「普通にうまいんですけど」
7月10日に行われたJAXA(宇宙航空研究開発機構)のシンポジウム、「探る宇宙 食べる宇宙」で食べた宇宙食は普通にうまかった。それもそのはず、試食用に提供された29品目の宇宙食を作っているのは味の素、カゴメ、キユーピー、ハウス、マルハといった有名食品メーカーばかり。違う点を挙げるとすれば、少し濃い目の味付けぐらい。宇宙空間では味覚が鈍るので、わざとそうしているのだとか。
まずは、わかめスープ(理研ビタミン)。味は濃いわかめスープ。わかめがチューブで詰まらないよう細かくカットされている。見た目は青のりっぽい |
白い謎のペースト食品……と思いきや白がゆ(キユーピー)。いい米といい水で炊いたおかゆは、まさに究極。日本人でよかった |
しかし「普通にうまい」という味の表現はライターとしてどうなのだ? とも思うが、いつもの味が再現されているのだから、そう言わざるを得ない。つまり「どうしても宇宙食が食べたい!」という人は、フリーズドライやレトルトの食品を買ってきて、濃い目に作ればほぼ再現できてしまうのである。「なーんだ」という気もするが、裏を返せばつまり現代の食品加工には、それだけ最先端の技術が投入されているのであり、同時にそうした「いつもの味」が、ハードスケジュールをこなす宇宙飛行士にとっては何よりの安心につながるのだろう。もちろん、その「いつもの味」を宇宙空間で再現するための微調整やパッケージングには、惜しみない努力が払われている。
……と感慨にふける暇はないのであった。運良く試食会場一番乗りとなった私と編集Hさんだが、会場はそれほど広いわけではなく、後からどんどん人が入ってくる。足を止めてゆっくり食べていると邪魔なので、奥へ奥へと試食しながらどんどん進む。ひと口食べては進み、またひと口食べては進む。さながら宇宙食フィールドアスレチックというか、わんこ宇宙食というか、宇宙食100人組み手みたいな状態になってきた。「うん、普通にうまい!」「うん、普通にうまい!」「うん、普通にうまい!」……の繰り返しというのは、なんというかありがたみに欠ける。
ある程度食べ終えた我々は、宇宙用の粉末緑茶を飲みながら感想を述べ合うことに。
編集H「サバの味噌煮がおいしかったですね」
野口「僕はトマトゼリーかなあ。しかし、なんかもっとこう……地球のものと思えない味の宇宙食はないですかね」
編集H「怒られますよ」
さて最後に残った大物は、宇宙飛行士の野口さんが食べていた日清の宇宙食ラーメン「スペース・ラム」。会場でも抽選扱いとなっていたほど貴重な一品だ。これには思わず期待が高まる。
野口「いやあHさんぼかぁね、この日のためにカップヌードル断ちをしてきましたよ。仕方がないので、ほかのカップラーメンを食べました」
編集H「だから怒られますよ」
意を決してラーメンをぱくりとひと口……こ、これは宇宙食っぽい! というか伸びてる!? 日清食品さんの名誉のために付け加えておくと、味はとろみのある中華あんかけ風で非常においしい。しかし、試食用としてだいぶ前から準備していたらしく「硬くなくなった硬やきそば」みたいになってしまっている。きっと後から準備されたラーメンは、ちょうどいい硬さになっているに違いない。まさか会場一番乗りのしっぺ返しがここに来てしまうとは!
野口「このコシのない食感はまさに宇宙食……」
編集H「そうですか? 私は結構好きですけど」
野口「そんなことでいいんですか!? あなたグルメ記事も担当してるくせに!」
編集H「軟らかい麺が好みなんだからいいじゃないですか!」
取材中に揉めてしまった。初対面なのに。こうして「伸びたラーメンが一番宇宙食っぽい」という不毛な結論に至った我々は、現代の宇宙食の普通のうまさを噛み締めつつ、そしてラーメンの好みの硬さについて口論しつつ、シンポジウム会場を後にしたのだった。