「スリルが足りません」
電話口で編集Cさんに言われてしまった。まあ、そりゃあ前回の大人の絵日記教室にスリルはない。こればっかりは言い訳しようがないので、代わりに行動で示すことにする。
「わかりました。今回は『第一種接近遭遇』のタイトルに恥じない場所に取材してきます。スリルとアドベンチャーです!」
というわけで今回お邪魔したのは東京・小平市にある「ふれあい下水道館」。小平市の汚水整備完了を記念して1995年に開館したこの施設、名前だけ聞くとスリリングでもなんでもないが、全国で唯一、本物の下水道を見られるのが最大の特徴となっている。「下水道に潜入」と言えば、これはもはやスリル以外の何物でもない! 「きっと巨大ネズミや白いワニや逃亡中の犯人もいるはず!」と誤った期待をしつつ、館内に足を踏み入れてみた。
ふれあい下水道館は地上2階・地下5階。目指す下水道はもちろん地下5階だ。館長の新井さんにまず通していただいたのは地下1階の講座室。ここは小学生の社会見学などでも最初に通される場所で、まさに理科室といった趣となっている。ここで見られるのは本日の下水のなかに泳ぐ微生物というわけで早速顕微鏡で見せていただいた。
大型ディスプレイに映し出される微生物の姿は思わず笑っちゃうぐらいデカい。小学生にもやはり大ウケするらしい。汲み出した下水にこれだけ様々な微生物が元気に活動しているというのにも思わず驚いてしまう。
地下2階の展示室では現在の下水道の仕組みを解説。入り口の変な彫刻は先代館長の時代からあるので、現館長もよくわからないらしい |
地下3階・地下4階では下水道の歴史を紹介。江戸のリサイクル都市事情や、多摩地方の水環境などが展示されている |
地下2~4階は下水道の仕組みと歴史が学べるフロア。こちらも見ているだけで十分勉強になるのだが、今回のお目当てはやはり地下5階なので割愛させていただき、どんどん階段を下りていくことにする。
そしてついに地下5階の下水道へ。もちろん下水道に入ると言っても長靴でジャブジャブ入るわけではなく、見学ステージから見下ろすだけなのだが、それでもかなりの迫力がある。
下水道内は10トンダンプが2台並んで入れる大きさ(内径4.5メートル)で、遠くからドーッという轟音が響いてくる。これは見学地点の上流が滝になっているためだとか。流れている下水は完全に泥の色。水量は小川ほどもなく、流されてきた物がプカプカ浮いているようなこともない。排水量には余裕を持って作られているが、大雨の場合はさすがに見学中止になってしまうとのこと。
下水道のなかは暑くもなく寒くもないが、湿気はかなりあって、もやが発生している。肝心の臭いについてはかなりの覚悟をして行ったが、「我慢できないほどでもない」というのが正直なところ。温泉の硫黄の臭いとどっこいどっこいだろう。とは言え、それでも『第三の男』『逃亡者』『人狼』といった映画のような感じで下水道を移動するのは、いくらピンチだとしてもさすがに勘弁してほしいと思う。
見学する人たちもさすがにここではおとなしいらしく、ふざけて落ちるような小学生もいないとか。一度台風でステージが流されそうになったことはあるそうだが、これも現在は補強されているので、心配無用とのこと。
せっかくの下水道訪問なので、最後に気になる素朴な質問を館長にぶつけさせていただいた。
――よく都市伝説で聞きますけど、下水道にワニっていないですかね?
館長「まあ、大きな物は流れてくる前に詰まりますから、生き物とかは見ないですよね。それに下水道は流れやすいように上流から下流に傾斜してますし、場所によっては落差もあります。あと雨の日には水量もかなり増えますから」
――ということは……。
館長「仮に生き物がいても軽く流されちゃいますね」
うーん、残念。いや、そんなことで残念がることはないのだが、実際には油が堆積して詰まったり、水漏れが起こることのほうがはるかに問題らしい。まあ、ネズミやワニは冗談だとしても、実際に見てみると想像していた下水道と結構違うし、もちろん環境問題の勉強にもなる。これからの夏休みに自由研究を控えている小学生はもちろん、一風変わった体験をしてみたい人にもオススメの施設だと思えた。