2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第3回は「平成3年(1991年)」。
平成3(1991)年は、1月17日に湾岸戦争が勃発。各局が報道特別番組を放送する異例の事態となり、視聴者を困惑させた。3月には、女子大生ブームの終えんや深夜番組の過激さが問題視されたことで『オールナイトフジ』(フジテレビ系)が終了。
10月には『オールスター感謝祭』(TBS系)、『たけし・逸見の平成教育委員会』(フジテレビ系)、『とんねるずの生でダラダラいかせて!!』(日本テレビ系)、『ギルガメッシュないと』(テレビ東京系)、12月には『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)と、平成初期を代表するバラエティがスタートした。
一方、ドラマでは社会現象となる作品が続出。平成元年・2年に続いてフジとTBSの2強状態は変わらず、TOP3には両局の「現在こそこんなドラマを放送してほしい」傑作を選んだ。
『オヤジぃ。』『おとうさん』につながる父親像
■3位『パパとなっちゃん』(TBS系、田村正和主演)
1987年の『パパはニュースキャスター』、1988年の『パパは年中苦労する』に続く、田村正和の“パパ”シリーズ第3弾。前2作は思わぬアクシデントで子どもたちと生活することになったモテ男のコメディだったが、父娘2人の関係性を描くハートフルなホームドラマに一変した。
腕利きの建築士で色男なのに、娘のことになると情けなくカッコ悪い父親になってしまう志村五郎(田村正和)と、父親のことを思いながらも、時にぶつかり、愛する人についていく決意を固める娘・夏実(小泉今日子)。
物語は夏実の20歳から25歳で結婚するまでを描いたものだが、小学校の入学式、授業参観、高校の卒業式など、それ以前を振り返るシーンも多く、どの瞬間も夏実を思う五郎の愛情であふれている。
その溺愛ぶりは見る者に気恥ずかしさを感じさせるほどだが、最終的に微笑ましさが上回るのは、さすが田村正和。結果的に、2000年の『オヤジぃ。』(TBS系)、2002年の『おとうさん』(TBS系)で見せた熱い父親像につながる作品となった。
家事の面から父娘を支えるなど、優しく見守る亡き妻の母・森脇まどか(白川由美)、夏実を思う生協のスタッフ・梅田大介(浜田雅功)など、脇役にも愛情深いキャラを配置。全編を通して、優しさと温かいムードであふれていた。
プロデュースに八木康夫と貴島誠一郎、演出に生野慈朗と遠藤環、脚本に山元清多と、「ホームドラマのTBS」をけん引してきたスタッフがそろい、結末は切なさと感動で、もらい泣きさせられること必至。主題歌は小泉今日子の「あなたに逢えてよかった」。小泉が「自らの経験を踏まえて作詞した」曲であり、ミリオンセラーとなるなど自身最大のヒットとなった。
感動を誘うCHAGE&ASKA「SAY YES」
■2位『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系、浅野温子主演)
説明無用の傑作。流行語となった「僕は死にましぇ~ん」だけでなく、星野達郎(武田鉄矢)が必死に練習したピアノ曲『別れの曲』、矢吹薫(浅野温子)のため息が出るほどの美しさとモノマネされる過剰な演技、達郎と弟・純平(江口洋介)のおバカながらも温かい兄弟愛など、視聴者を楽しませる要素の多い作品だった。
そもそも美男美女がキラキラの恋模様を繰り広げるトレンディドラマ全盛期に、汗臭い中年男性を起用したことで世間は騒然。『東京ラブストーリー』(フジテレビ系)が世間の話題をさらったあとだっただけに、否定的な声も少なくなかった。
しかし、薫の気持ちをつかむために、ボーナス全額を競馬につぎ込み、トラックの前に飛び出し、ピアノを猛練習し、恋敵に仕事を追われて司法試験に挑む、ひたむきな姿を見るうちに、視聴者の達郎を見る目が激変。「人は頑張れば変われる」「努力すれば最後は報われる」という日本ドラマ史に残るハッピーエンドで、初回20.3%から36.7%まで視聴率を上げてフィニッシュした。
そんな野心作に挑戦したのは、若かりし日の野島伸司と、大多亮プロデューサーのコンビ。「時代を追いかけるのではなく、新たな時代を切り拓く」というポジティブなスタンスがいかにもこの2人らしかった。
薫の妹・千恵(田中律子)と純平、純平に思いを寄せられる岡村涼子(石田ゆり子)と薫にフラれた沢村尚人(竹内力)の恋模様も微笑ましく、藤井克己(長谷川初範)も唯一のヒールを好演。西村由紀江の劇伴は叙情的に、主題歌のCHAGE& ASKA「SAY YES」は感動的に、物語を盛り上げた。
個人的なツボは、達郎と純平が薫の父・孝夫(小坂一也)にカッパの鳴きマネをさせられるシーン。ちなみに、中韓合作でリメイクされたチェ・ジウ主演版もなかなかのクオリティだった。