誰でもなじみのある百貨店。だけど、知らないことはいっぱいありそう。実際、お店の人の話をじっくり聞くという機会はそうそうないもの。ましてや、知られざるバックヤードとは絶対無縁……。と思っていたら、今年6月から東武百貨店で「店内ミニツアー」が月1ペースで開始され大好評、9月からは週1回の開催となりました。では、そんなツアーに早速参加してみましょう。

まずは東武と根津美術館の話を少々

「店内ミニツアー」の発案者は東武百貨店の社長さん。で、社長さんは南青山にある根津美術館の館長……。知らない人にとっては「??」といった話かもしれません。そこで、まずはキホン的なお話しを。

「根津美術館は、東武鉄道の社長などを務めた実業家・初代根津嘉一郎(1860~1940)が蒐集した日本・東洋の古美術品コレクションを保存し、展示するためにつくられた美術館です」(根津美術館HPより)

二代根津嘉一郎が、1940(昭和15)年に財団を設立し、その翌年に根津美術館が開館しました。そして、現在の館長は東武百貨店社長、根津公一氏というわけです。根津美術館はたびたび訪れるという人でも、意外とご存じなかったのではないでしょうか。

根津社長は、美術館の学芸員ツアーをヒントに、「店内ミニツアー」を発案したのです。

さまざまなテーマのツアーを提案

さて、「店内ミニツアー」は、毎回、魅力的なテーマをかかげています。9月前半には女性限定で夏バテ対策商品を紹介する「美と健康と癒し」が実施され、大きな反響があったとのこと。後半は「メイド・イン・ジャパン」。世界に誇る日本の技術をテーマとしています。今回は、実際にこちらのツアーに同行させていただきました。

ツアーは毎回10名定員で料金は無料。開催約2週間前から電話予約を受け付けています。時間は10時15分からおよそ2時間。地下1階の3番地案内所前が集合場所となっています(詳細はHP参照)。

まず、一行が向かったのは地下の和菓子店「金沢和音」。創業100年の歴史を誇る金沢の老舗です。店頭に並ぶ多彩な和菓子を丁寧に説明してもらいますが、これだけじっくりと話を聞く機会は普段の買物ではなかなかありません。もちろん、「買うつもり」のときはいろいろ吟味はするとは思いますが、それでもここまで詳しい話はできないことでしょう。

定番の「おはぎ」は、風味豊かな北海道産の大納言小豆、コシが強くなめらかな北陸産の新大正餅米などを使った極上の逸品。それを試食させてもらいました。店内で作りたての「おはぎ」は、ほんのりとあたたかさが残り、甘さはすっきりとしていて本当に上品な味わいです。一般的なものに比べると小さめなので、上生菓子のような気品が感じられます。

さらに、石川県特産の「加賀棒茶」というほうじ茶も。香り高くさっぱりとしたこのお茶は、「おはぎ」にぴったり。きっとほかの和菓子とも相性がいいのは間違いありません。

お店の人が商品を説明してくれる。「金沢和音」は関東に出店して5年目を迎える

小ぶりの「おはぎ」は「金沢和音」の大人気商品のひとつ

団子はひと串2個なので、とっても食べやすい。どれもおいしそうで迷ってしまう

買物のときには遠慮して聞けないことも、ツアーではいろいろと質問することができる

「和」の生活を改めて見直す

次に6階の「群言堂」(ぐんげんどう)へ。世界遺産に登録された島根県石見銀山に本店を構えるお店で、古いものを復元しつつ、新しい価値を付加し創造する「復古創新」をコンセプトとして、古民家の再生・活用、エコロジーなどに取り組んでいることで注目されています。店の名前は、みんなで話し合い決めることを意味する中国の言葉が由来とのこと。東武百貨店内のこちらの店は、9月初頭にオープンしたばかり。東京には、上野桜木と高尾駅にも店舗があるそうです。

着心地のよさそうな服や、手ざわりのいい手ぬぐいなどが並びますが、手づくりのジャムや味噌などもあります。今回、特にご紹介いただいたのは「風呂敷ハンド」。かばんの取っ手のようなもので、これを風呂敷と結び合わせると……、「風呂敷バック」の出来上がり。簡単に作れてしまうし、持ち運びも便利そう。もちろん、風呂敷それだけでも「応用力」のある優れモノですが、それをさらにバージョンアップさせるのがこの商品です。

9階のきものサロンでは、久留米絣(かすり)の製作工程と機織の体験。藍色の久留米絣は、もちろん着物が主流ですが、今では洋服も珍しくありません。ひと口に藍色と言っても、その風合いはさまざまで色彩の豊かさに改めて驚かされます。

何よりも、びっくりしたのは、久留米絣を発明したのが、12歳の女の子だったということ!! 今から200年ほど前、井上伝という少女が、部分的に染めた織り糸を使い、ところどころかすれたような模様を織り出す方法を発明し、それがもととなって久留米絣が完成されたというのです。

その製造工程では、図案の通りに、藍で染まる部分と染まらない部分をつくる「くくり」や、実際の藍染などが紹介されますが、自然の不思議さも感じられる作業にちょっと呆然としてしまいました。さらに、機織。模様がずれないように織り上げていくわけですが、さっさっと進められていた作業は、実際に体験してみると頭と手足が大パニックに。伝統工芸のスゴさに打ちのめされた気分でした。

「風呂敷ハンド」を使った「風呂敷バック」の作り方を実演してくれる

完成したバックを、参加者は興味深くチェックしていた。取っ手が持ちやすいと好評

自然な素材を重視した服などが多く、幅広い年齢層に人気が高い

お店のコンセプトなどが綴られた書籍も。「根のある暮らし」という言葉がこのお店をよく表している

職人さんによる機織の実演。なんだか簡単そうに淡々と作業を進めているが……

わかりやすいパネルや実際に使う道具や素材などを使って久留米絣の解説が行われる

重要無形文化財にしていされている作品も展示されている

参加者のみなさんで機織を体験。その難しさは、実際にやってみないとわからない

いよいよ禁断!? の商品試験室へ

最後に案内されたのは、関係者しか入れない商品試験室。百貨店のバックヤードに潜入です。商品試験室は、学校の理科室のような雰囲気で、いろいろな検査機器が並んでいます。10人ほどいる係りの方も白衣に身を包んでいて、百貨店とはまさに別世界。

ここでは商品の事前検査や表示チェックなどが行われています。東武百貨店では、ちょうど北海道物産展が開催されていましたが、そのような実演販売の衛生検査や指導も厳しく実施しているとのこと。お客からのクレームに対しての検査も担当しています。

また、定期的に弁当やケーキなどの抜き取り検査も実施し、つねに商品の安心・安全を心がけているので、利用者にとってはなんとも心強い限り。この日のツアー参加者はみなさん女性でしたが、商品試験室では担当者にさまざまな質問が投げかけられていて、商品に対する関心の高さがうかがえました。ツアー終了後も、みなさん最も興味深かったのは、この商品試験室とのこと。ここを見学するだけでも、百貨店への意識が変わるかもしれません。

傷んでしまった服を見ながら商品についての話を聞く。大半は取扱い表示を見ていないことが原因とのこと

さまざまな機器の中には、電子顕微鏡も。検査に対しての万全な体制にみなさん感心していた