今回のテーマはずばり「剥製」。「いま剥製がブーム!」……ということはないのだが、これもかつては狩猟とセットで人気を誇った大人のホビー。秋葉原にほど近い外神田の老舗、上野剥製所にお邪魔してみた。
※記事内に剥製や骨など一部グロテスクな画像があります。苦手な方は閲覧の際にご注意ください。
店内には獣や鳥、魚や爬虫類などの剥製が所狭しと並べられており、『グレムリン』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』といった、映画に登場する不思議な研究所そのもの。動物やガジェット好きにはたまらない空間となっている。ご主人の上野さんも剥製職人というより、思わず「博士」と声をかけたくなる方だった。
ご主人によれば、かつて30年ほど前までは、全体のほとんどが狩猟をする人からの注文だったそうだが、猟銃に関する法規制が厳しくなり、現在ではすっかり下火に。いまでは研究施設向けの剥製が60%、ペットの剥製が35%、残りの5%が狩猟の剥製、という内訳だとか。「時代に逆行してるから目を背ける人も多いよね。鉄砲を撃ってきたお父さんが剥製を作っても家族から『やめてよ』ってなっちゃう」とご主人。
「時代に逆行してるから」という一方で、最近こちらのお店でも活用しているのがインターネット。上野剥製所のサイトでは販売やレンタルの価格を明示していることもあって、それまでのお得意様以外にも全国から注文が来るようになったとか。撮影用の小道具としての貸し出しも多く、最近も『脳内エステ IQサプリ』『所さんの目がテン!』といったテレビ番組でこちらの剥製が使われているという。ちょうど取材中にも、劇団がポスター撮影用として借りていた剥製を返却にやって来ていた。
剥製の作成料金は基本的に大きさに比例しており、小さいものならインコで1万円台から。逆に稀少な動物と、体毛の少ない動物は値が張るとか。これは体毛が少ないと加工が難しくなるためで、毛深いジャコウウシが250万円だとすると、同規模の大きさで毛が少ないサイは500万円程度。なおこちらのお店は猫の剥製だけは取り扱ってないとのことで、その理由を聞いてみた。猫の剥製には何か特別な苦労があるのだろうか?
「いや、僕が猫嫌いだから」
そんな単純な理由なんですか、ご主人!? ちなみに扱わないのは飼い猫だけで、ライオンやヒョウ、山猫類など猫の仲間は全く問題ないとのこと。そんなご主人、ペットに関してはやはり犬派らしい。
作業を見せていただいた。沖縄のズグロミゾゴイという鳥の皮を裏返したところ。ブラシをかけて細かい肉を落としていく |
皮には防虫剤、防腐剤などを調合した液体を塗っていく。まさに秘伝のタレ。作業は数時間で手早く済ませ、乾燥に2~3週間かけるという |
最近注目を集めているのは、剥製ではなくむしろ骨。とくに20代の若い層がお気に入りの骨を探しにくるという。アートやファッション、フィギュアの一環として見られているようだ。「手伝いたいって人もたまに来ます。この間なんかは大学生ぐらいの女性がね。でもこれからの花形商売じゃないし、とても食べていけないから断ってますけどね。趣味でやるなら多少は教えられるけど」とご主人。斜陽の業界ということで、仕事としてはなかなか厳しいものがあるようだが、若い層からの注目で少しずつ変化もあるようだ。
ところで少し前になるが、動物をモチーフにした食玩がヒットしたのも記憶に新しい。最後に剥製師から見た感想を聞いてみると、ご主人は「海洋堂のあれはいいねえ。僕も大好き。ああいうのを作れる人は剥製でも絶対うまいと思うね。秋葉原が近いから、僕もお店でずいぶん買ったよ」と絶賛。やはり本物を扱うプロから見てもすごい造形物だったようだ。
フィギュア全盛の現代だが、そのお隣にはこのような趣味の店も残っていることにも注目しておきたい。日中の営業時間内なら見学はご自由に、とのことだが、あくまで営業しているお店であり、かつ大人数が入れる広さではないので、訪問する際は各自で配慮しつつ立ち寄っていただきたい。