東京・世田谷に、熱帯の珍しい植物や動物に出会える場所があるのをご存知ですか? 入館料は無料。ほかにも興味深いものがたくさんそろっていて、リピーターも少なくないのが、東京農業大学の「食と農」の博物館、そしてバイオリウムです。博物館にはカフェもあり、そこではあのカムカムを飲むことも! え? カムカム、知りません?

印象的な外観の博物館。鶏のオブジェが目印だ。左手にバイオリウムがある

デザインもスタイリッシュな博物館

世田谷通りを挟んで東京農業大学の向かい側、馬事公苑の入口前に、「食と農」の博物館とバイオリウムは隣り合っています。博物館の建物は個性的で目を引くデザイン。設計は有名な建築家、隈研吾(くまけんご)氏です。

2004(平成16)年に博物館はオープンしました。東京農業大学の連携財団法人である進化生物学研究所が、この建物の3、4階に入っていて、大温室のバイオリウムには同研究所が世界各地を調査し収集した貴重な研究材料が集められています。なお、その名称は「バイオ(生き物)」と「リウム(空間)」からの造語です。博物館とバイオリウムは一体の施設として、自由に見学できます。

ちなみに、東京農業大学は日本初の私立の農学校。その創設には榎本武揚が関わっています。世田谷のほか、厚木やオホーツク(網走市)にキャンパスを開設していて、2009年に創立118周年を迎えました。応援団の大根踊りはあまりにも有名です。

日本酒蔵元の8割は卒業生

ゆったりとした博物館は1、2階に展示コーナーがあり、さまざまな企画展も行われます。2階には常設展示の「日本の酒器」コーナーがあって、おもしろい杯(さかずき)や徳利などを見ることができます。

置くことのできない可杯(べくはい)や鶴の卵でできた杯。酒を注ぐとき、酒を飲むときにヒューヒューと音が鳴る鶯徳利と鶯杯など、珍しいものがいっぱい。大きなひょうたんも展示されていますが、このような容器ができたことによって、人間は遠方まで行くことができるようになったとのこと。また、戦時中の杯などもあり、熟年の方は懐かしく昔を思い出すそうです。

奥の壁には、一升瓶がずらり。現在、全国には約1,600の日本酒の蔵元がありますが、その8割はなんと東京農業大学の卒業生。日本酒の世界において、東京農業大学は多大なる貢献をしているのです。

1階の映像展示コーナー。さまざまなイベントや講座も行われるので、ホームページなどはチェックしておきたい

酒を注がれると置くことができない可杯。底に小さな穴が開いているものもあり、一気に飲まなければならない

「鶴は千年」にちなみ、これで飲めば長命が叶うといわれる鶴の卵でできた「鶴卵金蒔絵杯」

ずらりと並んだ一升瓶はなかなか壮観。ホームページには蔵元のデータなども掲載されている

さて、カムカムとはいったい……

ところで。カムカムが気になっていた方、お待たせしました。カムカムとは、地球上で最もビタミンCを含む果実。100g中の含有量は2,800mgで、これはレモンの80倍とのこと。博物館1階のカフェでは、カムカムのジュースなどを販売しています。

原液を薄め、ハチミツなどを加えたカムカムドリンクは、まろやかでさわやかな飲み心地。それほどすっぱくありません。缶ジュースやカムカム酢もあり、一番の人気を誇っています。なお、手頃な値段で食事も楽しめるので、ランチやティータイムにここを利用するのもおすすめです。

カムカムは、南米ペルーのアマゾン地帯の水辺に自生するフトモモ科の植物で、肌荒れ防止、かぜの予防や便秘の改善、肥満、糖尿病、高血圧に効果があるとされ、そのジュースは昔から地元の人々に愛飲されていたといわれます。これに注目したのが、東京農業大学の卒業生。カムカムの栽培化に挑戦し、栽培の普及に尽力しています。現地では、貧しい自給農民の現金収入源が麻薬のコカインの原料となるコカノキの生産に頼っていますが、カムカムが代替作物となれば、貧しい農民たちを救済し、麻薬も一掃することが可能となります。カムカムは、さまざまな可能性を秘めた植物だといえるでしょう。

博物館を訪ねたなら必ず試してみたいカムカムドリンク。カフェは明るく、ゆっくりくつろげる

さりげなくグリーンイグアナも登場

お隣のバイオリウムは、いわば熱帯の動植物園。温室の中はまさに別世界です。一番の人気者は、マダガスカルの原猿類レムール(キツネザル)。進化生物学研究所には5種80頭ほどいて、現在の飼育数は日本一! その愛くるしい姿は必見です。

しかし、リピーターに最も人気があるのは、グリーンイグアナなのだとか。ふと上を見上げると、さりげなく佇んでいてびっくり。温室の中に放し飼いになっているのですが、係員さんに聞けば、だいたいどこにいるかわかるそうです。ぜひ忘れずにその姿を確認してください。

温室内には、アフリカ、マダガスカル、モーリシャス、中南米などの貴重な植物が所狭しと植えられています。もちろん、眺めているだけでもおもしろいのですが、専門の研究員が解説するツアーに参加すると、そのおもしろさが何倍にもふくらみます(毎週火曜日、木曜日 14時~、15時~ 大人500円でカフェの飲み物券付 個人は当日受付可能 詳細は問い合わせ)。

生きもの相談室に聞いてみよう

温室内にはショップもあり、珍しい植物やグッズが並んでいます。人気があるのは、「ゾウのウンチから作ったリサイクルペーパー」。また、スリランカでカオリンという粘土をもとに、天然素材を混ぜて作られた「ワイルド・パステル」は、食べても害にならないので、小さな子どものいるご家庭に大評判。そのほか、ほかではあまり見られないエコな商品などが目立ちます。決して広くはないショップコーナーですが、思わぬ発見があること間違いなしです。

珍しい熱帯魚などが売られているのも、ここならでは。マニアはもちろん、そうでなくても小さな水族館はココロ和ませてくれます。サボテンや多肉植物も豊富なので、買物目当てで訪ねるのもありです。

また、ペットを飼っていたり、植物を育てたりしている人は、ぜひ生きもの相談室を利用しましょう。スタッフの人が質問に答えてくれます。もちろん、無料。なによりも、難しい質問をされても、進化生物学研究所の研究員が答えてくれるので、どこよりも心強い味方となってくれます。よく考えれば(考えなくても)、農業大学の施設であり、専門家集団。ここより頼りがいのあるところはありません。しかも、敷居がすっごく低い。動植物で困っている人は、急げっ!

本やグッズのコーナーも。なお、農大キャンパス内の売店・書店もおもしろい。バイオ、食品、ガーデニングなどほかではあまり見かけない書籍などがそろっている

バイオリウムは見応えたっぷり。とにかく充実しているので、満喫するにはツアーがおすすめだ

特別にオリの中へ入れてもらった。落ち着きのないレムールがようやくポーズを決めてくれた

まわりの景色と一体となっていたグリーンイグアナ。暖かいと結構動き回るとのこと

ゾウのウンチから作られたといっても、もちろんニオイなどはないが、インパクトは大きい

蝶などの標本も販売されている。マニアでなくても、その美しさには引かれてしまう

大人気の「ミッキーマウスムーン」。尾びれの付け根に横向きのミッキーのようなシルエットがあるため名付けられたという

観賞魚をはじめ、珍しい生物がいろいろ見られて、ずっと観賞していても見飽きない