ゲーマー用語で「RTA」と呼ばれるやり込みが存在する。「リアルタイムアタック(Real Time Attack)」、すなわちゲーム開始からクリアまでの時間を実時間で競うものだ。
ここ数年で徐々にその存在が知られるようになってきたRTA。その草分け的存在が東京大学ゲーム研究会だ。2001年ごろからRTAの結果がネット上でレポート形式でアップされ、その驚異的な記録の数々は全国のRTA野郎たちの目標であり、同時にタイム更新の叩き台ともなっている。東大ゲーム研究会でこれまで行われたRTAの一例を挙げると『ドラゴンクエストIII』は3時間台でクリア、「ファイナルファンタジー」シリーズに至っては歴代12作品をリレー方式でプレイし続け、約96時間でクリアした(1作あたり約8時間!)というからすさまじい。
知力・体力・時の運という、どこか聞き覚えのある3つの要素がとことんまで要求されるRTA。日本最高学府の東大で盛んになるのは必然なのかもしれない。その東大ゲーム研究会が、5月の大学祭で公開RTAを行うという情報を入手。RTAを観戦できる貴重なチャンスということで、東大本郷キャンパスにお邪魔させていただいた。
生憎の空模様のなか、大学祭の人ごみをかき分けてたどり着いたのが、会場となる赤門総合研究棟の一室。この日は『ポケットモンスター』や『モンスターハンター』の対戦会も行われ、ゲーマーや家族連れでかなりの人口密度となっていた。
ゲーム研究会の会場もほぼ満員。これでも昨年よりは多少広い場所になったのだとか |
お客さんもニンテンドーDSを持ち寄り、Wiiの『ポケモンバトルレボリューション』を使って対戦中。人気作品だけに子どもや親子連れの姿も |
熱気に圧倒されているうちに、RTAの予定時刻が近づいてきた。この日、RTAが行われたのは1989年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)からリリースされた、ゲームボーイ用のRPG『魔界塔士サ・ガ』。リメイク作も存在するが、今回はオリジナルのゲームボーイ版での挑戦となった。この作品は初期のRPGということもあってクリアまでの時間がそれほど長くなく、また戦闘中とイベント以外はどこでもセーブでき、全滅やリセットを迫られても比較的ロスは少ないので、RTAでは比較的手軽な作品らしい。RTAに挑むのはイリアスさん。今回のRTAではエスパー1人、モンスター3体というパーティを編成。経験値や装備に頼らず、敵が落とす肉を食べてどんどん成長できるモンスターが中心となっている。
さて『魔界塔士サ・ガ』と言えば有名なのが、最終ボスをも一撃で倒せる反則兵器、"チェーンソー"。ただしこれを調達していると時間がかかるので、今回のRTAでイリアスさんはチェーンソーと同じ効果がある技"のこぎり"を持った「のこぎりビートル」というモンスターを揃える作戦に出る。どの肉を食べるとどのモンスターに変化するかは決まっているため「必要な肉を集めて、仲間のモンスターをいかに早くのこぎりビートルにするか」が時間短縮のポイントとなる。
出現する敵からはどんどん逃げまくり、序盤は比較的順調に進行。しかし中盤でお目当ての肉を落とすはずの敵が、なぜかなかなか肉を落とさない。「これは絶対おかしい!」とイリアスさん。いきなりカートリッジをスーパーゲームボーイからゲームボーイアドバンスに差し替え、手元のゲームボーイアドバンスでゲームを再開させた。
スーパーファミコンにスーパーゲームボーイを接続し、イリアスさんによる『魔界塔士サ・ガ』のRTAがスタート |
「肉が出ない!」と手持ちのゲームボーイアドバンスにカートリッジを差し替え、臨時の肉集め。あまりの非常手段に周囲も爆笑 |
事情を知らない人にとってはまったく意味不明のこの行動。その理由をごく簡単に説明しておこう。RPGで倒した敵が宝箱(今回は肉)を落とすかどうか、といったゲーム内のランダム要素は乱数によって判定されている。ただしゲーム内の乱数は完全な偶然によるものではなく、プログラムによって擬似的に発生しているため、条件によっては偏りが生じる場合がある。今回の場合「遊ぶハードによって肉を落とすパターンが変わるのでは?」とイリアスさんは考え、スーパーゲームボーイからゲームボーイアドバンスに差し替えた、というわけ。もちろん厳密にプログラムを解析したわけではないので、この勘が当たっているかどうかははっきり言って不明なのだが、ともあれゲームボーイアドバンスに入れ替えてすぐ目的の肉を入手できたので結果オーライ。
「ハードを変えるのは反則じゃないの?」と思う方もいるかもしれないが、RTAはあくまでもゲーム開始からクリアまでの実時間を計るものであり、この場合もデータ改造などの不正を行っているわけではないので、ルール違反にはあたらない。ゲームボーイ、ゲームボーイアドバンス、スーパーゲームボーイといった複数のハードに対応した本作ならではの荒業と言える。
かくして凶悪な性能を持つのこぎりビートル3匹を擁したパーティは、立ちふさがる後半のボスをつぎつぎと数秒で葬り去り、一気に追い上げて1時間20分ほどで無事にクリアし、周囲からは拍手が贈られた。それでも中盤の一件がかなり響いたようで、イリアスさんも「がんばれば1時間切れたかも」とちょっと悔しそう。もっとも、こうしたライブ感あふれるハプニングやミスもRTAの楽しみのひとつと言えるかもしれない。
この日のRTAも予定時間をオーバーすることなく(予定どおりに終わるのもよくよく考えるとすごい話だ)、1日目は無事に終了。東大ゲーム研究会のRTA大会は、大学祭2日目に続く!