新宿のど真ん中にありながら、古き昭和の時代へタイムスリップしたかのような空気が流れるゴールデン街。初めての人は、足を踏み入れるのをためらってしまうかも。ましてや店になんて怖くて入れない……。でも、日本から失われた何かが、ここにはたくさん残っています。最近は、若い人の店も増えました。外国のガイドブックにも紹介され、ときどき「観光客」も目にします。勇気? を持って扉を開ければ、予想外のシアワセに巡り合える、かもしれませんよ。

80年代満載! 「bar plastic model」

狭い(ゴールデン街の店はどこもそうですが)店内は白を基調としていて、圧迫感はあまりなく、とてもゴールデン街のお店とは思えないほどスタイリッシュ。2003年にオープンした「bar plastic model」は、30代後半の関根さんがオーナーのバーで、80年代をコンセプトとしています。

店があるのは、ゴールデン街(G2)という通りの端

オーナーの関根さん。ご自身で集めた懐かしのレコードがカウンターに置かれている

「ファミコンを置いてあるせいか『ファミコンバー』と思われているようですが、そういうわけではないんです。とにかく80年代のものを何でも揃えようとした結果ですね。自分の80年代を考えてみると、洋楽を聴けば歌謡曲も聴くし、ファミコンもやればボードゲームのようなものも楽しんだ。それが自然だったので、このようないわば『ノンジャンル』になりました」

これぞまさに80年代。映画のシーンも浮かびます!(その世代は)

「ウチにもあった」という人も多いのでは?

カクテル「ポカリスエット」(コアントロー、レモンジュース、トニックウォーター)。本当にポカリスエットの味がする

映画の宣伝に携わっている関根さんは、今も昼間は会社で仕事をしています。ゴールデン街に接待で通っているうちに、自分も店をやってみたいと思ったとのこと。いきつけのお店でそんな話をすると、幸運にも物件があったそうです。花園神社の裏手、花園交番通りに面した駐車場の前、ゴールデン街の入口といった好立地にもかかわらず、現在の店舗は15年ほど使われていませんでした。

お客は20代半ばから40代くらいの男性が多いとのことでしたが、女性も気軽に入れる雰囲気です。「見知らぬ40代の男性と20代の女の子が意外な共通点で盛り上がったりと、ギャップを楽しめるのはおもしろいですね」と関根さん。ゴールデン街の店には客を叱る名物ママなどもいて、それもまた大きな魅力となっていますが、そういう「過激さ」はありません。懐かしの80年代といっても決してマニアックなお店ではないので、濃い世界はまだちょっと……、と思っている人にはおすすめですよ。

ゴールデン街を見続けてきた奥山理事長

「ゴールデン街に来るようになったのは、1970年代。初めてのときはショックを受けましたよ」。ゴールデン街のまとめ役である新宿三光商店街振興組合の奥山理事長は、以来、街の移り変わりを見続けてきました。

理事長になって6年になる奥山さん

この看板が目印。横の「ぎょろ」というのは「奥亭」の前の店名とのこと

ご自身も76年に店を持ちます。「初めは友人の手伝いをする予定だったのですが、その友人が建築士の試験に受かって事務所をやることにしたため、店は私が仕切ることになってしまいました。2年間だけのつもりだったのですが……」と語る奥山さん。28歳のとき開いた「奥亭」は今も賑わい、10年前には2号店「O2」もオープンしました。

この30年間のゴールデン街の変遷をうかがうと、「景気の影響は世間で騒がれるほど大きくはないかもしれませんね」とのことでした。もちろん、店によって事情はいろいろとあるでしょうが、大きな波を受けても小さなしぶといお店ばかりなので、街としての打撃はそれほど大きくあらわれにくいのでしょうか。

ほかのお店同様に、入口はこのような感じ

これぞゴールデン街といった雰囲気の店内

むしろ、やっかいなのは再開発問題。これは何度も提案されてきましたが、街は断固として拒否してきました。80年代半ばからは地上げも。地上げ屋の嫌がらせと思われる火事もありました。バブル後は店の数も半減。「まるで限界集落、廃村のような状況でした」。しかし、96年に大掛かりなインフラ整備が、奇跡的にも新宿行政の支援を得て実施され、街は作り替えられました。

しかし、この都会の真ん中の不思議な光景に若い人たちが興味を持ちます。アパート契約のように、短期間でも店舗が借りられるようになったこともあり、2000年から店舗数は倍増します。99年に街全体で開催したアート展も、マスコミに取り上げられ、若いお客が増えるのに一役買いました。

「ゴールデン街はひとつの『文化』。再開発に反対するのも、この独特の文化を守るためです」と奥山さんは話します。初めての人はちょっと近寄りがたいかもしれませんが……。「店の人とお客さんの距離がとても近いので、馴染めば友だちです。個性派の店ばかりですから、いろいろ立ち寄って自分に合ったお店を見つけてください。これだけ親近感があって、人情にあふれた街は、今や日本でもここくらいかもしれません」。

まるで映画のセットのようなゴールデン街には、まるで映画の登場人物のような個性派がふつうにいるし、家族や友人のような身近な存在もいます。ここには古き良き昭和から平成の現在まで、すべての日本が凝縮しています。この街で、友だちを作ってみてはいかがでしょうか?