イスラエルのオタクが集うアニメイベント「Harucon2010」を明日に控えた、現地滞在2日目。土曜日のこの日は、マイクの車でイスラエル郊外へドライブに連れて行ってもらう予定になっている。渡航前に「今回はエルサレムや死海にまで行く余裕はないから、テルアビブで取材するよ」と伝えておいたところ、オレグたちが「じゃあ、代わりにいいところに連れて行くから、楽しみにしておいて」と気を利かせてくれたのだ。

マイクの日本車に乗り込んで、テルアビブとエルサレムの中間にあるラトラン(Latrun)へと向かう。前にも書いたが、イスラエルは金曜の日没から土曜の日没まで安息日になるので、人通りや交通量は少ない。日本で言えば、休日のビジネス街の印象に近い。土曜日は宗教的な人はシナゴーグへ礼拝しに行くが、過半数を占める世俗派の人たちは、それほど厳格に決まりを守るわけではなく、家族とゆっくり過ごす日になっているらしい。

今回の地図。赤い丸のキリヤット・エクロンという町から郊外へ向かう。緑の丸が最初の目的地のミニイスラエル。青い丸が次の目的地の戦車博物館

イスラエルの景色を眺めていると、案外緑が多いことにも気づく。途中で通ったレホボトの町の街路樹がオレンジだったり、少し郊外に出ると山の木々がオリーブだったりするのは、いかにも地中海沿いの国らしいところだ。物珍しく車窓を眺めているうちに、最初の目的地であるミニイスラエル(Mini Israel)に到着。ここはその名のとおり、ミニチュアで作られたイスラエルの名所や旧跡が一カ所にまとめられている一種のテーマパークだ。まあ、テーマパークと言うにはちょっと微妙なところもあるのだが、その手作り感も味わい深い。あとで調べたら、日本語の公式サイトまであって驚いた。

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途中で通ったレホボトの街並み。土曜日の10時ごろだが、店にはほとんどシャッターが下り、人通りも車も少ない

ミニイスラエルに到着。小さめの遊園地といった感じで、イスラエルでは子どもたちが遠足でよく行くような場所らしい。入園料は大人72シェケル(約1,700円)

出入口付近には金属探知機のゲートが設置されていた。イスラエルでは人が集まる施設では、大抵こうしたチェックが行われている

ダビデの星の形になっているミニイスラエル。日本だとダビデの星はちょっと恐れ多い気がするが、現地ではもっとカジュアルに使われている印象

入場してすぐの場所で、ジャカスカ音楽を弾きまくっていた、謎のモフモフした物体。遊園地と言えばゆるキャラなのは、どうやら万国共通らしい

イスラエルの歴史的な場所を再現したミニチュアは結構デキがいいので、それらを眺めていると、オタクとしては「日本の特撮監督がここを使って、怪獣映画を一本撮ってくれんもんかなあ……」などと妄想してしまう。ユダヤ教の巨人ゴーレムが大魔神のように街をぶっ壊すとか、旧約聖書のソドムとゴモラにちなんで、ウルトラ怪獣のゴモラが暴れるとか……などとくだらない妄想をしていたら、園内を一周してしまったので、お土産の売店を冷やかしつつ、次の目的地に向かうことにする。

大都市テルアビブの街並み。ミニチュアと言ってもかなり精巧なもの。常に野外に置かれていることを考えると、なかなかあなどれない

あいにく雨が降り出してきた。こちらはミニイスラエルのベングリオン空港。飛行機は機械仕掛けで、ずーっと滑走路をぐるぐる回っている

コロシアムのように見えるこちらは、イスラエル国防軍の士官学校。これも兵士たちが少しずつ動いて行進している

死海付近にあるソドム山(Mount Sodom)。オレグ曰く「これは男たちが『やらないか』と言ったので神様が怒った山。だから『やらないか』の山」

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エルサレムのゾーンに設置された嘆きの壁(Western Wall)。ミニチュアサイズのユダヤ教徒たちが祈りを捧げている

ヤド・ヴァシェムと呼ばれるホロコースト記念館(Holocaust Memorial Museum-Yad V'shem)。周囲には荘厳な追悼歌が流れていた

ショップで見かけた面白げなお土産その1「ユダヤのおっさん人形」。楽器を弾いたり、踊ったりといろんなバリエーションあり

面白げなお土産その2「イスラエル国防軍Tシャツ」。左のシャツには「アメリカよ心配するな、イスラエルがついてるぜ」と英語で書かれている。イスラエルはアメリカとの結びつきが特に強い

女性へのお土産はこちら。死海の塩や泥のミネラルがたっぷり詰まった大手メーカー、AHAVAの化粧品もろもろ。まあ、我々むさくるしいオタクには関係ないですけどね!

ミニイスラエルのすぐ近くにあるのが、この日のメインとなる、ヤド・ラシリョン博物館。英語表記は「Yad Lashiryon (Armoured Corps) Museum」なので、正しくは「ヤド・ラシリョン装甲部隊博物館」と呼ぶべきかもしれないが、要するに戦車博物館だ。イスラエル国防軍はもともとアメリカやイギリスなど、様々な国の兵器を導入してきた経緯があり、ここにはイスラエル製の戦車をはじめとして、アメリカ、イギリス、フランス、旧ソ連、ドイツといった各国の戦車や装甲車が展示されている。もちろん筆者も戦争は勘弁してほしいと願うひとりなのだが、それでも中学19年生の身としては、戦車という「でっかいメカ」にはつい興味を持ってしまう。

雨も上がり、ミニイスラエルのすぐ近くにある戦車博物館へ。世界でも指折りの戦車博物館となっている

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世界各国の車両がならぶ戦車博物館。広い敷地内に戦車や装甲車が100台以上置かれている光景はさすがに壮観

イスラエルの主力戦車であるメルカバ(Merkava)も。こちらは最新型のMk.4。上に乗って記念撮影できる人気スポットになっている

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というわけでメルカバの上に乗ってみる。表面はザラザラしているものの、それでもちょっと滑るので、かなりへっぴり腰

いままで見たこともない戦車の写真をバシャバシャ撮りつつ、オレグたちに徴兵のことについて聞いてみた。イスラエルでは18歳で男女とも徴兵を受けるので(一定の条件で良心的兵役拒否も可能)、オレグたちも全員一度は軍隊に入っている。また徴兵以外にも、イスラエルではIDカードの発行や選挙権、飲酒の解禁も18歳からとなるため、そこが子どもと大人を分ける大きな節目となるそうだ。男子で3年間という軍隊生活は、もちろん一人前になるためのイニシエーションという側面もあるが、なにしろ狭い国なので、軍で培った人脈や経験があるのとないのとでは大違いらしい。また徴兵をきっかけにオタクをやめるタイプもいるが、なんだかんだで本当に好きな連中は、軍でもオタクのまま過ごすのだという。戦車博物館の入り口には女性兵士が立っていたが、こちらもいたって気楽な普通のお姉さんだった。「軍隊は怖い」と考えがちな日本と「軍隊がいるから安心」と考えるイスラエルの間には、やはり大きな認識の違いがあるようだ。

マイクが軍隊で乗っていたというセンチュリオン戦車(CENTURION TANK Mk V 20pdr)。イギリス戦車だがイスラエルにも多数導入され、いまでも現役だとか

第二次世界大戦中に量産された、ソ連のT-34(/84)。「ちゃんと掃除しないと暴発しますよ」という実例として、そのまま展示されているのがすごい

冗談みたいにバカでかい、アメリカのM107自走砲(M107 SELF-PROPELLED GUN)。砲身の大きさが電信柱ぐらいある

戦場の川などに橋をかけるMTU-20架橋戦車(MTU-20 Bridgelayer)。あー、そう言えばゲームの『Call of Duty』でこういうの見たわー

ナチスと戦った連合国のモニュメント。左からイギリスのクロムウェル、アメリカのM4、旧ソ連のT-34。「ガハハ、俺たち 最強だぜー!」ということらしい

博物館のシンボル、塔の上の戦車(The Tank on the Tower)。部隊の連帯と友情を示しているそうな。「時々落ちるんで、みんなで乗せ直すんだ」というジョークがあるらしい

戦車博物館の周りには、野良らしき犬や猫ものんびり歩いている。犬と戦車の組み合わせが、なんだか妙に押井守チックな一枚

年季の入ったメモリアルホール。もともとはイスラエル建国以前のイギリス統治時代に建てられた、武装警察の砦だったとか

メモリアルホールの塔の内部。現在ではイスラエルの彫刻家、ダニ・カラヴァンの手によって、兵士を追悼するモニュメントになっている

壁からは少しずつ水がしたたり、足元の透明パネルのさらに下にある水溜まりに流れて、上まで循環する仕組み。このモニュメントの名は「涙の塔」(Tower of tears)という

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館内の展示の模様。中東戦争で戦った兵士が顕彰されている。廊下にはパネルや、兵士の目線で描かれた絵などが掲げられている

ガードとして立っていた女性兵士。女性は18歳から1年9カ月間の兵役なので、彼女たちはおそらく19歳ぐらい。アサルトライフルを持っているけど、とってもフレンドリー

戦車博物館のショップで見かけたのは、タミヤのプラモデル。店内のプラモデルの約3分の1がタミヤ製だった。200シェケル=約4,800円なので、価格は日本よりちょっと高め

さて、貴重な戦車の見学も終わったので、これから再び車に乗り込んで、我々一行は大都市テルアビブへ。第1回目のオレグ、第2回目のスクァドゥス、そして今回の戦車博物館と、なんだかおっさん臭い話題ばかり続いてすみません! そこで次回はアニメイベントを直前に控え、テルアビブの美少女コスプレイヤーの部屋を訪ねます!! みなさん、ご期待ください。