本当のことを知りたいのである。恋愛のことももちろんだけど、女性のことをもっと知りたいのだ――。この連載では、松居大悟が、恋愛猛者の女性たちと熱き激論をかわしていきます。今回は漫画『いつかティファニーで朝食を』著者の漫画家・マキヒロチさんと対談してきました。
マキヒロチ
第46回小学館新人コミック大賞入選。ビッグコミックスピリッツにてデビュー。リアルな人間模様を描いたストーリー漫画から、高級時計の専門漫画、ギャグエッセイなど幅広いジャンルで活動中。現在@バンチ(新潮社)にて「いつかティファニーで朝食を」、ゴーゴーバンチ(新潮社)にて「創太郎の出張ぼっちめし」などを連載中。
何をもって童貞とするか?
松居大悟さん(以下敬称略)「三年ぶりぐらいですか?」
マキヒロチさん(以下敬称略)「そうですね。(漫画家の)石原まこちんの紹介で会ったとき以来かな?」
松居「あのときはまこちんさんに、この人には絶対に会っておくべきだよ、きっと価値観が変わるからって言われてて。この連載を始めようとしたときも、マキさんには絶対にゲストに来てもらおうと思っていたんですよ」
マキ「ホントですか? ありがとうございます。でもそれならどうして第一回目のゲストじゃなかったんですか?」
松居「いやいやいや! まずはちょっとエンジンをかけてからと思って……」
マキ「そうですかー(笑)。ところで松居さんの恋愛の現状は、この連載ではどのぐらい明かされているんですか?」
松居「情報的には、三年前に話したものと同じぐらいの内容は共有できていると思います」
マキ「ということは、まだ童貞なんですか?」
松居「それはちょっと……まあまあまあ」
マキ「まだ守られているんですか?」
松居「それはどこからを童貞と言うか、という概念の問題じゃないかと思っているんですけど」
マキ「どこからというのは……?」
松居「心が一つになった段階で童貞じゃないとするならば……」
マキ「あぁー……。じゃあ率直に"童貞ですか?"と聞かれたら、どっちですか?」
松居「シロかクロかってことですか? 僕は童貞じゃないと思っているけど……君はどう思う? みたいなとこですかね」
マキ「アハハハハハ、そうですかー。じゃあ童貞じゃないですね!」
松居「お、ありがとうございます!」
男嫌いの正体とは?
松居「マキさんは男性が嫌いだとおっしゃっていましたけど、それは本当に嫌いなやつなのか、好きの裏返しで嫌いのやつなのか、どっちなんですか?」
マキ「本当に男の人を好きな女の人っているじゃないですか。つらいときに男の人によってしか満たされないような。私はそうじゃなくて、女友達が相手でも発散できるタイプなんです。あと、極端に女の子のほうが好きなんですよ。可愛いし優しいし、イイ匂いがするし。仕事のアシスタントさんが、男と女で同じミスをしたら、そのときの対応は全然違いますね、怒りの度合いが」
松居「えぇー!?」
マキ「女の子だったら"しょうがないなあ"という感じですけど、男の人だったら"マジで何なの? 何回同じミスをするつもり?"みたいな」
松居「アシスタントは男も女もいるんですか?」
マキ「男、ばっかりですね」
松居「女だけにすればいいじゃないですか(笑)」
マキ「結果的におじさんばっかりになっちゃって。だから『いつかティファニーで朝食を』は、おじさんみんなで描いているんですよ(笑)」
松居「おじさんがおしゃれなパンとか描いてるんだ(笑)」
マキ「そう。でも、おじさんを怒ったりしなきゃいけないのはやっぱりつらいし、怒っている人自身もみっともないと思うから嫌なんですけど、それでも堪えられないぐらいに男への怒りが強いですね」
松居「若い男でも?」
マキ「若い子も嫌ですね」
仲間とだったら恋愛できる?
松居「どうしてそんなに男が嫌いなんですか?」
マキ「男に関してはいろいろとトラウマがあるんです。まず父親と一緒に暮らした経験がなく、小学生のときに同級生の男子にタコ殴りされ、電気グルーヴの「ブス女(B・A・S・S)」を聴いて――"君はとってもブスだから~僕の後ろを離れて歩け"という歌詞なんですけど――、男とはとにかくヒドい生き物なんだという考えを植えつけられたんです。電気グルーヴは大好きですけど。だから男への恐怖心は大きくて、基本的に宇宙人みたいな感じでよくわからない」
松居「でも恋愛はするわけですよね?」
マキ「たとえば、『あなたが好きです』『え、私のことを!?』『僕も電気グルーヴ好きだし』『もしかしたらこの人は私の仲間かもしれない……!』みたいに、仲間として契約を結ぶような流れになると、男の人でも好きになります」
松居「ああ、そういうことなんですね。なんかわかります。女の人に傷つけられるかもしれないと思うと自分をガードしちゃいますね。そういう部分さえも認めて受けいれてくれる相手だったら、こっちも心の鉄の扉を開けて行けるんだけど……」
マキ「でもその扉の中に入れる男の人は、私の場合は一人しかいないんですよ」
松居「……えっと、つき合う人ってことですよね?」
マキ「もしくは、長年の男友達。10年間ぐらい親しくしていて殴らなかったから、今後も殴らないだろうと思える人であれば(笑)」
松居「たいていの人は殴りませんよ(笑)」
マキ「でもやっぱり怖いです、男の人が。私が敵対心を抱いているから、男性のほうも私のことを怖がる人は多いですよ」
松居「ふーん。でもマキさん自身は、"殴られるかも!"みたいな怯えたオーラはまとっていないですよね?」
マキ「多分、"殴らせないぞ!"という気迫で武装しているんだと思います」
好きな人にはどう近づく?
---これまでおつき合いしてきた方とはどういうふうに知り合ったんですか?
マキ「最初につき合ったのは、中学生のときの同級生でした。卒業した後に、卒業アルバムの住所を見て、相手のほうから連絡が来たんです。それまではクラスの中でいじめられたくもないし、誰かをいじめたくもないから道化のポジションを歩んでいて、女としては見られないような生き方をしてきたから、すごくビックリしましたね」
松居「でも、意外とそういうタイプの人を女として見ている男もいるんですよ。ただ、そういう奴は自分の思いを露にできないので、相手にも伝わらないと思うんですけど」
マキ「イメージ的には『ゴーストワールド』(01)のヒロインのイーニドみたいな生き方をしていたんですけど、相手の男の子は学級委員だったんですよ! 結構目立つタイプの人でした。一度仲間だと思えたら、それからは一途についていきますね」
松居「じゃあやっぱり好きなんじゃないですか? 男の人が」
マキ「彼氏という生き物限定ですね。こんなことを言ったらイヤな感じに聞こえるかもしれないですけど、基本的に男の人が好きじゃないし、自分に自信もないので、自分から告白したことは一度もないです。たまにそこをこじ開けてくれる人が現れるという感じで」
松居「もし自分からつき合いたいと思う人が現れたらどうするんですか?」
マキ「もう見ているしかないですよねえ。考えてみたら、"好きな人"はやっぱりあんまりいなかったかなあ。お互いに何となく惹かれ合う、というのはありますけど、一方的に好きになるということは、大人になってからはないかもしれないですねえ。松居さんは好きな人にはどう近づくんですか?」
松居「僕は脚本書いたり編集したりしてるとき、ずっと一人で作業してるから異常に寂しくなるんですよ。ものすごい承認欲求というか、相手に読んでもらって"いいね"と言われたいみたいな気持ちから、連絡してみたりしますね。そういうのはあんまりないですか?」
マキ「自分の漫画を読んでほしい、みたいな? うーん、私の場合は恋愛で認められたいと思うものが漫画じゃないのかなあ。好きな人に自分の漫画って見せたことないかも!」
松居「えー!?」
マキ「あなたに一番に見せたいよ、みたいな気持ちはないかもしれない」
松居「そうかあ。僕はずっとモテたいエネルギーで創作を頑張るようなところがあったんですよ、チヤホヤされたいみたいな気持ちが原動力となって。そういう創作の元となるようなエネルギーってありますか?」
マキ「創作のエネルギ?は……あ、この前サイン会をやったんですけど、かわいくておしゃれな女の子がいっぱい来てくれて、マジでうれしくて! こういう子たちにもっと来てほしい!! と思いました。だからかわいくておしゃれな女の子に認められたいですね」
松居「へえ、男の人よりも?」
マキ「そうですねえ、やっぱりかわいい女の子がかわいいお菓子を持ってきてサイン会にくれたほうが、いいじゃないですか(笑)」
(つづく!)
(c)Nobuhiko Hikiji
<著者プロフィール>
松居大悟
1985年11月2日生、福岡県出身。劇作家、演出家、俳優。劇団"ゴジゲン"主宰、他プロデュース公演に東京グローブ座プロデュース「トラストいかねぇ」(作・演出)、青山円劇カウンシル#5「リリオム」(脚色・演出)がある。演劇のみならず映像作品も手がけ、主な作品としてNHK「ふたつのスピカ」脚本、映画監督作品「アフロ田中」、「男子高校生の日常」、「自分の事ばかりで情けなくなるよ」。近年はクリープハイプ、大森靖子らアーティストのミュージックビデオも手がける。次回監督作は映画「スイートプールサイド」2014年公開予定。
構成: 那須千里
タイトルイラスト: 石原まこちん