ここ数年、アニメやゲームの関連グッズではとくに目を引く存在として、注目されることが多い抱き枕。しかしそれらがどうやって作られているのか、見た人はほとんどいないのではないだろうか? かく言う自分も見たことはない。ならばと今回は抱き枕の製造現場にお邪魔させていただくことにした。
ご協力いただいたのは、オーダーメイドの抱き枕を長く手がけている、印刷業者のプリントエイティさん。現在こうしたオタク関連の抱き枕は中国などで大量生産されているケースが増えているそうだが、プリントエイティさんでは最初期から品質にこだわった抱き枕を作り続け、小ロットの生産や細かな注文に対応していることで、同人サークルや個人ユーザーの支持を得ている。しかしなかなか大っぴらにはできないデザインも多い抱き枕、もしやプリントエイティさんは暗くて湿った怪しげな地下工場を構えているのでは……と思いきや、実際の現場は驚くほど明るくて、清潔で、のどかな一室だった。
教室の半分ほどの大きさの部屋には大型の印刷用の機材が数台置かれ、ロール状の紙や布が並べられている。印刷されているのはほとんどが(自主検閲)や(自主検閲)や(自主検閲)といった、あられもない姿だったりするが、風通しのよい爽やかな部屋でそうした女の子たちが刷られて出てくるのを見ていても、不思議といやらしさは感じない。オープンにすると隠微でなくなるという、一種のヌーディストビーチみたいなものだろうか。ともあれ、さっそく抱き枕カバーの印刷工程を見せていただくことにする。
順を追って作業を紹介。まずは入稿されたPhotoshopデータを調整 |
布に印刷する前にまずペーパーへと印刷。表面と裏面をまとめて1枚に刷る |
画像データからペーパーには比較的速く印刷できるものの、布への転写はじっくり行う必要があるため、1日に刷れる抱き枕カバーの数はおよそ100枚程度。こうした抱き枕カバーの製造は「昇華転写」と呼ばれる印刷技法によって行われている。のぼり旗や横断幕など、布への印刷では幅広く使われている技法だが、抱き枕カバーの印刷に昇華転写を活用したのはプリントエイティさんがおそらく初めてとのこと。
布への印刷ではほかにシルクスクリーンという技法もあるが、こちらの技法は肌色のような淡いグラデーションが苦手なうえ、原版を作るコストがかかるので、大量生産には向いても少量生産には向かないという。仮にシルクスクリーンで抱き枕カバーの原版を作った場合、50~60万円ほどかかってしまうのだとか。
その点、昇華転写は1点1点転写用のペーパーを刷る必要こそあるが、低コストで済み、発色もよい。つまり昇華転写のおかげで、個人や同人サークル単位でもオリジナルの抱き枕を安価に作ることができ、オタク業界にバラエティ豊かな抱き枕カバーが出揃うようになった、というわけ。
転写機の下に揃った布地のロール。サテン、ヴィエラ、SKスエード、ベネシャンなどいずれもポリエステルの仲間。一番人気はSKスエード |
伸縮性に優れたツーウェイトリコット。水着などに使用されている、ということはこの生地で水着キャラの抱き枕を作れば……! |
一連の作業を見せていただいたところで、抱き枕カバー事業を担当する丸山さんにあらためてお話をうかがった。もともと印刷業ではアナログ製版に携わってきたという丸山さん。しかし1990年代後半、業界がデジタルに切り替わり、家庭にも安価なプリンタが普及してきたことが転機になったという。
「誰でも手軽に印刷ができるようになれば値崩れしますし、かと言って普通の紙への印刷にも魅力を感じなかったんです。ならいろいろ加工できる布への印刷に力を入れてみようということで、抱き枕という商品にたどり着きました。当時はまだ手探りの部分も多かったんですが、抱き枕をやることは決めていたので、じょじょにノウハウを固めていった感じです。だからアニメや同人関係に詳しかったわけではないんですよ」
こうして1999年ごろから抱き枕の制作を請け負うようになった丸山さんだが、まだ抱き枕自体の認知度が高くなかった時代のこと、当時はコミケの開催前に各サークルの机にチラシを置いて回ったりしたそうだが、認知が広がってからは潜在的なニーズが多かったようで、順調に年数を重ねて現在に至る。
さて、2階は抱き枕の倉庫になっているとのことなので、そちらも見せていただくことにした。秘密のグッズ……と言うにはあまりにもフランクな工場見学は次回に続く!
<ご注意>
プリントエイティでは一般の見学は受け付けていません。抱き枕の注文やお問い合わせについては、プリントエイティのサイトをご覧ください。