本当のことを知りたいのである。恋愛のことももちろんだけど、女性のことをもっと知りたいのだ――。この連載では、松居大悟が、恋愛猛者の女性たちと熱き激論をかわしていきます。今回は、漫画『いつかティファニーで朝食を』著者の漫画家・マキヒロチさんとの対談をお届けします。対談1回目の模様はこちら、2回目はこちら。
マキヒロチ
第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。リアルな人間模様を描いたストーリー漫画から、高級時計の専門漫画、ギャグエッセイなど幅広いジャンルで活動中。現在@バンチ(新潮社)にて「いつかティファニーで朝食を」、ゴーゴーバンチ(新潮社)にて「創太郎の出張ぼっちめし」などを連載中。
一回でいいからキスしていいですか?
松居大悟さん(以下敬称略)「前に好きだった人に、半年間で三回告白してフラれていて」
マキ「それはどうしてなんですか? 理由を教えてください」
松居「月一ぐらいで一緒にごはんを食べたり映画を観たりする状態が続いていて、三か月目にこれははっきり言おうと思って呼び出したその日に、彼氏がいることを知って。でも別れて駅の改札を通った瞬間に、今日言わなきゃもう終わりになると思って引き返して告白したら、10分ぐらいの沈黙の末に、彼氏と別れる予定はないと言われて」
マキ「うん」
松居「そのときに、これはちょっとクズな話なんですけど――自分の中で終わりにしたかったから傷つこうと思って、"一回でいいからキスしていいですか?"って聞いたんです。そうしたら、『マジで無理です』と思いっきり引かれて……。でまあ、この物語は終わったなと思っていたんですけど、その後でメールを送ってみたら返ってきたんですよ」
マキ「うん」
松居「それで一か月後ぐらいに会ったら、またちょっとイイ感じになったので、帰り道にもう一回告白してみたんです。そうしたら、『彼氏いるって言ったじゃないですか』と、怒られるような感じになって。だからあきらめるためにまた傷つこうと思って、今度は手をつなごうとしたら思いっきり拒否されて」
マキ「うん……(笑)。三回目は?」
松居「三回目は……この状況でこれ以上押しても無理だから、引かなきゃダメだとアドバイスされて、"好きな気持ちはあるけどもうそういうことは言わないからこれからも会ってほしい"というようなことを言ったんです。……そうしたら彼女が"じゃあもう連絡を取らなければいいんじゃないですか?"と。その後はメールを送ってももう返ってこなくなって……わりと引きずってるんですよ」
マキ「その彼女は、どんな職種の方だったんですか?」
松居「仕事関係で、しかも仕事的には僕のほうが立場が上だったんです。そりゃ僕がメールを送れば返してくれるし、僕が会おうと言えば会ってくれるんですよ」
マキ「権力を誇示して、断ったらマズい感じで迫ってたことになってたんじゃないですか(笑)?」
松居「そうなんです! ……というのは、後になって気づいたんですけど。あ、オレのことが好きで会ってくれてたわけじゃなかったんだって。完全にもう、パワハラみたいな……そりゃ断れないやり方になってたんだなと(笑)」
マキ「彼女はどうして何度も誘いにのってくるんだろうなと思っていたんですよ、話を聞きながら。やっと合点がいきました」
癒やしよりも冒険したい
マキ「松居さんはこの連載を通じてどこへ向かおうとしているんですか?」
松居「それはもう、結婚ですよ!」
マキ「結婚……」
松居「そこは夢の話ですけどね? でも目標はそれぐらい高く持たないと進んでいかないので(笑)」
マキ「なるほど。じゃあとりあえずは、自分とは職種も趣味も違う人をゲットすることが、次の目標ですね」
松居「自分の知らない世界を見せてくれるんじゃないかという人とワクワクしたいっていうか。癒やしみたいなものよりも、冒険したいというか」
マキ「冒険……どういう人がいいんだろうな、イモトアヤコさんみたいな人とか?」
松居「それはまた極端なところを! たしかに、物理的には行ったことのないところに連れて行ってくれるかもしれないですけど……(笑)。でも漫画家もわりと特殊な職業じゃないですか。関わる人はたいてい漫画関係になりませんか?」
マキ「男性の漫画家はアシスタントの女性と結婚したりする人が多いんですよ。でも女性の漫画家で同業者の男性と結婚する人は、あまりいないですねえ。周りだと、全然違う職種の人と結婚しているほうが多い気がします」
彼氏の有無はいつ聞く?
マキ「じゃあ、これから恋愛を始めたいと思う人ができたらどうしますか?」
松居「まずは一緒にごはん行こう、じゃないですか? ただ、そこでの時間の過ごし方がやっぱりわかっていないんですよね」
マキ「もし漫画家の女性を口説くとしたら、どんな会話から始めますか?」
松居「その人の描いた漫画を褒めまくるところからですね」
マキ「なるほど、好かれたい、というところから。じゃあ私がその話に興味がなかったとしたら、どうしますか? 趣味の話とかにします?」
松居「そうっすね、そうっすね。で、どこかに自分の話を滑り込ませて食いつくかどうかを見て、食いつかなかったらおだてて話を聞くキャラみたいになって……」
マキ「うん、うん。じゃあ二時間のうち、最初に相手の漫画の話、次に相手が興味のある話、最後は何にしますか?」
松居「あーどうしよう……。うーん、そうしたら相手のプライベートについての話ですよね。外側の話は大体終わったから、あなた自身の話を聞かせてくれと」
マキ「彼氏がいるのかどうかは、いつ聞くの?」
松居「聞かないです、聞かないです!」
マキ「聞かないの!? え、ダメじゃん(笑)」
松居「聞けないっすよ。だって一緒にごはんに行ってみて、僕に恋愛対象としての可能性はないなと思ったら、自分から彼氏の話をするもんじゃないですか?」
マキ「女のほうから? じゃあ相手が勝手にしゃべるのを待つ?」
松居「そうそうそうそう」
マキ「しゃべらなかったら?」
松居「彼氏はいないんだろうなって勝手に判断します」
マキ「でもさっきの話に出てきた彼女にはいたんでしょ?」
松居「そう、いたんですよ……!」
下心は全開にしていくべし!
マキ「自分からは言わない人もいるよ? チヤホヤされたい女の人はいっぱいいるから」
松居「いつ、どのタイミングで聞けばいいですか? いきなり聞いたら、"あ、コイツ来たな!?"と思われるじゃないですか」
マキ「いや、だから、下心のある人のほうがモテますよ、絶対」
松居「あ~~やっぱりそうか!」
マキ「目的のわからない人のほうが嫌ですよ。この人は自分を口説きにきているのか、人間として興味があるだけなのか、まずハッキリさせてほしいですよね。だからできるだけ早いうちに、君は彼氏はいるのかい?と……」
松居「そうか、じゃあ序盤に聞いたほうがいいんですかね? その会の主旨として、オレは君を恋愛対象として見ているから、そういうつもりでここから二時間いくつもりだぞということを、最初に明らかにしたほうが」
マキ「うん、うん。そのほうが女の子も内心ではうれしいはずですよ。もう席に着いた途端に、"いや~なんか二人っきりで僕らカップルみたいだけどゴメンね? 彼氏いなかった? 大丈夫?"みたいな感じで」
松居「あ、それいいじゃないですか! 自然だなあ、それ!」
マキ「彼氏がいたらいたで、そのまま友達として接していけばいいし、"いないですよー、だから誘ってくれてほんとうれしい!"なんて言ってきたら……」
松居「それいいなあ! "彼氏いない? 大丈夫だった? ゴメンね?……"(練習中)」
マキ「今年はどんどん出していきましょう、下心を」
(c)Nobuhiko Hikiji
<著者プロフィール>
松居大悟
1985年11月2日生、福岡県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団"ゴジゲン"主宰、他プロデュース公演に東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」(作・演出)、青山円劇カウンシル#5「リリオム」(脚色・演出)がある。演劇のみならず映像作品も手がけ、主な作品としてNHK「ふたつのスピカ」脚本、映画監督作品「アフロ田中」、「男子高校生の日常」、「自分の事ばかりで情けなくなるよ」。近年はクリープハイプ、大森靖子らアーティストのミュージックビデオも手がける。次回監督作は映画「スイートプールサイド」2014年公開予定。
構成: 那須千里
タイトルイラスト: 石原まこちん