青森市と函館市を結ぶ交通手段は新幹線の他にフェリーもある。現在、津軽海峡フェリーと青函フェリーの2つの航路が運航している。両市を結ぶ在来線旅客列車がなくなったことにより、新幹線より安く青森~函館間を移動できる手段はフェリーのみとなった。
そこで、青森からの帰路はフェリーに乗船し、はたしてフェリーは新幹線の代替交通手段となりうるのか、確かめてみた。
青森港から青函フェリーに乗船、クーポン利用で1,440円
青森駅から青森港までは循環バスでの移動となる。青函航路で運航する2つのフェリーのうち、津軽海峡フェリーは船によるがベッド付きのスイートや特等室(和室・洋室)、リクライニングシート席、犬と一緒に乗れる個室などを用意し、車両輸送に加えて旅客輸送にも力を入れている。青函フェリーも旅客輸送を行っているが、地元ではどちらかというと「貨物トレーラーが乗る船」というとらえ方をされており、その分乗船料は少し安い。今回は時刻の関係で青函フェリーに乗船することとした。
フェリーに乗る際は、航送申込書なる書類に住所・氏名などを記入する必要があるが、車なしで乗船する場合は簡単に書き終わる。これを受付に提出すると、乗船券がその場で発券される。手続き自体はとても簡単だ。乗船料は10月から5月まで1,600円、6~11月は2,000円。電話予約をした上で、青函フェリーのウェブサイトにあるクーポンをスマートフォンに表示して受付で提示すれば1割引となる。今回はクーポン利用で1,440円で乗船した。新幹線の料金の高さに比べると、夢のような値段だ。
客室は青函連絡船時代をほうふつとさせるカーペット敷き。適当に隅のほうに陣取り、枕を確保する。14時37分、定刻より2分ほど遅れて船が動き出した。15時頃には陸地からかなり離れ、青森市内の建物がかすかにしか見えなくなる。
船内はカップ麺と飲料の自動販売機があるが、それ以外に売店などはない。テレビはロビーに1台設置されている。3階には窓に面した簡易的な座席があり、休憩や飲食に利用できる。その外は遊歩甲板となっており、進行方向は見えないものの、開放的な景色と海風を感じることができる。思ったより揺れもなく、意外と快適だ。乗船時間は約4時間。さすがに途中ですることもなくなり、寝てしまった。
目を覚ましても、まだ見渡す限り海の上だった。エンジン音もうるさくなく、揺れもほとんどないのでゆっくりと寝られる。ゆったりと手足を伸ばして眠れる分、ある意味では新幹線より快適なのかもしれない。無意識のうちに、新幹線は速達性や正確さなど総合的に高品質なサービスが求められる移動手段で、フェリーはそれより気楽な旅の手段ととらえているのかもしれない。新幹線にあってフェリーにないものは、自分専用の席と電源コンセント、そして車内販売くらい(津軽海峡フェリーでは売店や指定席がある船も運航している)。携帯電話の電波は海上でも意外と通じる。
夕闇の迫る18時44分、函館港に到着。安全のため、旅客が下船できるのは車両がすべて降りてからとなるので、さらに10分ほど待たなければならない。
結局、船を降りて再び陸地を踏んだ時には19時を回っていた。最寄りのバス停から函館駅に向かう一番早いバスは19時32分発(平日)で、函館駅到着時刻は19時44分となる。青森駅からフェリー乗り場行きのバスに乗った時刻が13時25分なので、乗船時間は正味4時間でも、青森駅から函館駅までの移動に6時間以上かかったことになる。
青函圏の住民の視点から、北海道新幹線に望むことは
フェリー自体は思いのほか快適で悪くはないが、いくら安くても新幹線利用時より4時間も余計にかかるとなれば、日常的な移動手段として使うのは少し厳しい、というのが率直な感想だ。出港30分前までに乗船受付を済ませなければならないという点も、ギリギリに飛び乗れば良い新幹線とは異なる。ただし、深夜に出て朝到着する便などをうまく使えば、有効に活用できそうだ。
今回、青森~函館間を新幹線とフェリーで移動したが、「新幹線も意外と悪くないし、フェリーも所要時間の長さを気にしなければそれなりに快適だ」という無難な結論に落ち着いてしまった。要望があるとすれば、北海道新幹線がもっと割安に利用できるきっぷを設定してほしい、ということくらいだ。
整備新幹線の諸問題を研究する青森大学教授の櫛引素夫氏も、「青函圏の住民の視点に立てば、ダブルきっぷの導入、フリーエリア付きのきっぷの期間限定発売など、もう少し地元の人間が使いやすくなる、使う気が起きる施策がないと、地元の人々の心が離れ、新幹線という存在そのものが支持されなくなる可能性があるのでは」と指摘する。
青森市民の現状についても、「北海道新幹線開業で道南への関心自体は高まっているものの、『フェリーでいいかも』という人がいるのは確か。開業前には、『新幹線開業後は高くなるから、いまのうちに行っておこう』という人が多くいたという話も聞きます。乗換えの発生や価格設定によって、青函交流の機運が削がれる危険性は大いにあるでしょう」と櫛引氏は話す。
ともあれ、青函圏が北海道新幹線で結ばれた以上、両地域の住民は評論家になることなく、「自分たちごと」として北海道新幹線をとらえなければならない。櫛引氏は取材の最後に「新幹線観光や狭義のビジネス客ばかりを俎上に載せていては議論が狭くなります。医療資源の活用といった『人口減少時代の再デザイン』という視点で、地域を見直す機会・装置としての新幹線を考えてはどうでしょうか。地域の生存確率を高める上で、近隣の人々と連携することの意義は必ずあるはずです」とそのヒントを教えてくれた。