アニメや童話で有名なムーミン。でも、その物語の中で、彗星大接近、地震、洪水、たつまき……、などといった自然災害が数多く描かれていることをご存知でしょうか? とはいっても、決して暗い話ではなく、なんとなくユーモラスで、時にシュールで、しばしば哲学的なのがムーミンの世界。そこで今回は、ムーミングッズであふれたショップ「PEIKKO」をご紹介します。
男性客も結構多い「PEIKKO」
錦糸町から両国方面へ、北斎通りを5分ほど歩くと「PEIKKO」に到着します。この「ペイッコ」とは、フィンランド語で妖精のような生き物のこと。
「PEIKKO」は今年オープン5周年。店内には、海外で作られたグッズや日本のグッズなどが、びっしりと並べられています。「お客様の層は幅広く、お子さん、それから大学生からお年寄りまで。ただ、中高生は少ないですね。男性の方も、多くいらっしゃっています」。スタッフの塚本桂子さんは、そう教えてくれました。
地元フィンランドでは、ムーミンはもちろん大人気ですが、世界的に見れば、日本はそれに負けないムーミンの国。やはり、アニメの威力は絶大なようです。親しんでいたのが、昭和ムーミンであれ、平成ムーミンであれ、結局は、みんなムーミンの世界に魅了され続けています。
なお、震災後の3月17日から6日間、銀座三越の催事場でムーミンのイベントが開催されました。中止せざるを得ないのかと思われたところ、実際に開催されると大盛況で、土日の催事場最高の売り上げを記録したそうです。「PRIKKO」への来客数も、震災後さらに伸びているとのこと。
その理由は、ムーミンの物語に貫かれている世界観に関係があるのかもしれません。
あなたは平成? 昭和? ムーミンの世代問題について
ところで、その前に、まずは、世代問題(?)について……。レンタル店でDVDを借りて、「主題歌が違う! ムーミンの声が岸田今日子じゃない!!」と驚いた方は40代以上のはず。
今、流通しているのは、1990年から92年にかけて放送された「楽しいムーミン一家」(途中からは「楽しいムーミン一家 冒険日記」)で、いわばムーミンの平成版。最初のアニメシリーズは、1969年から70年と72年に放送された昭和版ですが、こちらは残念ながら、現在DVD化されていません。
ムーミン童話は意外とハード?
ムーミン童話全集は9作品が講談社より出ています。トーベ・ヤンソンが最初に書き上げたのは、別巻の『小さなトロールと大きな洪水』。はじめから天変地異が盛り込まれています。フィンランド文学研究家の高橋静男氏は、トーベ・ヤンソンの世界観には戦争の影響があると解説しています。
「三歳から三十歳ころまでの間に、第一次世界大戦、隣国ロシアの十月革命、第二次世界大戦があり、フィンランドは、フィンランド人同士が戦ったり、ソ連やドイツとも戦いました」(全集7『ムーミンパパ海へいく』解説より)
自分の生活を脅かすものへの不安は、彼女にとって大きなテーマだったに違いありません。
全集1は『ムーミン谷の彗星』という、彗星が大接近してくる危機を描いたもの。4巻の『ムーミン谷の夏まつり』では火山噴火や洪水、6巻『ムーミン谷の仲間たち』ではたつまき、などと、いつも物語では、たいへんなことが起こっています。
また、3巻『ムーミンパパの思い出』では、ムーミンパパが捨て子だった過去が明らかになり、7巻『ムーミンパパ海へいく』では、一家がムーミン谷をはなれて孤島へ移住するのですが、夫婦喧嘩になったり、みんな我を見失ったり……。
ほんわかとしたムーミン谷の生活を思い浮かべていると、実際は、かなりいろいろなことがあって、それも深い問題だったりするのですが、それが深刻なはずなのに、そうも見えなかったりします。
ちびのミイはスナフキンのお姉さん!
日本でダントツの人気を誇るのが、スナフキンとちびのミイ、なのですが、このふたり父親の異なる兄弟って知ってました? しかも、ちびのミイがお姉さんなんです。
聖心女子大学教授の冨原眞弓さんは、著書『ムーミンのふたつの顔』の中で、トーベ・ヤンソンにとって、「スナフキンは純粋にあこがれの対象であり、ミイはこうありたいと願う自己投影なのだろう」と記しています。
印象的な言葉をしばしば口にするのも、このふたりの特徴です。
・「生きるってことは、平和なものじゃないんですよ」スナフキン(たのしいムーミン一家) ・「たいせつなのは、自分のしたいことを、自分で知ってるってことだよ」スナフキン(ムーミン谷の夏まつり) ・(一緒に住んでいたおばさんに毎日皮肉を言われ、姿の見えなくなった女の子ニンニに対し)「この人はおこることもできないんだわ」(…)「…たたかうってことをおぼえないうちは、あんたには自分の顔はもてません」ミイ(ムーミン谷の仲間たち)
童話のほかに「ムーミン・コミックス」もあり、未読の方にはオススメ。
この3巻「ムーミン、海へいく」の中の「ジャングルになったムーミン谷」は、まさにムーミン谷が酷暑におそわれる話。冒頭の方で、みんなが暑さを嘆いて心配しているのに、ミイは水の入った壺に顔半分まで浸かって、「あたしはなんだって平ちゃら!」とこちらを見ている場面があるのですが、個人的には大好きなワンシーンです。
なお、1914年8月9日はトーベ・ヤンソンの誕生日で、この日は「ムーミンの日」に制定されています。「PEIKKO」でも、「ムーミンの日」にはキャンペーンなどが行われます。
スナフキンとミイは、父親が異なる弟と姉! トーベ・ヤンソンは「わたしがいちばん好きなのは、ちびのミイです」と語っている(前出『ムーミンのふたつの顔』) |
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