来年のNHK大河ドラマは、上杉氏の家臣であり「義」を貫いた武将・直江兼続(なおえ かねつぐ)が主人公の『天地人』。兜(かぶと)に「愛」と掲げていた武将です。その影響からか、"戦国もの"がスゴイことになっているとの話を聞き、急遽取材を敢行。戦国を扱った小説やドラマなどは昔から人気が高いものの、最近はその人気の内容も大きく変わってきているようです。
まずは、戦国もののダイナミックで深~い世界を覗いてみましょう。
ありそうでなかった書店「歴史時代書房 時代屋」
神田の古書店街から少し離れた靖国通り沿いにある「歴史時代書房 時代屋」。店に入ると右手の壁に「日本一の品揃え 時代小説の作家四○○人勢揃い」の大きなパネルがあり、司馬遼太郎、池波正太郎、藤沢周平などの大御所をはじめとした錚々(そうそう)たる顔ぶれが並んでいます。
「このお店を始めるときに、歴史時代文庫として400人の作家をピックアップする作業をしました」と女将の宮本さん。400人を選び、その作家の作品はすべて揃えることが目標に掲げられたそうです。
神田小川町に時代屋の第1号店がオープンしたのは、2006年2月のこと。立ち上げたのはリサイクル書店のブックマートです。ブックマートでは時代小説、歴史小説の需要は高いのになかなか入手できないところに着目。リサーチを行いこの分野の専門店をつくることにしました。
「時代小説は人気が高い一方で、作家の作品をすべて揃えている書店というのは意外と少ないんです」。確かに宮本さんの言うとおりかも。大きな書店でも、全作品がいつも並んでいる時代小説の作家というのは、かなり限られているのではないでしょうか。
400人の作家の作品がほぼ確実に入手できる書店。時代屋はこれまでありそうで実はなかった書店なのです。
女性が好きな戦国武将は石田光成? 一方男性は……
オープン当初、お客のターゲットは40~60代。実際、8割はその世代の男性客でした。が、その後急速に若い女性客が増加し、現在では男性6割に対し女性4割。土日は女性客で混み合うのだとか。
「いろいろな理由はあると思いますが、『戦国BASARA』や『采配のゆくえ』などのゲームがきっかけで戦国にはまった女性は多いですね。NHKの大河ドラマの影響も大きいと思います」。また、時代小説の"ライト化"も、若い女性が気軽に戦国ものを手にする要因のひとつなのでは、と宮本さんは指摘します。
男性は、会社での自分の立場などを重ね合わせたりして、時代を生き抜く処世術などを時代小説から読み取ろうとする傾向も強く、武将の生き方、組織のあり方などに関心があるのでは、と思いますが……
「女性はまったく違いますね。武将はいわばアイドルです。それも徳川家康のような"勝ち組"の武将ではなく、上杉謙信や石田三成など"負け組"の武将に思いを馳せる方が圧倒的に多いようです」
なるほど、日本史の授業などでは天下を治めた側を取り上げますが、ゲームや小説では負けた武将も登場します。そこで憧れの対象、つまり自分のアイドルと出会ったというわけですね。そして、女性はグッズを求めるそうです。
「それも、身に着けるグッズが人気です。1番は家紋。携帯ストラップや携帯に貼り付けるシールなどさまざまな家紋をあしらったものがあります」
一方、男性に人気のある武将もやや変わりつつあるとのこと。「以前は、信長や秀吉などの人気が高かったのですが、最近は漫画やパチンコにも登場した前田慶次でしょうか。剣豪であり、カブキ者というか、ちょっと世間からはみ出した人物ですね」
前田慶次は、隆慶一郎の小説『一夢庵風流記』や、そのコミカライズ作品『花の慶次-雲のかなたに-』のほか、さまざまなゲームにも登場するキャラクター。人気があるのは漫画やゲームの影響だけなのか、それとも時代の空気というのも関係があるのでしょうか。
ちなみに慶次というのは漫画での名前で、慶次郎などの通称を持っていましたが、歴史的には前田利益(とします)。本当の人物像については不明な点も多いとのことです。
目標は「天下統一」!?
1階は書籍、2階はグッズはもちろんのこと、時代もののDVDも並びます。グッズのニーズは年々高まり、オリジナルグッズを含め、これまでにはおそらくなかった、可愛らしい武将キャラや幅広い和物も。2階奥には茶屋のスペースがあり、ユニークなメニューが用意されています。ところで、今後は?
「これからの目標は『天下統一』ですね(笑)。各県にひとつ、その地方ならではの歴史テーマを掲げた時代屋をつくっていきたいと考えています。それから書き手の発掘も目指していきます」。
後編では戦国武将と変わり兜のデザインブランドを展開する「もののふ」をご紹介します。