次のコラムのネタをどうしようか、と考えていると編集Cさんから電話がかかってきた。

編集C「秋葉原でメイドさんがチラシ配ってるじゃないですか」
野口「はあ」
編集C「あれに行ってきてください」

相当な無茶振りである。調べてみるとメイドさんが配っているチラシとは、秋葉原をメイドさんとデートできるサービスのことらしい。メイドさんとデート……。メイドさんとデート……。メイドさんとデート……。3回繰り返した意味は特にないが、よく考えてみればこのコラムでは連載開始以来、こうした萌えを直球で扱ったことはまだ一度もない。萌え関係のニュースもさんざん担当しておいて言うのも大変罰当たりな話だが、なぜなら私が苦手だからである。

編集C「なんでコラムで萌えネタをやらないんですか」
野口「だって男の子だもん」
編集C「意味がわかりません」
野口「あーほら、ニュアンス的には『シティーハンター』の海坊主は猫が苦手、みたいなちょっと硬派な感じ?」
編集C「ごまかしてもダメです。いい加減に腹をくくってください。男の子なんでしょうが」
野口「ぬう……」

自分の発言で見事に自分の首を絞めてしまった。しかし確かにここらが年貢の納め時なのかもしれない。追い詰められた私は、断腸の思いでこのコラムの萌え解禁を承諾する代わりに、妥協案として編集Cさんの取材への同行を提案した。

編集C「……チキン野郎」
野口「うっさいわ! 取材に万全を期すためじゃボケ!」

文面からはわかりづらいが、これでも僕と編集Cさんは大変仲が良い(そういうことにしておいてください)。そして迎えた取材当日。しかし編集Cさんは秋葉原には現れなかった。「橋本龍太郎の持病と一緒なんだわ」という謎の留守電を残してCさんは見事に病欠。秋空の下、ひとり残された私は待ち合わせ場所だったはずの末広町駅3番出口に立ち尽くした。

「ひとりでどないせえっちゅうねん!」

しかし逆に考えれば、これは取材にかこつけてメイドさんと2人っきりで秋葉原デートができてしまうまたとないチャンス。いや、もともとひとりで取材に行ってこいという話なので、Cさんが病欠したところで最初の状況に戻っただけなのだが、そのときの私にそんな冷静な判断はできるはずもないのであった。

前置きが長くなって大変に申し訳ない。つまり今回はそれだけテンパっているということをお察しいただきたい。さて、今回取材にご協力いただいたお店は、秋葉原の中央通りから少し入った場所にある「メイドさんといっしょ」。まだオープンして2年ほどだが、メイドさんによる秋葉原ガイドのお店としては老舗にあたるとか。

末広町駅前の東京三菱UFJ銀行。初めての人は、ここか秋葉原のドンキホーテから電話してほしいとのこと

こちらが「メイドさんといっしょ」のあるビル。1階はラーメン屋、2階はメイドリフレ。カオスだ

本来は、受付を済ませたあとでこの公園で待ち合わせてからデート、という流れだそうです

システムを簡単に説明すると、60分なら6,000円で、90分なら9,000円、120分なら12,000円……という料金形態(初回のみ45分3,000円)。握手はOKだけど、手をつなぐのは禁止、カラオケ以外で個室に入ることは禁止など、ルールも決められているので気をつけてほしい。「それはデートなのか?」という野暮なツッコミはご主人様たる紳士淑女なら入れないように。通常の秋葉原コースと、秋葉原外に行けるロングコースがあり、服装もメイド服か私服を選べるようになっている。もちろん女性も利用可能。あくまでメイドさんが秋葉原をガイドしてくれるというサービスなので、デートという部分であまり過剰に誤解しないようお願いしたい。

お店の入り口はこんな感じ。姉妹店「ギャルソンと一緒」もあります

受付はこんな感じ。写真やフィギュアがいっぱいならんでます

今回ご一緒していただいた、せらさん。看板娘です

緊張しつつ取材が、もといデートがスタート

今回同行していただいた「せらさん」は、オタク知識もばっちりというメイドさん。写真を見ていただければ一目瞭然だが、こんな冗談半分の取材には大変もったいない、すばらしい方であるとだけ言っておく。受付を済ませて取材に繰り出そうとすると、瀕死のはずの編集Cさんから携帯に下記のようなメールが届いていた。

「グダグダにならないよう指令を出しておきます。僕が出演している『アニメTV』という番組で、この間『ハピネス』というCDを出したので、メイドさんと一緒に買ってきてください」

本人の許可を得たのでここで明かしてしまうが、このコラムを担当する「Cさん」こと千葉さんはマイコミジャーナル編集部で働く傍ら、テレビ神奈川で土曜深夜に放送中の長寿番組『アニメTV』で、声優の山本麻里安さんと共演しているという変わった人でもある。で、その千葉さんがミッションとして、自分の出演番組のCD(千葉さんが作詞を担当、歌うは山本麻里安さん)を買ってこいと言う……。

「アンタが得するだけやんけ!」

思わず携帯の画面に向かってツッコミを入れた私だったが、漫然と秋葉原をぶらつくより、こんな目的でもあったほうがいいのは確かなので、おとなしく指令に従うことにした。ビルから外に出ると秋葉原は平日でもかなり人手は多い。黙っていても取材にならないので、せらさんに案内していただきながらお話をうかがう。

「デートは私服のほうが多いですね。やっぱりメイド服で一緒に歩くとなると恥ずかしいっていう人が多くて、最初はメイド服を頼むんだけど、だんだん人の目が気になり出して……みたいな。でも途中で着替えられないんで、そこは乗り切ってもらってます(笑)。着ている私たちは全然平気なんですよ。秋葉原ならメイドさんがチラシを配ってたり、一般の方も普通にメイド服で歩いてたりしますし。だから気にしてるのは、きっとその人だけですね(笑)」

せらさん、にこやかにぶっちゃけた! でも確かにメイドさんと歩きながら取材していても注目されるようなことはない。「秋葉原ではおかしくないんで、いつもメイド服でご利用くださるとうれしいです」とのことなので、みなさんも遠慮なくメイドさんとデートしていただきたい。さて、そうこうするうちにソフマップ秋葉原音楽CD館に到着。探していたCDもおかげで無事に見つかった。ご主人様なら買い物ぐらいメイドに言いつけるものだが、私は小市民なので自分で買う。

お店に到着しました。ガイドは手慣れたもの

こちらが例のCD。個人的には左の山本正之のCDもかなり気になる

自分の買い物をメイドさんに買わせるなんて! というわけで、せらさんに撮ってもらう。本来メイドさんを撮影すべき記事としてはかなり本末転倒

せらさんの案内のおかげで目的の品を無事に購入。編集千葉さんへの義理を果たしてひと安心だが、そう言えば次の予定をまだ決めていない。取材時間はそんなにあるわけではないので、選択肢はそれほど多くなさそうだが……とその時、ちょっと試してみたいことが頭にひらめいた。

野口「メイド喫茶ってどうですかね?」
せらさん「じゃあ私がよく行くお店に行きましょう」

というわけで次回はメイドさんとメイド喫茶に行ってきます。なにその「カレーライスにカレーかけてみました」みたいな話。