どれだけ月日が経とうと記憶から消えることのない東日本大震災、まだまだ復興支援が必要な熊本地震、そして今年猛威をふるった西日本豪雨。『災害大国』と呼ばれる日本では、毎年のように自然災害が起こり、それと同時に多くの人々が助けを必要としている。
ニュースで被災地の惨状を目の当たりにし、「自分も何か力になれないか」と考える人は多いだろう。しかし、忙しい日々に追われ、自分の生活で精いっぱい……と一歩を踏み出せずにいる人もまた多いはず。
この連載では、東日本大震災の被災地をはじめ、さまざまな形で社会奉仕に繋がる活動を行う人々を取材。彼らの想いを通じて『人のために働く』ことの意味に迫っていきたい。第4回は、宮城県・奥松島で観光遊覧船などを運航する「奥松島公社」で働く、門馬眞紀江さん。
風光明媚な観光地に残る、震災の記憶
日本三景のひとつ松島の奥地にあり、荒々しい海岸美が魅力の「奥松島」。松島湾の入口に浮かぶ宮戸島と太平洋に臨む野蒜海岸一帯を指し、訪れると見渡す限りに広がる風光明媚な景観とのどかな港町の風情に心が安らぐ。
ここ奥松島は海岸線という立地もあり、東日本大震災によって甚大な被害を受けた。同エリアを含む東松島市において、震災によって命を落とした方々は1,000人以上にも及ぶ。現在、震災遺構として保存されているJR旧野蒜駅には、当時の駅舎が残されているほか、旧駅構内は「震災復興伝承館」として震災関連の展示に活用されている。
3.7mという同地に到達した津波最高位を示す看板、地震発生時刻の時を刻んだままの野蒜小学校の時計、無残に変形した駅のきっぷ販売機……さまざまな展示は、いずれも震災時の生々しい記憶を今に伝えている。
この野蒜地区の南に位置し、松島湾に突き出した半島・宮戸地区で暮らす門馬さんもまた、津波によって自宅を失うなど多大なる被害を受けたという。
「震災時は、遊覧船窓口で働いていたのですが、すぐさま職場のみんなと高台に避難して事なきを得ました。夫は漁師をしており、地震が起こったときも海に出ていましたが、異変を感じて自宅に戻り、しばらく家の片付けなどをしていたものの、津波の危険を感じ命からがら避難したそうです。津波によって家は流されましたが、家族はみんな無事でしたので、それが何よりでした」
東松島市全体の死者は1,000人以上に及んだものの、門馬さんによると、この宮戸地区で命を落とした方は10人程度と別の地区に比べて極端に少なかったのだという。古来、宮戸では『地震があったらすぐに逃げろ』という教訓が言い伝えられており、これが地元の人々の心に根付いていたため、震災時もスムーズな避難が行えたそうだ。
震災から7年、今抱える問題とは
震災後、門馬さん家族は長きにわたって仮設住宅での暮らしを余儀なくされたものの、2017年にようやく新居を築くことができたという。ようやく震災前の暮らしが戻りつつあるが、取り巻く環境の変化はまだまだ大きいと話す。
「震災後、復興は進んでいるものの、観光客の数は震災前の半分以下にまで減ってしまいました。奥松島の主要な観光地である『宮戸地区』としては悩ましい問題です。そこで、2016年に地域の民宿や観光関連団体などにお声がけし、地域の観光復興を目指す『観光奥松島の会』を設立しました」
同会では、前述の「震災伝承館」で地域の魅力発信を行ったり、観光のガイドパンフレットをつくったり、9月15・16日に開催された「ツール・ド・東北」などさまざまなイベントに協力したりと、積極的な活動を行っている。
震災の記憶を語り継ぐこと
そうした観光復興に繋がる地元のPR活動に加え、門馬さんは自分自身が未曽有の災害を経験したからこそ、震災の記憶を『語り継ぐ』ことも大切にしていきたいと、心中を語ってくれた。
「震災の時、全国のボランティアの方々が親身になって助けてくださったことを私たちは心から感謝しています。震災から7年が経ちましたが、その想いがずっと胸にあり『いつか恩返しをしたい』と思っていました。ですが、まだまだ自分たちの生活を送るので精いっぱいという現状もあり、今できることは『地元にもっとお客様に来てもらって観光復興を目指すこと』、そして、来てくださった方々に『震災の記憶を語り継いでいくこと』だと思っています」
現在、門馬さんは2017年にオープンした復興再生多目的施設「あおみな」で、遊覧船の受付やお土産の販売などを行っている。仕事の傍ら、同施設を訪れる観光客に震災時の状況などを話すことも多いのだという。
「私はもちろんお話ししますし、彼女(同施設で働く同僚の方)もそうです。彼女は津波で大けがを負った経験もしていて、とても辛い過去だと思うのですが、ここに来てくださった方々によく震災のことをお話しています。今は南海トラフの懸念などもあり、関西方面からも多くの方がお越しくださるのですが、私たちがお話しすることで何か今後のためになればと思っています」
※取材協力:ヤフー