どれだけ月日が経とうと記憶から消えることのない東日本大震災、まだまだ復興支援が必要な熊本地震、そして今年猛威をふるった西日本豪雨。『災害大国』と呼ばれる日本では、毎年のように自然災害が起こり、それと同時に多くの人々が助けを必要としている。
ニュースで被災地の惨状を目の当たりにし、「自分も何か力になれないか」と考える人は多いだろう。しかし、忙しい日々に追われ、自分の生活で精いっぱい……と一歩を踏み出せずにいる人もまた多いはず。
この連載では、東日本大震災の被災地をはじめ、さまざまな形で社会奉仕に繋がる活動を行う人々を取材。彼らの想いを通じて『人のために働く』ことの意味に迫っていきたい。第5回は、日本最大級の寄付ポータルサイト「Yahoo! ネット募金」のサービスマネージャーを務める、井手章博さん。
多くのユーザーに見てもらうために
災害が起こったとき、被災者の方々の「力になりたい」とは思うものの、現地に赴いて支援活動を行うのはなかなか難しい。そんなときに街中やネットで寄付をした経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。
日本最大級の寄付ポータルサイト「Yahoo!ネット募金」では、大阪府北部地震、西日本豪雨、北海道地震という今年起こった3つの災害に対し、約100万人の方々から約8億円もの寄付金が集まったという。井手さんは現在、マネージャーとしてサービス方針や戦略の考案、管理や運用、またひとりのプレイヤーとしてイベントや特集の企画立案など多岐にわたる業務を担当し、同サイトの中核を担っている。
「2012年に社会貢献ユニット(現・社会貢献事業部)に異動し、インターネット通販で東北の産業を盛り上げる『復興デパートメント(現・東北エールマーケット)』や、3月11日にYahoo! JAPANのトップページを使って東北の復興支援を行う『3.11企画』、そして東北の復興支援を目的とした自転車イベント『ツール・ド・東北』の立ち上げなど、主に東北の復興支援事業に携わっていました。その一環として2013年に『Yahoo! ネット募金』『Yahoo! ボランティア』も担当することになり、現在の業務に繋がっています」
前部署でも、ウェブの企画・運営業務に携わっていた井手さんは、『Yahoo! ネット募金』を担当するようになってからも企画立案の手腕を生かし、『より多くのユーザーに見てもらうためのサイト作り』に注力したという。
「異動後、震災から間もない東北の視察に行ったこともあったのですが、実際に現地の惨状を目にすると、どうしても感情的な想いが込み上げてきます。ただ、サイト作りにおいては、あえて感情が入らないように意識していました。やはり感情が入ってしまうと、『もっと情報を入れてあげたい』など偏りが出てしまいます。それはサイトが見づらくなってしまうことに繋がってしまうので、しっかり情報を整理し、わかりやすくユーザー様に伝えることを常に考えていました。そのスタンスは今も変わっていません」
募金は社会問題に目を向けるきっかけになる
今では災害が起こるたびに「Yahoo! ネット募金」で特設の寄付金募金ページが開設していないかチェックするユーザーも増えているという。そのように知名度は高まっている同サイトだが、井手さんはまだまだ課題はあると話す。
「最近は特に災害が多いこともあり、『Yahoo!ネット募金』に注目が集まる機会が増えましたが、被災地域の復興支援だけなく、貧困に苦しむ子どもたち、ペットの殺処分、国際紛争など世の中には解決しなければいけない課題や社会問題がたくさんあります。弊サイトでは、それらに対する募金も常に行っていますので、そういったものにも陽が当たるようになってほしいと考えています。その募金が増えることが、結果的に災害が起こったときの募金の増加にも繋がると思いますので」
忙しい毎日の中で社会問題について考えたり、何らかの社会奉仕活動を行ったり……というのは、なかなかできないもの。井手さんは「サイトでの寄付を通じて、そうした問題について考えるきっかけになれば」という想いもあり、災害時以外にも募金が集まるようなサイト作りに力を入れているとのこと。
「Tポイントでの寄付のように手軽で簡単に寄付ができる仕組みや、寄付すると抽選で賞品が当たる『くじ付き募金』のように楽しみながら寄付できる仕掛け、メールマガジンの配信など、ユーザーの方々が楽しめたり充実感が得られたりするようなサービスをこれからも導入していければと考えています。サイトを見てもらわないからには何も伝えることができませんので、常にこのような様々なサービスを試行錯誤しています」
日本でもっとも感謝にあふれるサービス
災害が多発している近年、募金活動の必要性はより一層高まっていると言える。井手さんは、これからも同サイトが「被災者に『何かしたい』の受け皿のひとつになりたい」と話す。
「災害が発生し、ニュースを通じて被災地の状況が映像や写真などで伝わってくると、多くの方々が被災地や被災者のために『何かしたい』という気持ちになります。しかし、災害発生直後は現地も混乱し、ボランティアや救援物資などの受け入れ体制が整っていない場合があります。また、様々な事情から被災地に直接行って支援ができない方々も大勢いらっしゃいます。そんな方々の『何かしたい』という想いの受け皿のひとつが募金なのではないかと考えているんです。寄付を通じて、少しずつ協力し、支え合える世の中になるといいなと思っていますね」
最後に、今の仕事のやりがいとは何かを聞いてみた。
「多くの人たちの応援や感謝の言葉に触れることができることでしょうか。弊サイトでは、寄付と共に応援メッセージを投稿することができます」
例えば被災者支援のプロジェクトの場合、このような投稿があったという。
「1日でも早い復興をお祈りしています」
「僅かな金額ですがお役に立てれば幸いです」
「気持ち程度ですが寄付させていただきました」
「そのような気持ちのこもった温かな言葉を見ていると、今の仕事に携わってよかったなぁと思います。たぶんですが、日本で一番、応援や感謝の言葉が溢れているサービスなんじゃないかなと思っています」
※取材協力:ヤフー