ゲスいぐらいでちょうどいい -大森靖子さん(3)

本当のことを知りたいのである。恋愛のことももちろんだけど、女性のことをもっと知りたいのだ――。この連載では松居大悟が、恋愛猛者の女性たちと熱き激論をかわしていきます。今回は、シンガーソングライターの大森靖子さんとの対談をお届けします。対談1回目の模様はこちら、2回目はこちら。

大森靖子(オオモリセイコ)
愛媛県生まれ。弾き語りスタイルでの激情的な歌が耳の早い音楽ファンの間で話題を集め、2013年3月に１ｓｔフルアルバム『魔法が使えないなら死にたい』を発表し、同年5月に東京・渋谷CLUBQUATTROでワンマンライブを実施。なぜかTIFに出演したり、重度のハロヲタと公言したり、レーベルや事務所に所属しないままチケットをソールドアウトさせ、大成功に収める。自身がボーカルを務めるロックバンド、THE ピンクトカレフでの活動も継続中。同年12月11日には自らが主催するPINK RECORDSより、プロデューサーにカーネーション直枝政広、ジャケット撮影に蜷川実花などを迎えた2ndフルアルバム『絶対少女』が発売中。2014年3月14日には恵比寿・リキッドルームにてワンマンライブを実施、avexよりメジャーデビューすることを発表をした。

"好き"の中心を探せ!

大森靖子さん(以下敬称略)「私の友達で、星のカービィと、カツ丼と、吹石一恵さんが好きで、その3つに近ければ近いものほど好きだという男の人がいるんですよ」

松居大悟さん(以下敬称略)「ほう」

大森「その人が最近ある女の子のことを好きになったんですけど、よく考えたら彼女は吹石一恵さんにも似ているし、どこかカービィにも似ているし、なんだかカツ丼っぽいんです。そういうのはないですか? それに似ているものを好きになる、というような、好きの中心みたいなものは」

松居「好きの中心……? なんだろう、挨拶がちゃんとできないとか」

大森「まさか私のこと??」

松居「いやいやいや(汗)」

大森「その点だけならすごく私のことみたいなんですけど……残念です(笑)」

松居「あ、ドラえもんはね、ずっと好きなんですよ。小学校の頃から」

大森「じゃあ丸い人が好きなのかな」

松居「丸い……そうなんだよな、あと優しくて……」

大森「青くて……」

松居「押し入れの中で寝てて……?」

大森「何でもくれる人だ。でもドラえもんはみんな好きでしょう!」

松居「あんまりそういうふうに考えたことはなかったけど(笑)」

大森「ほかには? 人間だったら?」

松居「あの、これを言うと一部の女性から非難囂々かもしれないですけど……蒼井優さん」

大森「フフフフフ。蒼井優ちゃんとドラえもん、遠いですねえ!」

---ドラえもん、蒼井優さん、ではもう一つは?

松居「うーん……これもあんまりよくないと思うんですけど……これをつけていたらグッとくるっていうアイテムが実は……ベレー帽をかぶっていたら相当やられますね」

大森「アハハハハ! それはまあ、手塚治虫さん経由で、ドラえもんにつながっているんですかね」

松居「ベレー帽の最強感はハンパない。町とか駅にいたらじっと見ちゃいますね」

大森「これでだいたい松居さんの理想像がイメージできますね。けどダマされたらガチでキツそうな子ですよね、その理想に当てはまる女子は」

松居「いや、理想といったらアレですけど……」

大森「一番ハマっちゃヤバいタイプですよね、ベレー帽かぶってて小さくてサブカル趣味で松居さんのことが好きだったら。ぜひハマっていただきたいですね(笑)。気持ちいいですよ、ボロボロになるのは」

世の中の"彼女"は全員メンヘラ!?

松居「出会い方としては、最初は僕に全然興味がない感じで来られると、惹かれるものが……」

大森「思いを達成したくないんじゃないですか? 自分に興味のない人をずっと好きでいたいんでしょ??」

松居「いや、違うよ」

大森「いや、そうだよ、多分」

松居「そうなのかな……?」

大森「ずっと追いかけている状態でいたいんですよ、きっと。だいたい"興味ない感じで来る"ってどういうことですか!? すげー難しいんですけど! だって本当に興味がなかったら行かないですからね」

松居「でもそこからの、実は興味あるのかよ! みたいな所が萌えポイント」

大森「難しいですねぇ。一度ものすごいメンヘラ女性とつき合ってボロボロになったらいいですよ」

松居「そんな人、どこにいるんですか?」

大森「どこにでもいますよ。世の中の"彼女"という存在の女子は、全員メンヘラですよ」

ファンに手を出しちゃダメ?

松居「自分がちょっとおかしいんじゃないかとも思うんですよ。いいなと思う人がいると、その人のTwitterを調べ上げて、日々タイムラインを追いかけたり……」

大森「もう女子じゃん!」

松居「ユーザー検索の履歴がものすごいことになって」

---それだけで自分の気持ちが満足しちゃったりしませんか?

松居「全然。むしろ高まります。この映画観たんだ→俺も観よう→今度会ったらその話ができるしな、みたいに考えたり……会わないけど(笑)」

大森「会えよ!」

松居「そうやって追いかけるのは好きなんですけど、実際のアクションは起こさないんですよ」

大森「DMとかすればいいんじゃない? みんなそうしてますよ。Twitterで"相談に乗るよ"って検索すると面白いですよ、だいたいそういう欲の塊の人がズラーッとヒットするから」

松居「誰かの相談に乗ろうとしている男性・女性がたくさん(笑)」

大森「一番早いのは、ファンとつき合えばいいんですよ」

松居「ええ!」

大森「自分に興味のない体で来られたいんだったら、大森靖子のファンですと言って近づいて来る子がベストじゃないですか?」

松居「僕自身には興味ないけど、その周辺への興味はある、みたいな? そこにつけこんで、PVを撮った話なんか散らつかせればいいのか(笑)」

大森「サイッテーー! それでボロボロにされて捨てられたら楽しそう(笑)」

松居「そもそもなんでファンに手を出しちゃダメなんだろう?」

大森「そんな決まりないよ」

松居「あるよ!」

大森「まあ映画監督だったらべつにいいのかな。バンドマンはダメ、みたいなのがあるけど。要はいっぱい手を出すからダメなんでしょう?」

松居「始まり方がズルいから? こっちが優位のまま始まる形だから」

大森「そのあとじゃない? あとがみんなマズいんじゃない?」

松居「だけど、そのぐらいハードルを下げるのはたしかにいいかもしれないな……」

大森「そんなことまで本気で考えしまうほど……本当にアレなんですね、深刻なんですね?」

松居「そうですよ!」

大森「私のファンは可愛いですよ。基本的にみんな歪んでいるんですけど、それも含めてオススメします」

松居「僕が手を出してもOKなんですか?」

大森「OKです、松居さんだったらぜひ(笑)」

松居「DM送っちゃう?」

大森「うん(笑)。みんなそうやって出会っているんじゃないですか? そういう話はいっぱい聞くし、そうすれば彼女はすぐできますよ」

松居「でもそんなのって……悲しいよね?」

大森「悲しい!」

ゲスいぐらいでちょうどいい

松居「自分が何者でもない状態から知り合って始まる恋愛ってよくないですか? それが一番健全じゃないですか。アーティストとしての大森靖子を知らない人からのアプローチはない?」

大森「大森靖子を知らない人は来ないんだよねえ。知らない人とは出会ったことがない」

松居「自分がこういう仕事をしていることを、利用したほうがいいのか、しないほうがいいのか……」

大森「でも利用しないと、それ以外の出会いはないでしょ?」

---そこは一歩譲歩するとして……。

松居「自分の評価が高いところから始まるのがイヤなんですよね。実際の中身はどうしようもないんで、下がる一方だから」

大森「とはいえ、そんなに高い状態からは来ないでしょう? だいたいバレてますよ」

松居「バレてるのかなあ、普段はクソつまんない男だってことが……。それはそれで哀しいなあ」

大森「いいねえ! 男なんてみんなつまんないから大丈夫だよ。それよりもっと、ごはんとか作ったほうがいいんだよ」

松居「ああー、そういうことね。尽くせばいいのか」

大森「まあ私はちょっと価値観が違うかもしれないけど……家ではオモシロとか意識しないでボーッとグダグダしてたいし」

松居「……面白いこと言わなくていい?」

大森「言わなくていい。仕事だけちゃんとしてればいいよ」

---仕事でカッコいいことをわかってくれている女性だったら、プライベートは区別して考えられるのでは? 仕事はできるのに、私の前ではこんなにダメなところも見せてくれるんだ! ……というギャップが萌えポイントになるかも。

松居「あ、そんな気がしてきた!」

大森「アハハハハ!」

松居「ダサいところを見せてもいいんだとしたら、どこにでも行けるじゃないですか……全方位じゃん!」

大森「そうだよ? 何も悪いところはないと思うけどねえ」

松居「魅力しかない! よし、自信がついてきた!!」

大森「楽しいことしかないよ!」

松居「ハッピー?」

大森「ハッピーだよ(笑)」

松居「そう考えるとすごいな、誰とでもつき合えるんだ! "相談に乗るよ"で一回つぶやいてみてやろうか……」

大森「松居さんの場合はそのぐらいゲスい気持ちで行って、やっと普通ぐらいだと思います(笑)。自分ではめちゃくちゃチャラくなるぐらいの気持ちで、ちょっとムリしてみましょうよ」

松居「うん、ちょっとムリします、この春は!」

(対談おしまい! 次回は反省コラム!)

(c)Nobuhiko Hikiji

<著者プロフィール>
松居大悟
1985年11月2日生、福岡県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団"ゴジゲン"主宰、他プロデュース公演に東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」(作・演出)、青山円劇カウンシル#5「リリオム」(脚色・演出)がある。演劇のみならず映像作品も手がけ、主な作品としてNHK「ふたつのスピカ」脚本、映画監督作品「アフロ田中」、「男子高校生の日常」、「自分の事ばかりで情けなくなるよ」。近年はクリープハイプ、大森靖子らアーティストのミュージックビデオも手がける。次回監督作は映画「スイートプールサイド」2014年公開予定。

構成: 那須千里

タイトルイラスト: 石原まこちん