夫婦の財産は、それぞれどのように考えていますか? 専業主婦であれば、協力して家庭を築いているので、財産の半分は自分のものと考えているかもしれません。相続上の法律もそのようになっていますが、それは相続した時の話です。2人でお金を出し合った家財などは別として、基本的に財産は個人のもので、夫婦2人のものは存在しないのです。

住まいを取得する際に夫婦の共有名義にすることもあるかと思いますが、それはあくまで持ち分に応じた個人の財産なのです。夫婦間の問題をあまりシビアに考える必要はないと思うかもしれませんが、相手の働きを尊重するからこそ、働きに応じた分配が当然だと思います。特に住まいは大きな財産ですので、名義の配分もしっかり考えて決めることが大切です。

夫婦の働き方と将来の変化

住宅ローンは長期間にわたって返済していかなければなりません。注意するべき点は、将来起きるかもしれない不測の事態です。人生は何が起きるかわかりません。当初考えた通りにはいかないのが普通です。

共働き世帯は収入が多くなり生活も広がりやすいですが、住宅ローンは大きな借金には違いありませんので、余裕をもって借り入れることが大切です。同時に、夫婦それぞれの寄与分を日ごろからきっちり財産に反映していくと、その都度問題点を見直す機会にもなります。

夫婦の間できっちり日ごろから財産配分していくのはなんとなく違和感があるかもしれませんが、相手への感謝を込めてしっかり考えていくことは大切です。相続時に起きるトラブルは、この部分をあいまいにしてきたことによるものが多いように思います。

住宅取得における共有名義の考え方

図1は、共働き夫婦がそれぞれ同額のローンを借り入れて、頭金も諸経費も同額拠出し、名義を50%としたケースです。実際はどちらかの頭金拠出やローン負担額に違いがあるでしょう。大切なのは、負担した金額に応じてきっちり名義の持ち分を振り分けることなのです。これは諸費用も同様です。

  • 図1 共働き夫婦の住まいの取得金配分

図2は、同じく共働き夫婦で、妻が住まいの取得価格の半分を現金で拠出したケースです。住宅取得資金については親などからの贈与に特例があり、親が資金提供してくれるケースは少なくありません。頭金として妻が現金で拠出した額と夫の借入額が同じであれば、名義は50%ずつとなります。ただし、諸費用の中の火災保険や登記費用は折半ですが、ローン借り入れに関する諸費用は全て夫の負担となります。

このケースでは、月々の返済に関してはあくまで夫の負債なので妻は関係ありません。毎年の余剰金配分は、ローンの返済分妻の預貯金が増えていくはずです。さらに、小遣いの額や家事分担比率が加わります。このケースで夫が自分の預貯金を増やそうと思ったら、小遣いを減らすか、妻よりも家事分担を増やすなどする必要があります。

  • 図2 妻が取得費の50%を現金拠出した場合の資産形成

分かりやすくするために極端な例で説明しましたが、共有名義とはこういうことなのです。誰がどれだけローンを組み、自己資金を拠出するかは、大きなお金だけに慎重に考えたいものです。借りたい金額や借りられる金額、頭金などに拠出できる金額にもよりますが、不測の事態に対処できるようになっているかどうかも大切な検討事項です。そしてきっちり管理をすると、物事が明確になり生活も膨らみにくくなります。

こんな時はどう対処できるのか考えておこう!

配偶者が死亡

悲しいことですが、どのように対応するか考えておきましょう。債務者が死亡の場合は団体信用生命保険が有効に働いてくれます。しかし、連帯債務者や連帯保証人が死亡した場合に対しての対処方法を考えておく必要があります。フラット35の「デュエット」などは夫婦で団体信用生命保険に加入できますが、一般的には加入できるのは直接の債務者のみです。

けがや病気で働けなくなった

団体信用生命保険のカバー範囲が広がる傾向にあり、「働けないけれど保障の対象にはならない」というケースにも少しずつ対応されてはきています。しかし、支払い対象にならない障害やけがもまだありますし、職種による違いもあるでしょう。配偶者がどこまでカバーできるか、それぞれの団体信用生命保険の保障内容や、その他の保険なども合わせて調べておきましょう。

不況などで夫婦の収入が少なくなった

これも考えられるケースです。共働きでも、目一杯借り入れずに余裕をもってローンを組みましょう。少なくとも、ボーナスは大きく変動します。ボーナスはあくまで+αの収入なので、住宅ローンの支払いには組み入れないことが賢明です。

出産後、妻が働けなくなった

保育所不足が社会問題になっていますが、夫婦でローンを借りたけれど、出産後妻が社会復帰できず、その分の返済が大変になるケースは十分に考えられます。妻のローンを夫が肩代わりする場合は、それが実際に問題視されるかどうかは別として、法律上は「贈与」となり、額によっては贈与税がかかります。贈与税は年間110万円の基礎控除分がありますが、5年間の休業中の400万円を肩代わりする約束は400万円の贈与とみなされます。

離婚に至った

離婚を想定して住まいを取得することは考えにくいケースですが、夫婦それぞれの寄与分を日ごろからきっちり財産に反映していれば、離婚時のトラブルを軽減することができます。

どちらも会社員の夫婦や会社員と専業主婦の場合は、資金の拠出と返済の寄与分はまだ分かりやすいですが、農漁業や個人商店、自営業などの場合は寄与分があいまいなケースがあります。住宅メーカーで営業の仕事をしていた時は、年間200組ほどのお客様と対しましたが、寄与分を明確にしてきた夫婦ほど上手に貯蓄ができ、住まいづくりも上手であったと実感しています。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。