イスラエル滞在2日目。郊外のミニイスラエルと戦車博物館の見学を終えた筆者、オレグ、マイク、ラハブの4人は、そのまま車でテルアビブへ。テルアビブでは明日のアニメイベント「Harucon2010」に同行する仲間たちと会うことになっている。なかでもそのうちのひとり、女子高生のニコル(Nicole)にいろいろと話を聞けたので、今回はその話題を中心にお伝えしていきたい。
安息日が日没で終わるため、徐々に賑わってくるテルアビブの大通りで待っていると、ニコルがやって来た。テルアビブ在住のニコルは16歳。イスラエルは国としても若い国なのだが、それにも増してイスラエルのオタクの平均年齢は若い。現地のオタクの多くは、ニコルのような中高生の女の子が占めている(なお、イスラエルの学制は日本と同じ6・3・3制)。彼女たちは日本の同年代のオタク女子と同じように「週刊少年ジャンプ」の人気作品や『鋼の錬金術師』『ヘタリア』やCLAMP作品、ボーイズラブなどに熱中している。つまり三十路のオレグが例外的におっさんなのだ。
郊外の見学ツアーを終え、夕方からイスラエル最大の都市、テルアビブへ向かう。テルアビブはショッピングモールなども立ち並ぶ商業の中心地 |
彼女がニコル。大人っぽく見えるが、まだ16歳。大人っぽいということは、スタイルもいいということです。日本語も勉強中で、片言でなら少し話せる |
ニコルの趣味はコスプレで、これまでにも初音ミクや『マクロスF』のランカ、『コードギアス 反逆のルルーシュ』のユーフェミアといったキャラのコスプレをしている。テルアビブは都会なので大抵のものは揃うが、コスプレ衣装はさすがに売っていないので、衣装は生地屋で調達して、自分で作っている。費用はまちまちだが、ユーフェミアのドレスを作ったときは1万円以上かかったとか。ニコルの憧れはアニメ『マクロスF』で一躍人気になった歌手、May'nで、彼女のパワフルな歌声には、いつも勇気づけられるのだとか。May'nが歌声を担当する『マクロスF』のヒロイン、シェリルの衣装も近いうちに作るつもりだと意気込んでいた。
ニコルから以前のコスプレ写真を借りることができたのでご紹介。『マクロスF』のランカ。実にヤック・デカルチャー |
ニコルはイラストを描くのも趣味。こちらは『マクロスF』のシェリル。以前紹介したスクァドゥスの公式サイトで、彼の似顔絵を描いているのも実はニコル |
ニコルがオタクになったきっかけを聞いてみると、CLAMP原作の魔法少女アニメ『カードキャプターさくら』という答えが返ってきた。この作品は2006年にイスラエルで正式に放映されたそうで「さくらを見てオタクになった」と語る若者には、ニコルのほかに何人も出会った。どうやらイスラエルのオタクたちの間には「カードキャプターさくら・ショック」と呼ぶべきものが存在するらしい。もちろん日本でも人気の作品だが、いきなり純度の高い萌えの結晶に遭遇したイスラエルの若者たちが、なにかに目覚めてしまうのは、確かによくわかる気がする。
一行ですぐ近くのラビンスクエア(市庁舎)へ移動。階段の模様がハートマークになっていることを、ニコルから教わる |
裏手には犬と飼い主がたくさん集まっていた。このラビンスクエアはラビン首相が暗殺された場所でもある。悲劇に対しても平和で上書きしていこうとする、イスラエル人のバイタリティを感じた |
日が暮れて、ニコルたちとマクドナルドで待っていると、ノル(Nhorwin)とアミル(Amir)もやって来た。この日はノルが家に泊めてくれるので、ニコルやオレグたちと別れて、バスでノルの自宅に向かう。ノルはフィリピン系で、出稼ぎに来ていたお父さんとお母さんがこの地で出会ったのだとか。イスラエルはとにかく移民が多い国なので、想像以上に多国籍な印象を受ける。ノルの部屋も見せてもらったが、PCやゲーム機、アニメのポスターなど、日本のオタクと変わらない部屋だったので、すぐに落ち着くことができた。
日が暮れてからオタク仲間のアミル(左)、ノル(中央)が合流。今晩はノルの家に泊めてもらうことに |
みんなDSを持っていたので、ノルの部屋にて『マリオカートDS』で対戦。筆者はゲストにも関わらず本気を出して圧勝してしまう。すまん…… |
イベント当日は6時起床。会場にはコスプレの衣装を着て向かうので、一度みんなでニコルの家に集まり、そこで着替えることになっている。みんなが着替えている間、ニコルの部屋を見せてもらうことができたので、いろいろと写真を撮ってみた。
一夜明けて、イベント当日の朝。オレグと待ち合わせて、再びテルアビブに向かい、集合場所になっているニコル宅へ |
ニコルはすでに着替え済み。さて問題です。彼女のコスプレは何のキャラクターでしょう?(ヒント: ピンクのセーラー服ですが『らき☆すた』ではありません) |
昨日厄介になったノルには悪いが、彼の部屋とは違って、女子高生コスプレイヤーの私室を取材するのは、さすがに緊張する。なにしろ彼女の部屋の壁紙はパステルピンクなのだ! オレグたちは普通にくつろいでいたが、彼らからはこちらの姿がさぞかし挙動不審に見えたに違いない。
一方ニコルは裁縫部屋でノルの着付け中。ノルのコスプレはどうやら和服のようだが……? |
ノルは絶望先生こと糸色望に変身! 肌は少々地黒だが、再現度はなかなか。イスラエル人も絶望した! |
イスラエル人美少女コスプレイヤーの私室、という貴重な取材もなんとか完了。それぞれの衣装に着替えた仲間たちとイベント会場へ向かうことにする。そう言えばニコルと歩きながら交わした、ある会話がいまでも思い出深い。それが英語だったのか、片言の日本語だったのか、もう忘れてしまったが、彼女に「あなたはなぜ私たちを取材しに来たの?」と聞かれたことだ。少し考えてから「ニコニコ動画とYouTubeで君たちを見た。イスラエルでも日本のオタクカルチャーが楽しまれていることに驚いたし、僕は素直にうれしかった。僕は日本のオタクを代表できるほど偉くはないけど、日本から誰かが『ありがとう』を言うべきだと思った。だからイスラエルに来た」という意味の答えを返したことを覚えている。ニコルはうなづいて、納得してくれたようだった。
というわけで、初音ミクや絶望先生たちと一緒にいよいよHaruconへ。外では季節外れの春の嵐に見舞われる。果たして会場ではなにが待つのか!? |
今回のおまけ。ファッション用語をちりばめたダヤのリュック。「配色レッスン」「おしゃれ靴とおしゃれブーツ」「パワーアイテム」と日本語で書いてある。かわいい……のか? |
次回は、いよいよ「Harucon2010」の模様をレポート。イスラエリーオタクの熱狂ぶりには圧倒されっぱなしの一日ですが、こちらも負けじとできる限り会場の雰囲気をお届けするつもりなので、ぜひお楽しみに。