土方「武器屋……ですか?」
野口「武器屋です!」
鎌倉遠征取材の2回目。鎌倉の人気スポット、「うさぎカフェ」での取材を無事に終えた我々は、今後のスケジュールについて相談していた。いや、正確に言えば同行している編集者の土方嬢を私が強引に説得していた。取材終了予定時刻を超過してでも、足を運んでおきたい特別なお店が鎌倉にはあるのだった。その名は山海堂(さんかいどう)……人はそれを「鎌倉の武器屋」と呼ぶ。
不振がる土方嬢と、うさぎカフェからタクシーに乗って移動することしばし。山海堂に到着。噂の武器屋は鎌倉大仏への参道にあると聞いていたが、本当に鎌倉大仏の目の前だったので驚いた。それもそのはず、もともとこちらの山海堂は普通の土産物屋さん。最初は日本刀の模造品を扱う程度だったのが、お客さんからの要望や店長の趣味などもあって、どんどん武器の品揃えが充実してしまったのだという。武器の総数は把握しきれないそうだが、少なくとも何千本にも及ぶ。倉庫の床が武器の重みで抜けそうになったこともあるらしい。
ざっと見回しただけでも店内はすごい品揃え。洋の東西を問わず、ありとあらゆる武器のレプリカが並べられており、ファンタジー作品に出てくる類の武器はほとんどすべて揃っている。西洋の武器はスペインからの輸入品が中心とのことだが、海外のレプリカはパーツの噛み合わせが甘いので、わざわざこちらで打ち直し、調整してから並べているというこだわりよう。
人気商品も数多いが、定番と言えるのが伝説の聖剣・エクスカリバー。なんと一度に400本発注したこともあるとか。エクスカリバー400本……。ロールプレイングゲームでも普通そんなに大量のエクスカリバーは手に入らない。すごいような、ちょっとありがたみが薄らぐような話だが、エクスカリバーの現物(?)を手に取って、重みやディテールを実感してみると、確かに思わず欲しくなってしまう。なんというか、修学旅行先で思わず木刀を買ってしまう中学生の心境にかなり近い。
エクスカリバー! 伝説の剣が山海堂なら18,500ゴールド(円)で買えます。一番ゴツいセルティックソードはなんと重さ3.7kg |
鉄の斧! とんがったやつからイガイガの付いたやつまで、よりどりみどり。下に置かれた焼き物のカエルもキュート |
修学旅行と言えば、鎌倉も修学旅行のスポットだが、お店では学生や未成年への配慮もされていることを書き添えておきたい。基本的にナイフ類は置かないようにしており、また18歳未満への販売も行われていない、通信販売もお店に直接足を運んだ人に限られている。レプリカとは言え、実際に振り回せば危ないことに変わりはないので、あくまで良識を持って趣味の範囲で使ってほしいとのこと。
それにしても想像以上の充実ぶり。いやあ、無理をしてでも来ておいてよかった。ところで何か忘れているような気がするけど、なんだっけ? お店の外観を撮影しようと外に出ると、横から声をかけられた。
土方「……私、もう帰っていいですか?」
そこには猛暑のなか、店先で数十分間放置された女性編集者が険しい表情で立っていた。はっきり言って状況はかなりまずい。しかし社長のお話はまだまだ聞きたいし、写真も撮り足りない。いまここで取材を切り上げるわけにはいかないのに、どうする俺!?
野口「……大変申し訳ありませんが、先に撤収してください」
土方「それでは失礼します(怒)」
ああ、編集者に帰られてしまった。うさぎ好きと武器好きはやはり両立が難しいらしい。怒らせてしまったあとが怖いが、ここは気を取り直して取材を続けることにする。店内には外国人の姿も多く、また全体の3割ほどは女性だとか。武器を目当てに遠方から訪れて、大仏を見ずに帰る人も結構いるらしい。なかには西洋甲冑に身を包んで来店した本格的な団体さんもいたとのこと。社長にいろいろと楽しいお話をうかがえたので、ちょっと視点を変えて、店員の女性にもお話をうかがった。普通の土産物屋と違って、武器屋ならではの苦労もあるのではないか。
「やっぱり熱心な方が多いですからね。探している武器の名前を言われて『どういうものですか?』って聞き返すこともあります。よく出る名前は覚えられましたけどね。バスタードソードとか」
バスタードソード! 土産物屋に務めている方は全国にたくさんいるだろうが、「バスタードソード」という物騒な単語を日常的に口にするご婦人は、はっきり言って山海堂の方だけではないだろうか。お話を聞いた方がお客さんに呼ばれていたので、何だろうと思って見ていると、今度はおもむろに逆刃刀を抜いていた。
というわけで、東洋の神秘はこのように意外な場所に存在する。大仏に匹敵する鎌倉の新名所、山海堂にみなさんもぜひ足を運んでみてほしい。ただしくれぐれも武器に興味のない人を待たせすぎて怒らせないように。