戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家など1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた渡辺秀和氏(株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO)が、キャリアアップを目指すビジネスパーソンの疑問・お悩みに答えます。
今回のお悩みは「地方への移住に憧れています。しかし、収入が減ってしまうのが心配で、なかなか決断できません。どうすればよいでしょうか」です。
Q. 地方への移住に憧れています。しかし、収入が減ってしまうのが心配で、なかなか決断できません。どうすればよいでしょうか
A.「都会水準の恵まれた収入」と「地方での豊かな生活」を両立させることも可能になってきています
「都会水準の収入を得ながら、地方に暮らす」という新たなライフスタイル
今、ビジネスパーソンの間で国内移住への注目度が高まっています。私たちの会社にも、移住を希望する方からの転職相談が増えています。
移住の目的も、ご相談者によってさまざまです。海や山の近くに住み、アウトドアの趣味を満喫したい。京都や神戸など、以前から憧れていた都市に暮らしたい。健康のために、草津や別府などの温泉街に住みたい。あるいは、親の介護のために実家に戻りたいという方や、「教育移住」を希望する子育て世代の方もいらっしゃいます。
また、昨今は「ご自身やご家族のライフステージに合わせて住む場所を変える」という考え方の人も増えました。さらに、平日は都心で働き、週末は地方で過ごすといった「二拠点ライフ」を送っているケースも珍しくありません。
このような働き方・生き方が可能になってきた背景には、コロナ禍をきっかけとしたリモートワークの急速な普及があります。
業界や職種にもよりますが、リモートワークを導入する企業が増えてきたことで、「都会水準の恵まれた収入」と「地方での豊かな生活」を両立するという、新しいライフスタイルが実現可能になったのです。
「国内移住時代」が到来か? ~リモートワークで広がる可能性
国内移住が可能な仕事として真っ先に挙がるのが、システムエンジニアやプログラマーといったITエンジニア、あるいはWebデザインや動画制作などのクリエイターです。これらの業界はリモートワークにシフトしやすいため、他業種に先駆けて移住が進みました。
さらに、デジタルマーケティングやカスタマーサクセス、リサーチャー、企業研修インストラクター、翻訳、通訳といった職種においても国内移住が進んでいます。一部の企業では、営業や秘書、事務のサポート業務を、地方に暮らす社員がリモートで行っているケースも出てきています。
意外に感じるかもしれませんが、大手コンサルティングファームに勤務しながら、地方で生活する方も増えているのです。重要なミーティングがあれば東京に移動できるくらいの距離に居住しながら、日々の業務はほぼフルリモートという柔軟な働き方を実現しています。
キャリア支援を行なう私たちの会社でも、リモートワークと出社を組み合わせた「ハイブリッド型」の勤務形態を導入しています。かねてより憧れていた京都に家族で移住し、公私ともに充実した日々を送っているベテラン社員もいます。
ただし、これらの企業においても、社員個々のスキルレベルに応じてフルリモート勤務の可否を判断する傾向がある点には、注意が必要です。
フルリモート勤務可の企業へ転職するには
現在の勤務先の事情から「国内移住は現実的ではない」という方も少なからずいらっしゃるかと思います。
しかし、担当業務で高い専門性を持つ方であれば、リモートワークを導入している企業への転職も十分に視野に入ってくるでしょう。現在、人材市場は売り手市場です。採用企業から高い評価を得られれば、フルリモート勤務を前提とした転職の可能性もあります。
ただし、「フルリモート勤務可」と明記されている求人は、それほど多くありません。採用企業としては、候補者一人ひとりのスキルレベルや自己管理能力、プロ意識の高さを見極めたうえで、判断したいと考えています。つまり、「人によってはフルリモート勤務可」というのが実態なのです。
そのため、求人票にフルリモート勤務可と記載されていないからといって、対象外と決めつけるのはやや早計と言えるでしょう。採用窓口に相談することで、柔軟に検討いただけることもあるのです。
また、応募ルートによって選考の結果が変わり得る点にも、注意が必要です。人事や採用の窓口へ応募してNGとされても、経営者に直接アプローチすることで、フルリモート勤務で採用される場合もあります。これは、合否を判断する人によって、裁量権の大きさが異なるためです。
弊社のキャリア支援においても、リモートワーク勤務可を謳っていない企業に対し、経営幹部などにダイレクトに打診することで、内定に至るというケースは数多くあります。もちろん、応募ルートだけではなく、自身のスキルや能力を効果的にアピールできるよう、応募書類を整えたり、面接の対策をしっかりと行なったりすることは重要です。
少し脱線しますが、ここまでお話しした「人によってはフルリモート勤務可」という待遇は、必ずしも転職の際に限ったことではありません。
コロナ禍以前、ある外資系企業に勤務していた女性の事例をご紹介します。彼女は出産を機に、フルリモート勤務を会社に希望しました。当時、リモートワークはまだ非常に珍しい頃だったので、ご本人としても駄目もとでの申請でした。ところがなんと、その企業のグローバル全体で初となる「フルリモートOK」の許可が下りたのです。彼女は、若いうちからやや特殊な領域で経験を積み、高い専門性を持っていました。「このような優秀な人材に辞められてしまうと、他の候補を探すのは困難だ」と本社が判断したのです。
この女性のように、一定期間努力をして特定の分野で力をつけてしまえば、企業から「かけがえのない人材」と評価され、フルリモート勤務や時短勤務が認められ、なおかつ高い収入が得られるようになります。その結果、育児や親の介護といったライフイベントが生じても、自由度の高い働き方を選択できるようになるのです。
自分らしい生き方を実現する鍵は「キャリアの自由度」
将来、地方に移住したいと考える若い方は、リモートワークしやすい職種でスキルを磨いておくことをおすすめします。その会社で充分な専門性を身に着けたあとで、フルリモートが可能な企業に転職する、あるいはフリーランスとして独立することで、国内移住を実現する。このようなキャリアの道筋を描くとよいでしょう。
私たちの会社にも、将来を見据えて、20代~30代の皆さんが数多くキャリアのご相談に訪れます。近年は、高い専門性を身につけやすく、30代後半の未経験者でも採用されることが珍しくない、コンサルティング業界への転職が人気となっています。
そもそも、職種を問わず、スキルレベルが低ければ、フルリモートで活躍することは困難です。重要なのは、先ほどフルリモート勤務の例に挙げた外資系企業に勤める女性のように、若いうちからスキルを磨き、「キャリアの自由度」を高められるよう、主体的にキャリア設計することなのです。
「キャリアの自由度」という視点は、人生設計においても非常に大切です。
育休や時短勤務など、働きやすい制度環境が整っていたとしても、その企業に勤務し続けられるとは限りません。親の介護など、プライベートの事情によっては勤務先を離れざるを得ない状況も起こり得ます。また昨今では、在職企業が外資系企業に買収されて、大規模なリストラが行われるケースもあります。「どこで、どのように働くか」を自分の意思で選択できる自由度を持つことは、不確実性が増す現代において、ますます重要になるでしょう。
国内移住は、単なる居住地の変更ではなく、自分らしい生き方を具現化するための素晴らしい選択です。国内移住を検討されている方々にとって、リモートワークの普及や人材市場の活況は、まさに追い風と言えます。ぜひ、ご自身の価値観を大切にしながら、長期的な視点でキャリア設計に取り組んでいただきたいと思います。