本当のことを知りたいのである。恋愛のことももちろんだけど、女性のことをもっと知りたいのだ――。この連載では、松居大悟が、恋愛猛者の女性たちと熱き激論をかわしていきます。今回は前回に引き続き、『女は笑顔で殴り合う~マウンティング女子の実態~』(漫画家の瀧波ユカリさんとの共著)著者のイラストエッセイストの犬山紙子さんとの対談をお届けします。

犬山紙子
イラストエッセイスト。美女なのに恋愛が何故かうまく行かない女たちの生態を描いた『負け美女』(マガジンハウス)で作家デビュー。TBS『内村とザワつく夜』にレギュラー出演するなど、テレビやラジオでも活躍中。著書に『高学歴男はなぜモテないのか』(扶桑社新書)『街コンのホントのところ』(新人物往来社)、『嫌われ女子50』(KKベストセラーズ)ほか。

手を出さない男にときめく女心とは?

犬山紙子さん(以下敬称略)「これまでの対談も読ませてもらったんですけど、自分の美学としての、手を出さないオレっていうのがあるんですよね?」

松居大悟さん(以下敬称略)「あー、ありますね。大切すぎて抱きしめられない」

犬山「それ、ネタばらしされた後は萌えるんですけど、脈ないのかなって悩む女もいるから不器用な話ですよね……」

松居「泊まりに来て、一緒に寝ていたとしても、手を回す頃には朝になっている、みたいな。そこまでに時間がかかりすぎて」

犬山「アハハ、ショボい! でもそれを可愛いと思う女の層と、松居さんの好きな女の層が、ズレてるんですかね? そういう男の人をかわいいって言う女の人はいっぱいいるんですけど、そういう女性の話聞くと好きなタイプの男は自分のこと好きじゃないって事をよく嘆いていて(笑)」

松居「おお、なるほど! 今までの対談で、本当にその人のことを好きなヤツが手を出せないうちに、自分の欲を上手く見せられるヤツが、結局はホイホイとセックスできるんだから、損をしているぞみたいな話が出たんですけど……」

犬山「アハハハ! 松居さん良い具合に損してますね! せつね~」

松居「絶対にそいつより僕のほうが好きだ、と思うんですけどね」

犬山「ピュア目な男子ってオレの愛情のほうがアイツより多いのに……! って事言いますよね。前、童貞の男友達も好きな女友達に振り向いてもらえない時におんなじこと言ってて、私の中でこれを言う人はいい人だってイメージがあります」

松居「こう話すといいんですけど、実際には何も動けないだけですよ!」

誰もが認める美人には萌えない?

犬山「まあでも、そうすると、上手く女の子を口説けないってことかあ」

松居「そうなんですよ。でもモテたくて、モテる要素を増やそうとして、いい大学を目指すとか、外側のスペックを上げることによって、誘い水みたいなことをして……」

犬山「誘い水!」

松居「そこに相手が引っかかってきたらガッと攻める、みたいなことを考えていたんですけど、意外にみんな引っかかってこないなっていう……」

犬山「いや、何でしょう……やっぱり需要と供給が合ってないのかな……その前にガッと攻めるって言ってるけど本当に攻められるのか? という疑問もありますが(笑)……松居さんの好きなタイプというのは、なんかこう、生きにくそうな女の子なんですよね?」

松居「そうです、そうです。あと、本当は素敵な所なのに、本人はコンプレックスだと思って隠してて、周りは誰もそれに気づいていないみたいなポイントに、すごく萌えるんですよ」

犬山「あ、オレだけの学級委員長! オレだけが気づいている彼女の魅力、みたいな」

松居「そうそうそう」

犬山「私もそういうの好きなんですよね。世間からイケメンと騒がれているというだけで、その人はもう自分の中ではナシになっちゃうんですよ。そもそもカッコいい人にドキドキしたりとかも全然なくて、実は。自分の顔に本当に自信がなかった頃は、イケメンとつき合いたいと思っていたんですよ。でも化粧を覚えて、ある程度顔を作れるなとわかった瞬間に、美醜は自分で補完できるから、相手の男には美を求めなくなったんです。そうしたら本当にタイプの男はどういう顔なのかというのがわかったんですよね」

松居「コンプレックスがそうさせたっていうことですか?」

犬山「私の場合はそうでしたね。自分の顔が20点だから、相手は80点ぐらいで、足して100点でちょうどいいかなという考え方だったんですよね。あんまりよくない考え方ですけどね」

松居「へえー。僕は逆で、中学生の頃はものすごいデブで、勉強もスポーツもできなくて、その頃は自分という人間の男度に関して言うと20点ぐらいだと思っていたから、80点の相手なんかとてもとても……相手には失礼ですけど、自分と同じレベルの人じゃないと恋愛はできないな、とか、そういう高望みをしない方向で考えていましたね」

犬山「今はどうですか?」

松居「今はちょっと違うかもしれないですね。でも今もべつに美人には萌えないんですよ。なんでだろう?」

犬山「もともとみんなが好きなものは好きじゃない体質なんですかね?」

松居「なんか、生々しいものがいい、みたいな。リアルだなというか……」

犬山「そういう子が、実際に可愛いのと可愛くないのとでは、どっちがいいんですか?」

松居「ああー……それは、難しいですねえ……」

犬山「本当は可愛いんだけど、自分の可愛さに気づいていない、そんな女この世にいるのかよ!? っていう感じがしまけどね」

松居「だから見つからないんですかね?」

犬山「美に無頓着な子はたまにいるけど、自分の美に気付いていない子はかなりレアですよね。『私なんてかわいくないですよ』って、モテテクとして謙遜するやり方はあるじゃないですか」

松居「その謙遜がパフォーマンスか本気かというのはわかるんですよ」

犬山「でもそれがテクじゃなくて、本当に自分の可愛さに気づいていないとしたら、やっぱりつらい思いをずっとしてきたとか、何か事情があることが多いから、ワケありの子である率が高いということになるんですよね」

好きな男にマウンティングする心理

犬山「私は実は恋愛に対してはそれほどこじれていないんですよ」

松居「そうなんですか?」

犬山「はい。普通なんですよ……普通っていうか、結構すくすくのびのびとしているタイプだと思うんですよ」

松居「勝手に負け美女のイメージが一人歩きしているだけで?」

犬山「それもあるし、4年間彼氏がいなかった迷走期間があって、その間はすっごい恥ずかしいテクニックを使ったり、間違ったメールをしたり、深夜に電話をかけたりもしちゃっていたので、一見こじれているふうには見えるかもしれないけれど、実際は猪突猛進なので、好きになったらそのまま告白しちゃうタイプで」

松居「でもこじらせている人って、自分がこじらせていることにはあまり気づいていないという……」

犬山「それは言えますねえ……。でもそうか、好きなタイプに関してはちょっとこじれているかもしれないですね」

松居「いや、絶対にそうですよ。そうでなきゃ本は書けないですよ!」

犬山「男の趣味は、自分ではちゃんと理解しているつもりなんですよ。浮気をされるのだけは絶対に嫌なので、心が綺麗であることが第一条件ですね」

松居「条件を一個にする段階で、心が綺麗であることが最後に残ったのは、どうしてなんですか?」

犬山「次は結婚したいなと思っていたので……。ずっと一緒にいるなら性格のいい人がいいよなと思ったんですよ」

松居「やすらぎ、みたいな?」

犬山「それもあるし、相手の性格が悪かったら、本当に消耗するから。あとは私自身が、好きな男に対しては性格が悪くなっちゃうので、少しでも性格のいい人と一緒にいれば、影響されて自分もちょっと性格がよくなれるかなーみたいな気持ちで」

松居「なんで好きな人に対しては性格が悪くなっちゃうんですか? 意地悪したくなるっていうことですか?」

犬山「何なんだろう、偉そうなんですよ、私って。偉そうになっちゃうんです。マウンティング?」

松居「あ、マウンティング!」

※マウンティングとは……"サルがほかのサルの尻に乗り、交尾の姿勢をとること。動物社会における順序確認の行為で、一方は優位を誇示し他方は無抵抗を示して、攻撃を抑止したり社会的関係を調停したりする(『大辞林』)"。『女は笑顔で殴り合う~マウンティング女子の実態~』(瀧波ユカリさん、犬山紙子さんの共著)で、女子同士のマウンティングについて詳しく解説されている。

犬山「彼氏にはマウンティングしまくっちゃって、私エラいでしょ、みたいな感じになっちゃうんです」

松居「それは同性に対しての接し方とも全然違う?」

犬山「全然違いますね。私は同性に対しては下からいくタイプで。同性に嫌われることのほうがこわかったんですけど、今は彼氏に嫌われるのが本当にこわい……。もし嫌われるとしたら、いろんなことが積み重なって嫌われちゃうと思うので、今すぐ性格よくしないと、みたいな。どうしても自分が上の立場であるように接しがちだけど、相手を尊敬するとか、相手に感謝するというところは、徹底してやっています」

「くらえマウンティング固め」(イラスト:松居大悟)

偉大なるマヌケ力!

犬山「今は好きな方はいらっしゃるんですか?」

松居「いないっていうか、去年、半年ぐらい同じ人に告白し続けてダメで……」

犬山「プッ(笑)。あ、プッとか言っちゃダメですよね、すみません」

松居「大丈夫ですよ(笑)」

犬山「アハハハ、なんで笑っちゃうんだろう? そういうことを言われたときに、ほんと大変ですねえ、となる相手と、プッとなれる相手がいて。このプッて笑える感じって何だろう? なんか、すごくいいオーラなんじゃないですかね? マウンティングとは逆に無縁なんじゃないですか? 絶対にマウンティングしない感じがします」

松居「マウンティングは、されたらすぐわかるんですよ。だから絶対に自分はしないようにっていうのは意識して……」

犬山「おおお! 徳が高いんですねぇ。笑顔も徳が高い気がするし。なんか、こうお話していても、いいマヌケ感があるなあと思っていて。なんでそれが伝わらないんだろう? マヌケさを武器にはしていないんですか?」

松居「してないです、それをやったらマヌケじゃないでしょ(笑)。でも意識してる女性の前だと、こんなふうには喋れないですよ。カッコつけちゃって」

犬山「マヌケを封印しちゃってる!」

松居「封印……。カッコつけている自分に気づきながらも……」

犬山「こんなにいいマヌケ力を持っているのに……! 女の子に、どんなときに萌えるか、キュンとするかをアンケートを取ったことがあって、それがだいたいマヌケな瞬間というか。だからマヌケ力ってスゲー大事だなと思っていて」

松居「でも、マヌケなこととかをねらったらもう、サムいじゃないですか!」

犬山「ねらわなくても、普通にしているだけでマヌケ力があるから(笑)。ほんと失礼で申し訳ないんですけど、すごい褒め言葉で言っていて。なんか、笑顔になっちゃうというか。普通にしているだけでいいと思うんですよ。いいマヌケ力で勝負するのがいいんじゃないんですかね?」

(つづく!)

(c)Nobuhiko Hikiji

<著者プロフィール>
松居大悟
1985年11月2日生、福岡県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団"ゴジゲン"主宰、他プロデュース公演に東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」(作・演出)、青山円劇カウンシル#5「リリオム」(脚色・演出)がある。演劇のみならず映像作品も手がけ、主な作品としてNHK「ふたつのスピカ」脚本、映画監督作品「アフロ田中」、「男子高校生の日常」、「自分の事ばかりで情けなくなるよ」。近年はクリープハイプ、大森靖子らアーティストのミュージックビデオも手がける。次回監督作は映画「スイートプールサイド」2014年公開予定。

構成: 那須千里

タイトルイラスト: 石原まこちん