旅行した気持ちになりたい! という他県のあなたも必見です。

今回は、四国地方の南東の位置にある徳島県にフォーカス。西は高知、北は香川が接する県ですね。

  • 徳島は出荷羽数日本一を誇る地鶏を使った料理が有名らしい


徳島で有名なものって?

徳島県で有名なものといえば、お盆に行われる「阿波踊り」。人物だと、シンガーソングライターの米津玄師さんや、チームラボ代表の猪子寿之さんを輩出した県でもあります。筆者は訪れる機会が多かったので思い入れが強め。

総務省が出している統計を見ると、さつまいもの購入量・購入金額ともに徳島市が全国1位だそうです。徳島の「鳴門金時」というさつまいもの品種がとても甘くておいしんですが、日本一さつまいもを食べる県で作られると思うと、そのおいしさも納得いくものがありますね。

あと忘れちゃいけないのが「すだち」。緑色した小さいみかんみたいなやつですよ。東京でも時々焼きサンマに添えられてたりしますよね。そんなすだちの、生産量全国95%のシェアを持つのが徳島なんです。すだちを見たらほぼ徳島産ってこと。

徳島の人は本当になんにでもすだちを搾ります。揚げ物は当然のこと、お刺身もすだちで食べ、皮を削って薬味にし、すだちの果汁で割ったお酒を飲む。すだち味噌にすだち七味、ことあるごとにすだちを摂取しようとします。どれだけ好きなのか……。

地元民に愛される定番料理のオンパレード!

さて、今回お邪魔したのは三軒茶屋にある「サンチャ フカミ」さん。三軒茶屋駅から茶沢通りをまっすぐ行き、太子堂の先で横道に入った住宅の中にあるお店です。

  • ガラス張りのおしゃれな外観

店内は縦長のL字カウンターと奥に個室があり、計20席。当然徳島料理が食べられるお店なんですが、いわゆる居酒屋のような内装ではありません。高めのカウンターと煉瓦の壁のためでしょうか、渋くおしゃれなダイニングバーのような印象です。

  • 高めのカウンターと渋い煉瓦の壁

最初の一品はこれに決めていました。「大野海苔」(480円)です。徳島のおうちには必ずあるといわれるスーパーメジャーな卓上海苔。以前徳島を訪れた際にいただいて以来、訪れる度にお土産として購入していますが、渡す人渡す人みんなファンになる魅惑の海苔なのです。

  • シンプルにそのままいただく「大野海苔」

わーい。テッカテカ。これぞ大野海苔! 何かよくわからん旨味的な成分がたくさんヌリヌリされているので、テカテカなのであります。そしてテカテカ故にパリパリ。しならせると割れてしまうくらいパリパリなのです。

初見の人は一口食べた瞬間、その尋常ならざるパリパリ感に驚愕することになります。そして濃厚な甘塩っぱさ、複雑な出汁の香り、主張が強すぎてこれ単体でおつまみとして成立してしまいます。当然お酒に合う。止められない止まらない!

食べたら味付け海苔の概念が突き崩されること間違いなし。人生で体験しておくべきことのひとつ「大野海苔」。ホント大好き。結構な枚数があったはずなのに数分と持たず食べきってしまいました。

お次は「フィッシュカツ」(500円)の登場です。こちらも徳島を代表する食べ物で、徳島県東部では「カツ」といえば基本的に豚カツのことではなく、このフィッシュカツを指すとまでいわれるほどです。

  • 「フィッシュカツ」に添えてあるのは、すだちとマヨネーズ、ソース

フィッシュカツという名称ではありますが、実際は小松島市近海で獲れたイヨリやタチウオなどの白身魚のすり身をフライしたもの。こんがりとしたパン粉をまとった揚げ物の香り、そして当たり前のように添えられているすだち。非常に徳島感あふれる一皿です。

筆者が徳島で食べたときは、練り物屋さん(?)の作り置きされたものだったので、こんなアツアツを食べるのは初めて。サクサクで芳ばしい衣、次いでカレーのような香辛料のスパイシーな風味が広がります。徳島県内でフィッシュカツを製造している会社さんはいくつかあるそうですが、このカレーの風味は共通しています。

家の食卓にも上がることも多いフィッシュカツは、カレーの風味がすることからお子様にも人気で、おやつとしても支持されているそうです。

改めて食べてみると、カレーの香りの向こう側にかなりしっかりした魚の味がしますね。すだちを搾ると油がさっぱりしてより強く素材の味が感じられます。カレー風味の揚げ物なのでジャンクかと思いきや、ベースのすり身のクオリティが高く、ゆえに広く愛されているのかもしれませんね。

徳島発。日本一の地鶏を堪能!

続いてお願いしたのは、お店で人気な「にんにく醤油の唐揚げ」(900円=ハーフサイズ)です。使用されている徳島の地鶏「阿波尾鶏」は、地鶏出荷羽数日本一を誇ります。「サンチャ フカミ」さんでは、この「阿波尾鶏」のメニューだけで10種近くあり、さまざまな楽しみ方ができますよ。

  • やや厚めの衣の歯応えが楽しい「にんにく醤油の唐揚げ」

皮の付いた手羽の部位を豪快に揚げた物が2本。かなり大きな塊です。これでハーフサイズ! 驚くほどのボリュームです。

かぶりつくとジューシーなお肉の旨味が口いっぱいに広がります。普通のブロイラーではまず感じることのできない力強いお肉の味です。咀嚼するとバリバリ言うクリスピーな衣も、滲み出してくるにんにく醤油の香りもたまりません。

唐揚げって居酒屋メニュー的に定番のものですが、このレベルの地鶏を使った唐揚げはオーバースペックというか、もはや気軽に呼び捨てにできない感じ。「唐揚げさん」だな、これ。「さん」をつけて呼びます(笑)。

好みに合わせて、添えてある黒胡椒、山椒塩、カレー塩、マヨネーズでいただきましょう。個人的には山椒塩がおすすめです。脂と山椒の組み合わせってちょっと発明。旨すぎ。このボリュームをヘビーに感じる方には、すだちを搾ってさっぱりいただくのもいいですね。

そして、こちらも人気メニューということで「手羽先パリパリ揚げ」(580円=ハーフサイズ)を注文。もちろん「阿波尾鶏」を使用しています。

  • ゲンコツくらいあるのではという「手羽先パリパリ揚げ」

やっぱでかいな(笑)。普段食べる手羽先ってなんなんだと思うぐらいのサイズ感。手羽先大好きっ子で、手羽先をお腹いっぱい食べたい! って人は、ここに来たら秒で願いが叶うぞ。

パリパリに揚がった手羽先に胡椒がたっぷり。胡椒の辛さとお肉の味を存分に楽しむことができます。表面に対して、内側はジューシーでやわらか。このサイズの手羽先を手掴みで豪快にいただくのって最高に贅沢っすね。

そして締めに登場するのは「徳島らーめん」(850円)です。東京で食べたことがなかったんですが、三軒茶屋で出合えるとは……!

  • 「茶系」と分類される「徳島らーめん」

なんでもこちらのお店ではスープから作っているそうです。メニュー数が多いお店なのにラーメンまで仕込んでいるなんて、すごいですね。

「徳島らーめん」は、豚バラと卵の黄身が乗っているのが特徴。まさにイメージ通りのやつです。

  • ストレートな細麺

豚骨醤油のややドロッとした濃厚なスープをしっかりと麺に絡めて一口目。ガツンとくるこの味わい、なかなか他に代わるものがないので、たまに食べたくなるんですよねー。そして細いわりに力強い歯応えのある麺は、小麦の主張が強く、スープにも負けていません。奥歯で噛みしめてしっかり味わいます。

トッピングの豚バラ肉は醤油、みりん、ニンニク、生姜で甘辛く味付けされていてスープとは違う味わいをもたらしてくれます。メンマはよく見かけるものより大きめで、だいぶやわらかい。

そしてネギに卵。ノーマルな状態である程度楽しんだら、生卵を崩して、マイルドさプラス。残りを一気にかっ込みます。ごちそうさまでした。

こだわりの徳島料理を妥協なく

「サンチャ フカミ」さんに入って、まず目を引くのはこの容器です。おそろしい量のすだちが焼酎に漬け込まれています(笑)

  • 皮を剥いたすだちがぎっしり詰まっています

徳島・神山町のすだちを使用したこのお酒で割った「すだちハイボール」(550円)や、生ビールに果汁を加えた「すだち生ビール」(650円)など、すだち特有のさわやかな香りと渋みを贅沢に楽しめます。もしかしたらこのお店、東京一すだちを消費している店かも、ですね(笑)

  • ご店主の深見正人さんも徳島出身

三軒茶屋にオープンして11年が経つ「サンチャ フカミ」さん。徳島出身の店主・深見正人さんが使用する材料は、水や塩にまで妥協せず、化学調味料無使用です。徳島の食材をおいしくお客さんに届けるべく練、りに練ったメニューの数々が揃います。

個人のお店さんでこれほどの品数、しかも自分でラーメンのスープまで仕込んでいるのだからすごいの一言。ボリュームもたっぷりなので間違えなく満足できます。三軒茶屋にくれば住宅街の真ん中におしゃれな徳島があるでないで!

<店舗情報>
「サンチャ フカミ」
住所:東京都世田谷区太子堂3-14-8
営業時間:18:00~24:00(現在は新型コロナ感染症対策のため22:00閉店)
定休日:火曜日

※価格は全て税別

取材・文=古屋敦史、構成=小山田滝音(ブラインドファスト)