戦略コンサルタント、投資銀行・ファンド、外資系エグゼクティブ、起業家など1000人を超えるビジネスリーダーのキャリアチェンジを支援してきた渡辺秀和氏(株式会社コンコードエグゼクティブグループ 代表取締役社長CEO)が、キャリアアップを目指すビジネスパーソンの疑問・お悩みに答えます。
今回のお悩みは「『好きなことを仕事にするべき』という考え方がある一方で、『稼げる仕事に就くべき』という意見をネットや本ではよく目にします。どちらを選ぶべきでしょうか」です。
Q. 「好きなことを仕事にするべき」という考え方がある一方で、「稼げる仕事に就くべき」という意見をネットや本ではよく目にします。どちらを選ぶべきでしょうか
A. どちらも、やや極端な意見かも知れません。多くの場合、「好き」と「収入」を両立させる仕事は、適切な「自己分析」によって見つけることができます
「好きなことを仕事にする」とは、どういうことか?
ビジネスパーソンにとって、長期間取り組むことになる毎日の仕事で楽しいと思えるのか、やりがいを持てるのか。それによって、人生の充実度は大きく変わることでしょう。
また、選んだ仕事が「好きなこと」であれば、長時間でも楽しく取り組めるはずです。没頭し続けることで、人よりも得意になれます。その道で一流になることができれば、社会に与える価値も高まり、比例して収入も高くなっていきます。
このように、好きなことを仕事にしたほうが、精神的にも経済的にも、そして社会的にも、得るものが大きくなると考えられます。これは、数多くのビジネスリーダーたちも、異口同音に語るところです。
ただし、「好きなことを仕事にする」とはどういうことなのか、改めて考えてみる必要があるかもしれません。
「好きなことを仕事にする」といった場合、一般的には「サッカーが好きだからサッカー関連の仕事に就く」「服が好きだからアパレルに勤める」と捉えられることが多いようです。しかし、このような発想で仕事を探すとなると、選択肢がかなり絞られてしまいます。年齢や能力的に就くことが難しかったり、収入が大幅に下がってしまったりするなど、現実的ではない仕事ばかりが選択肢となってしまうこともあるでしょう。
一方で、私たちが考える「好きなことを仕事にする」は、このような考え方とは異なります。そもそも、多くの人々にとって、好きなことは1つだけではないはずです。自分でも意識していなかった、いくつもの「好き」が浮き彫りになれば、仕事の選択肢が一気に広がります。
以下に、「好き」と「収入」を両立させるための、自己分析の方法を見ていきましょう。
「好き・嫌い分析」で「好きのエッセンス」をつかむ
たとえば、自分が将棋を好きだとします。だからと言って、「日本将棋連盟に勤めよう」といきなり決めつけてしまってはいけません。
まずは、自分はどういうことが好きなのかを、しっかり把握する必要があります。そのために有効な手法が、「好き・嫌い分析」という自己分析です。
「好き・嫌い分析」では、自分が好きなこと(例:将棋)のどのような点が好きなのかを、要素分解していきます。
ひと口に将棋が好きだと言っても、その理由は人によってさまざまです。良い作戦を用意して実戦で試すことが楽しいのか、勝負のスリルが楽しいのか、頭がちぎれそうなほど考えることが楽しいのか、最新の研究を学ぶことが楽しいのか、などなど。愛棋家同士でも、将棋のどの要素が好きなのかは異なるでしょう。自分はその中のどの要素が好きなのかを、把握していくのです。
次に、「一人旅」「友人の相談に乗ること」「映画鑑賞」など、将棋以外の好きなことについても、同様の手順で要素分解をしていきます。
このように要素分解をしていくと、共通項となる要素が浮かび上がってくることでしょう。もし、「良い作戦を用意して実戦で試すこと」「旅のプランを練ること」「相談に対する解決策を考えること」といった要素が共通しているのであれば、「作戦を考えること」が、自分は好きなのかもしれません。
このようにして、共通項となる要素から、自分にとって大切な「好きのエッセンス」をつかんでいきます。分析が終わる頃には、数個の「好きのエッセンス」が抽出されているでしょう。この「好きのエッセンス」こそが、仕事を選択する際の軸となります。
「好きのエッセンス」をつかむ2つのメリット
「好きのエッセンス」を把握すると、仕事の選択に際して2つのメリットが生まれます。
1つめは、「好き」の純度が高い仕事を見つけられるようになることです。
たとえば、仕事Aには「好きのエッセンス」が1つしか含まれていなかったが、仕事Bには3つ入っていたとすれば、Bを選ぶと良さそうだとわかります。あるいは、好きのエッセンスを掛け合わせることで、好きの純度が非常に高い仕事を、新たにつくり出すことも可能かもしれません。このように好きのエッセンスを把握することで、好きの純度が高いことを仕事に選ぶことができるようになるのです。
2つめは、仕事選びの可能性の幅が広がり、「現実解」を見つけやすくなることです。
たとえば、将棋が好きだけど、年齢や才能の点から、プロ棋士というキャリアを選べなかったとします。それでも、「よい作戦を立てること」が自分の「好きのエッセンス」なのであれば、経営コンサルタントや経営企画、マーケティングなど、他の選択肢も見えてきます。このように、好きのエッセンスを軸に仕事を検討すると、可能性が広がるのです。
冒頭でもお話ししたように、自分が好きなことであっても、身体能力的に難しい仕事や、収入が大幅に下がってしまう仕事など、現実的ではない選択肢が出てくるかもしれません。その際に「好きのエッセンス」がわかっていれば、現在持っているスキルや経験を活かすことができる「現実解」としての仕事を、ほかに見つけやすくなるのです。
「嫌いのエッセンス」がわかれば、避けるべき仕事がわかる
好きなことだけでなく、嫌いなことについても同様に分析し、「嫌いのエッセンス」をつかむことも、キャリアの選択においてとても大切です。
たとえば、「上司にへつらった者勝ちの社風が嫌い」「大量に暗記することが嫌い」など、社会人経験を積む中で見えてきた、どうしても嫌いなことが皆さんにもあるかと思います。
どうしても嫌いなことがわかれば、避けるべき仕事や職場環境を判断できます。仮に、「好きのエッセンス」を満たす仕事だとしても、「嫌いのエッセンス」が含まれていれば、選択肢として避けるようにするのです。
仕事で大きなストレスを受けないため、短期間での離職を避けるためにも、この観点は非常に大切です。
このようにしてつかんだ、「好き・嫌いのエッセンス」をもとに検討していただくと、自分の価値観と合った仕事を選択しやすくなります。自分でも想定していなかったような、「好き」と「収入」を両立できる選択肢が見つかるかもしれません。
日記は、好き・嫌い分析に役立つ貴重なデータベース
「好き・嫌い分析」を行う上で、おすすめしたいのは「日記(記録)」をつけることです。自分が日々どのようなことを楽しいと感じ、何を嫌いだと感じたのか、何に憤りを感じ、どんな人を助けたいと思ったのかを記録していくことは、自分の好き・嫌いを知る上で大変有効です。
この作業を続けていくと、好き・嫌いに関するデータが膨大にたまります。1年ほど書きためた後で振り返ってみると、自分の好き・嫌いがクリアにわかるようになるでしょう。
もし可能であれば、「好きのエッセンス」を含む仕事を、副業やボランティアなどで実践し、本当に自分に合っているのか、収入面はどうなのかなどを検証することも有効です。
自分の価値観を探る作業は、日々少しずつ、ゆっくりと行なうのがおすすめです。キャリアの見直しをお考えの方は、ぜひ、転職活動を始める前から日記をつけ、ご自身の価値観をつかんでおいて頂くと良いと思います。
「好き・嫌い分析」については、こちらの記事でもわかりやすく解説しています。
就活サイト「CareerPod」解説記事|「目指す将来像」を設定する~好き・嫌い分析