「まだ貯金は少ないけど、家賃がもったいないので住まいを早めにほしい」「貯金の中からどのくらい頭金に拠出するのが妥当なのか」…… など、住宅ローンの借り入れに際しては悩ましいことがいろいろあります。

安心して住宅ローンを借り入れるためには頭金の設定をどうすればよいのでしょうか。年齢や置かれた状況別に適正な頭金の考え方を考えてみましょう。

  • 住宅ローンの頭金、どれくらい必要?

年齢で異なる頭金の割合

頭金は多い方が安心なことは当然ですが、頭金が少ないことによるリスクは年齢によって違います。若い世代は比較的冒険ができますが、子供の教育費がかかる世代はより慎重にならざるを得ません。その他の資産(金融資産、不動産やその他の資産、能力的資産、親の支援など)の有無によっても違うでしょう。

万一の場合に対応できる余力が多ければ、頭金が少なくても切り抜けられる確率が高くなります。住宅ローンを借りる場合は、万一の場合の対応力を高める工夫を考えておきましょう。リスク回避には二人で働くことが一番です。今はいろいろな働き方が可能です。子育て中でも社会で通用するスキルを維持する努力を怠らなければ、万一の場合は安心です。

頭金20%準備したら、破綻の割合が減る?

長年、頭金は20%確保することが住宅ローンを借り受ける条件になってきました。住宅金融支援機構の前身である住宅金融公庫では、返済が苦しくなった場合に返済期間の変更等の相談に応じたケースに、頭金20%を準備したケースは少なかったそうです。きちんと貯金できる生活スタイルと、頭金が多い分、借り入れる金額が少ないことが要因だと思います。昔からの頭金20%はそれなりの意味があるようです。諸費用への拠出分も考えると、もう少し現金が必要となります。

頭金の額だけで考えられない住宅取得の時期

住まいを取得する最適の時期は頭金がたまった時だけではありません。下記のほかにも個別に考えればいろいろあるかもしれません。結婚した時、親との同居、土地を相続した、遺産として現金が入った、転勤・転職など様々でしょう。その中で、問題となりそうな項目を列記して、対処方法を考えてみてください。

災害リスク

現在老朽化している住まいに住んでいて建替えたいと考えているケースは、頭金が完全に貯まるまで待つのが良いかどうかはわかりません。首都圏にも大地震がいつ来てもおかしくないと言われている時代ですので、安全面からも考えることも大切です。

家賃リスク

高い家賃を支払っている場合は、その分貯金額も少なくなります。頭金はまだ少ないけど、家賃よりは住宅ローンの返済の方がよいと考えるのは当然です。頭金が少ないことと家賃を支払わなくてはならないリスクのどちらが問題かを天秤にかけてみましょう。

子供の就学

子供の就学に合わせて住まいを取得するケースは多くあります。私も経験がありますが、転校は子供にとってかなり負担です。人間にとって「故郷」と言える場所はとても大切なものです。子供にそれを与えるのは親の役割です。

年齢が高くなることへのリスク

年齢が高くなると返済の負担も増します。若い頃からの準備するのが一番ですが、なかなかそうもいきません。頭金がたまるまで待つか、早めの取得かはしっかり考えることが重要です。そのためには生涯収支表を作成し、収入と支出と預金の推移をシュミレーションしてみるとはっきりします。

万一の時のための現金キープ

預貯金をすべて頭金に流用すると、緊急に医療費等が必要になったときに困ります。ほかに頼るあてがなければ、ある程度の現金は残しておく必要があります。

一般論としての頭金として必要な額は、取得価格の20%です。しかし、個々のケースに当てはまるとベストの選択は様々です。大切なことは今後どのような問題が起きうるかの想定と、それぞれの問題点に対して自分たちがどのように対処ができるのかをあらかじめ考えておくことです。細かく計算が必要な時は生涯収支表を作成し、完済までの期間や平均余命までの期間の収入と支出と預貯金の推移を見て、取得時期によってどんな違いがあるのか、リスクはどちらが大きくなるかを検証してみるのが良いでしょう。

■ 筆者プロフィール: 佐藤章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。