本当のことを知りたいのである。恋愛のことももちろんだけど、女性のことをもっと知りたいのだ――。この連載では、松居大悟が、恋愛猛者の女性たちと熱き激論をかわしていきます。今回は前回に引き続き、演劇ユニット「ブス会*」主宰で『たたかえ! ブス魂』著者、そしてAV監督でもあるペヤンヌマキさんとの対談をお届けします。

ペヤンヌマキ
AV監督/劇団「ブス会*」主宰/脚本・演出家。 フリーのAV監督として活動する傍ら、2010年に劇団「ブス会*」を立ち上げ、以降全ての作品の脚本・演出を担当。女の実態をじわじわと炙り出す作風が特徴。著書にエロの現場で働く自らの経験をもとにコンプレックス活用法を探る半自伝的エッセイ『たたかえ! ブス魂~コンプレックスとかエロとか三十路とか』(KKベストセラーズ)。週刊SPA!にてコラム「ぺヤンヌマキの悶々うぉっちんぐ」(隔週)連載中。
ブス会* http://busukai.com/

女が性界に入るとき

---ペヤンヌさんが監督になったきっかけは元カレだったとか。

ペヤンヌマキさん(以下敬称略)「大学のときに初めてつき合った彼氏と、結構長く続いていたんですけど、風俗に行っていることがある日発覚して。本当にショックだったんですよね。お金を払ってわざわざほかの女と……。女からすると謎の世界じゃないですか。彼氏がまったく別の人格みたいに思えてきて、どうすればこれを乗り越えられるかと考えたときに、男性の性を扱う現場を知りたいなと。ちょうど平野勝之監督のいた会社がスタッフを募集していたので、その世界をのぞき見るために、アルバイトしてみようと思ったんです」

松居大悟さん(以下敬称略)「今も撮っていますか?」

ペヤンヌ「月に1~2本のペースで撮っています」

松居「女性監督として撮るときに意識しているのは、女性としての視点ですか、それとも男性目線ですか?」

ペヤンヌ「男性ですね。やっぱり見る人は男なので、男性の生理を想像して。あとはいろんな男の人に話を聞いてリサーチしたり。だから耳年増になっちゃっていますね(笑)」

---業界に飛び込んでみて、ショックからは立ち直れましたか?

ペヤンヌ「男性のいろんな性欲の話を聞けたのは楽しかったです。自分に魅力がないとかそういうことではないんだなと思って、元気にはなったけど、恋人がプロの方のお世話になったり、浮気したりすることを許せるかどうかというと、またちょっと別問題でしたねえ。あとは監督になってから、私がいろんな男優さんのカラミを撮っているから気が引けると、男の人に言われたことがありました。私自身が男優さんとカラんでいるわけではないんですけど、やっぱりそう思われちゃうんだなあと」

松居「うん。特に童貞に近い人はビビると思いますよ。なめられるんじゃないかって。」

ペヤンヌ「中身は全然、ピュアなんですけどねえ(笑)」」

裏方のほうがモテる説

松居「僕がスタッフだったら、AV女優さんよりも、監督として指示しているペヤンヌさんのほうに興奮すると思うんですよ」

ペヤンヌ「ああ(笑)。素人が好きなんですね。たしかにこの業界だと、出演者よりも裏方のスタッフ側の女の子のほうが、セクシャルな目線で見られるんですよ。それまではそんな目で見られることもなかったんですけど、この世界に入った途端にそういう目線が来たから、すごい衝撃で」

松居「何かありましたか?」

ペヤンヌ「現場スタッフとして働いていたときのほうがモテていましたね。監督になってしまうと逆に引かれるというか」

松居「ペヤンヌさんが監督するときは、いわゆるイヤらしい気持ちで撮っているのとは違う感じがしているんですけど」

ペヤンヌ「そうですか? そういう気持ちで撮ってますよ。私自身はむっつりスケベですし(笑) でも職業がAV監督だからといって、そのイメージで自分が性的に見られちゃうのは、どうしたもんかなという感じですけど」

松居「逆にもっとエロくならなきゃと思ったりしますか?」

ペヤンヌ「それはないですけど、何だろう、ギャップがなくて面白くないのかなと思ったりはしますね。普通のOLさんが性的な一面を見せると魅力になったりするんでしょうけど、私の場合は職業的にそのありがたみがあまりないですよね」

恋愛欲と性欲は比例するか?

---女性の性欲をはかる基準はどこにあるんでしょうか。

ペヤンヌ「女性全般が、男の人が思っているよりは、性欲は強いと思うんですけど」

松居「表示されていればわかるけど、見せてくれないですからね」

ペヤンヌ「でも見せたら男の人は引くんですよね? それがわかっているから見せられないんだと思います。自分は全開にしているのに引かれたりしたら、それほど悲しいことはないですからねえ。女の性欲は自発的じゃなくて、男の人によって喚起されるところもありますし」

---恋愛欲と性欲はどれぐらい比例していますか?

ペヤンヌ「前は恋愛と性欲が一致していて、したいと思うタイプを自然と好きになっていたと思うんですけど、最近はわりとかけ離れてきちゃって。プラトニックなタイプを好きになっちゃうから、その相手とどうこうなるということが想像つかないんです。相手が手を出してこないから、というのもあると思うんですけど。そうなると、より恋愛が難しくなってきますよねえ。やっぱり性行為って馬鹿にはできないというか、それによって関係が深まることもあるから。それなくしてどうやって恋愛を進めていくのかというと、進みづらいですよね」

---それで今はスケート選手にハマっているんですか?

ペヤンヌ「そうですね(笑)。もうフィギュアスケートを見に行くことだけが唯一の楽しみになっているので」

松居「誰推しですか?」

ペヤンヌ「羽生結弦君がずっと好きだったんですけど、最近は町田樹君にじわじわとハマってきてます。偏屈な人が好きなんですよね。そもそも羽生君を機に好みが変わったんですよ。多分、ヘンな母性本能があり余りすぎて、息子が欲しいみたいな時期があったんですよ。そこに羽生君が登場して、まさに息子にしたいタイプだったんですよね。こんな息子が欲しいなと思っていたら、そのうち妙な色気を漂わせてきたので、いつの間にか恋愛感情とごっちゃになって、中性的なものに惹かれ始めたんですよね。それまでは結構マッチョなタイプが好きだったんですけど」

松居「それはBL的な趣味ではなくて?」

ペヤンヌ「ああ、でも好みが中性的な方向に行くと、どうしてもBL萌えみたいになってきますよね。そうなると性行為と現実的につながらなくなっちゃうから、だんだん恋愛からも遠のいていく。やっぱり性欲と恋愛が普通に比例したほうが健全なんじゃないですかねえ」

松居「もしかしたら僕は、性欲と恋愛欲が潜在的にはかけ離れているのに、無理やり一緒にしようとしているからうまくいかないのかもしれない気がします」

ペヤンヌ「そんな感じはしますよね」

松居「恋愛したい人に対して性行為を求めなければ、緊張せずにうまくいくのかもしれない。性欲は別モノとして……」

ペヤンヌ「それもちょっと危険だなあ。悲劇の始まりのような気がする。好きすぎて緊張して肉体的に反応しないという生理は、女性側としてはちょっとわかりづらいですよね。女性としてはやっぱり反応してくれないと悲しくなります」

松居「そうなんですよ。女性にそういう思いをさせたくないと思うことによって、ますます失敗するんです」

ペヤンヌ「うーん。ねじ曲がりすぎて、素直な人だったら好き=反応と直結するところが、つながらないんですね。そこが恋愛が進まない原因のような気もするなあ」

「ゆづるよりたつきかな」「ほう」(イラスト: 松居大悟)

(つづく!)

(c)Nobuhiko Hikiji

<著者プロフィール>
松居大悟
1985年11月2日生、福岡県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団"ゴジゲン"主宰、他プロデュース公演に東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」(作・演出)、青山円劇カウンシル#5「リリオム」(脚色・演出)がある。演劇のみならず映像作品も手がけ、主な作品としてNHK「ふたつのスピカ」脚本、映画監督作品「アフロ田中」、「男子高校生の日常」、「自分の事ばかりで情けなくなるよ」。近年はクリープハイプ、大森靖子らアーティストのミュージックビデオも手がける。次回監督作は映画「スイートプールサイド」2014年公開予定。

構成: 那須千里

タイトルイラスト: 石原まこちん