グラウンドの片隅にある小さな白い建物に入り階段を降りていくと……、「!!!」。眼下に巨大なコンクリートの柱が立ち並ぶ、巨大な空間がっ!! まさに「地底神殿」そのものの光景。さらにゆっくりと階段を降り、その巨大空間の底に到着。今度は、柱の数々を見上げる姿勢に。改めて、柱(という規模の大きさをはるかに超えているが)に圧倒されつつ、地下空間の広さに、ただただ呆然。いったい、ここって何??
首都圏外郭放水路は、地下に潜む龍!?
地底神殿の話の前に、まずは首都圏外郭放水路のことを。埼玉県春日部市、江戸川のすぐ近くにある「龍Q館」は、首都圏外郭放水路について学ぶことができる施設で、国土交通省の江戸川河川事務所の管理する施設内にあります。施設の名前は、この土地に伝わる「火伏の龍」伝説と水(AQUA)のQにちなんだもの。
で、首都圏外郭放水路。簡単に言ってしまうと、国道16号の地下約50mに建設された長さ6.3kmの地下放水路のことです。春日部市の真ん中を流れる大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)、その東を流れる中川を含む5つの川、そして千葉県との県境の江戸川を結ぶこの放水路は、大雨などで河川からあふれた水を江戸川へ排水するために建設されました。しばしば深刻な浸水被害にあっていた周辺地域の問題を解決するために実施された、世界的に見ても類のない巨大プロジェクトなのです。
2002(平成14)年から部分的に稼働し、2006(平成18)年に完成。毎年数回、洪水を防ぎ、治水効果を発揮しています。例えば、2000(平成12)年の台風のときは、160mmの降水量で浸水戸数は約250戸だったのに対し、2006年12月の低気圧で172mmの降水量があったときの浸水戸数は85戸でした。
首都圏外郭放水路は、まさに地下に潜む龍のようなイメージでしょうか。現代の龍は、水害から市民を守ってくれているのです。
技術力の高さとスケールのでかさは圧巻
放水路には、洪水を取り込んだり、放水路の維持管理の役割を担う立坑が5つあります。大落古利根川に第5立坑があり、江戸川へ向かって4、3、2、1とそれぞれ河川や水路に設置されていますが、最も深い第1立坑は深さが76.5m、内側の直径は31.6mととにかく巨大。ほかの立坑も同じような規模です。
この立坑をトンネルが結んでいるわけで、トンネル工事に使われた機械(泥水加圧式シールド機)は直径およそ10m。これが地下60mくらいの場所を掘り進みました。その工事だけでもものすごいことだと思いますが、途中、半径250mの急なカーブを掘削したりするなど、高度な技術を駆使し、1日に7mから14mの速さで工事を進めたとのこと。まさに日本ならではのプロジェクトと言えます。
なお、放水路を地下につくったのは、地上の場合、用地買収や地域分断の問題があったため。国道などの公共用地の地下であれば、用地取得の必要はないのです。
立坑、トンネルなどのメカニズムを図解したパネル。地下のトンネルは、龍の姿に見えてくるかも |
トンネル掘削に使われたシールド機。立っている女性と比較すると、その大きさがよくわかる。画像提供 : 国土交通省 江戸川河川事務所 |
テレビ番組、CMにも登場する異空間
さて。このトンネルを流れてきた水は調圧水槽という場所に溜まります。ここが「地底神殿」、のような場所。龍Q館の展示室前の廊下には、たくさんのサイン色紙や写真が貼られていて、子供向けの番組関連や、各局のアナウンサー、そして自動車のCMなど、さまざまな有名人がここを訪ね、ここで数多くの撮影が行われてきたことがわかります。
調圧水槽は、第1立坑と水を江戸川に流す排水機場の間にあり、龍Q館裏手のグラウンド下に建設されています。この巨大な異空間は、長さ177m、幅78m、高さ25.4m。59本並んでいる鉄筋コンクリート製の柱は、1本の重量が500トン。やはり「柱」といったイメージとはかけ離れています。
ここに佇んで思い出したのは、ナイル川の上流にあるアブシンベルなど、古代エジプトの神殿。「地底神殿」という表現がぴったりと当てはまることに、改めて納得です。ここなら悪の支配者が潜んでいそうだし、この世のものではないものが登場しても不思議ではありません。この光景が映し出されただけでも、インパクト大です。
ここに溜められた水は隣接する排水機場で、14mの高さを押し上げて江戸川に排水されますが、そのために使用されているガスタービンエンジンは、ボーイング737(130人乗りジェット機)のエンジンを改良したものとのこと。ここも、なんだかとてつもなく、すっごいです。
「地底神殿」こと調圧水槽は見学会に参加すれば見ることができます。子どもから熟年層まで幅広い世代に人気の地下見学会は、事前予約が必要。4月からは内容に変更がある場合もありますが、いずれにしても詳細は江戸川河川事務所のホームページ等で確認を。とにかく、自分の目でこの地下の世界を確かめてください。