江戸時代から明治、大正、昭和まで、さまざまなスタイルの建築物が目を楽しませてくれる「江戸東京たてもの園」。7万平方メートルもの敷地に27の建物が点在していて、じっくり見学すれば1日がかりです。桜並木が広がる都立小金井公園に隣接しているので、この春は今までと趣向を変えた花見はいかが?
三井財閥の豪邸を見学
都立小金井公園(JR武蔵小金井駅、西武鉄道花小金井駅などからバス利用)そのものも、約79万平方メートルの広さ。東京ドームの約17倍! です。50種類、約1,700本の桜が見られる名所としても知られています。
「江戸東京たてもの園」のビジターセンターは堂々たる旧光華殿で、これは1940(昭和15)年に行われた紀元2600年記念式典のため、皇居前に仮設された式殿。その翌年にこちらへ移築され、1993(平成5)年、江戸東京博物館の分館として「江戸東京たてもの園」が開園される際に改修されました
園内は、西、センター、東の3ゾーンに分かれています。まず西ゾーンから眺めていくと、茅葺の民家が奥に建っていて、江戸時代後期の農家の暮らしに触れることができます。そして、目を引くのが立派な豪邸。三井財閥の総領家、三井八郎右衞門邸です。主屋は1952(昭和27)年、土蔵は1874(明治7)年の建設とのこと。
内部も見学可能。日本家屋ながら、ベッド、テーブル、イスなど洋風の高級家具もそろっていて、同家の栄華が偲ばれます。特に、2階の仏間前の廊下に飾られているシャンデリアは豪華。もともとは、1872(明治5)に誕生した日本最初の銀行、第一国立銀行にあったものだそうです。
ル・コルビュジエの弟子、前川國男邸
西ゾーンで人気が高いのは前川國男邸。近代建築の巨匠ル・コルビュジエのもとで学び、戦後日本建築のリーダー的存在だった前川國男の私邸で、1942(昭和17)年に品川区上大崎に建てられました。戦時下で資材不足だったため、窓のレールに木材を利用するなどの工夫がされています。
左右対称の建物はシンプルで力強い印象。吹き抜けとなった居間は、大胆に一面が窓で明るい光がいっぱいに差し込みます。居間は21畳とのことですが、とても広々とした空間を演出しています。その一方で、北側の雨戸はいちいち冷たい風を入れなくて済むように窓の内側に作られていたり、とアイデアにも富んでいます。
建築ファンは必見ですし、そうでなくても見どころにあふれているので、ぜひじっくりと見学してみましょう。なお、前川國男の代表作としては、東京文化会館、国立国会図書館、紀伊国屋書店新宿店ほか、東京海上ビルディング(現、東京海上日動ビル本館)などがあります。ちなみに、前川事務所では丹下健三も学んでいました。
二・二六事件の現場のひとつ、高橋是清邸
センターゾーンで見逃せないのは、高橋是清邸です。大正から昭和初期にかけて、大蔵大臣、総理大臣などを歴任し、「ダルマ蔵相」と親しまれた高橋是清は、昭和金融恐慌を乗り切ったり、世界恐慌によるデフレからいち立ち直らせた名蔵相として、今でも注目されている人物。『坂の上の雲』にも出てくるように、現在の開成高校の初代校長を務め、正岡子規や海軍中将の秋山真之は彼の教え子でした。
1934(昭和9)年には、同校の教え子である岡田啓介首相のもとで、6度目となる大蔵大臣に就任します。しかし、軍事予算の縮小を目指したため、1936年2月26日早朝、自宅2階の寝室で、青年将校らに暗殺されました。いわゆる、二・二六事件です。
邸宅があった場所は、港区赤坂7丁目の高橋是清翁記念公園。主屋部分が移築されているだけではなく、庭園の一部も復元されていて、当時の雰囲気をうかがうことができます。
『千と千尋の神隠し』のモデルにも
東ゾーンには、懐かしい昭和の下町風情があふれています。前面がタイル貼りになっているレトロな看板建築は、都内ではほとんど見られなくなりましたが、ここの「下町中通り」には軒を連ねています。
うれしいのは昭和初期の建物風景が見られるだけではなく、路地の様子も再現されていること。「懐かしい!」と目を輝かせる人もいるはずです(ある程度、年齢がわかってしまいますが)。
アニメファンにとっては、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』のモデルとなったといわれている建物があるので要注目。というか、ファンならとっくに知っていることでしょうけど……。文具店の武居三省堂(たけいさんしょうどう)や、子宝湯など宮崎アニメの世界を思い起こさせる建物が待っています。
子どもから大人まで楽しむことができる「江戸東京たてもの園」。年に1度の桜の季節を、今年はここで迎えてみませんか。