2008年4月に本コラムで取り上げた、東京都・あきる野市の私設図書館「少女まんが館」(通称「女ま館」)。そこは古民家の一角がそのまま3万冊もの少女マンガの所蔵庫となっており、裏庭にはハクビシンも出るという、およそ東京都らしからぬ不思議スポットだった。
「これはぜひプライベートで再訪したい! もし休みが取れるなら、1週間ぐらい少女マンガ合宿をしたい!」……と考えているうちに約1年。なんと、その少女まんが館が隣町に引っ越すという。
「あんな味わい深い場所からなぜ引っ越すんですか!」という若干個人的な不満も抱きつつ、さっそく引っ越し先へとお邪魔した今回の取材。そこで目撃した新たな少女まんが館とは、こちらの予想をはるかに超えた、以前よりもさらに味わい深い建物であった――。
それでは今回も現地への道程を写真でご紹介。こちらが最寄りのJR武蔵増戸駅。新宿駅からだと1時間10分ほど、東京駅からだと1時間30分ほどです |
駅の南側はゆるい下り坂になっているので、ここを降りていきます |
青い……。そして新築だと聞いていたが、早くもちょっと怪しい……。なんとなく「生まれたときからおばあちゃん」というような謎の風格が建物から漂っている。いや、決してボロいのではなくて、むしろ十分すぎるほど立派なのだが……。こちらが到着したのはちょうど開館時間だったので、もろもろ準備が落ち着いたところで、ご主人にお話をうかがってみた。
――単刀直入にお聞きしますが、なんでこんなに青いんですか?
「ここの裏が秋川渓谷で、近くには弁天山という山があるんですよね。弁天様って水の神様じゃないですか。川と水の神様に挟まれてる場所だから、水色はちょうどいいな、と思ってて。それから本を保存するために、現代の正倉院みたいな建物にしたいと考えてたんですけど、昔の蔵ってよく屋根のあたりに防火のおまじないで『水』って書いてあるんですよ。『そういうのがあるといいよね』って話をしてて、だったら『水』と書くんじゃなくて、もう全部水色にしちゃおうと。あとは今回設計をお願いしたデザイナーのエンドウキヨシさんが、もともと水色にこだわりのある方だったんですよ。彼もぜひ使ってみたいということだったので、全部水色にしてもらいました。これだけの大きさの建物をこの色で建てる機会は少ないんで、エンドウさんも張り切ってくれて。溺れるような感じになったらまずいなと思ってたんですけど、やってみたらすごく気持ちいい感じに仕上がりました」
――ご近所の反応はいかがでした?
「ははは(笑)。まあ、『いい色だね』と言ってくださる方と、なんとなくその話題には触れない人と(笑)、その2種類ですよね」
――話が前後しますが、そもそも引っ越す経緯はどういうものだったんですか?
「前のところは借家だったんで、いずれ引っ越さなきゃいけなかったんです。ただ、なにしろ大量の少女マンガがあるんで、なるべく近くへ楽に引っ越したくて。それで最初はこの辺で似たような物件がないか探してたんですけど、なかなか見つからなかったんです。で、最後の最後ぐらいに、たまたま見つけた不動産屋さんに飛び込んでみたら『いますぐ現場に来てくれ』って言われて。そしたらここをちょうど更地にするところだったんですよ。『ここなら売れるよ。何坪ほしいの?』みたいな感じでいきなり決まって(笑)。だから、最初は全然新築する予定じゃなかったんですよ。僕は古民家が好きなんで、なるべく新築に見えないように建ててもらいました」
なんでもこの新しい少女まんが館、住宅ではなく倉庫扱いなので、比較的自由に建てることができたのだとか。お話は2階でうかがっていたのだが、水色で統一された館内は確かに意外なほど落ち着く。作りこそ純和風だが、色のおかげで北欧建築のような雰囲気だ。さしずめ和風ムーミンハウスといったところだろうか。「いやあ、いいですねー」と、建物を探訪する某俳優のような心境になったところで、不思議な館内をさらに探検する次回に続く。
<ご案内>
少女まんが館の開館日は、毎週土曜日の13時から18時まで(4月~10月期)。入場は無料です。詳しくは少女まんが館のサイトをご確認ください。