2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろした「平成」。この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第20回は「平成20年(2008年)」。
平成20年(2008)は、8月に北京五輪が開催され、ソフトボール日本女子代表、石井慧、吉田沙保里らが金メダルを獲得するなどメダルラッシュに沸いた。ただ、五輪で飛び出した北島の「何も言えねえ」以上に盛り上がり、流行語大賞に輝いたのはエド・はるみの「グ~!」。現在以上に一発ギャグ全盛期だった様子がうかがえる。
バラエティでは『VS嵐』(フジテレビ系)、『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日系)、『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)、『しゃべくり007』(日テレ系)、『男子ごはん』(テレビ東京系)、情報番組でも『情報7daysニュースキャスター』(TBS系)などの現在も続く番組がスタートした。
ドラマのTOP3には、「地味だが泣ける」、静かな感動を呼ぶ作品を選んだ。
※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
■「知的障害者の子育て」難テーマに挑戦
3位『だいすき!!』(TBS系、香里奈主演)
テーマは、軽度の知的障害を抱える女性の子育て。今振り返ると、かなり思い切ったテーマにトライしていたことがわかる。ヒロイン・福原柚子(香里奈)が、恋人に死なれ、周囲から反対されながらも出産し、愛娘・ひまわり(松本春姫、佐々木麻緒)を育てる様子をハートフルに描いた。
視聴者を魅了したのは、柚子の無垢さと、彼女を取り巻く人々の優しさ。世間の人々から冷たい視線を浴びるほど、母・福原美代子(岸本加世子)との母娘愛、弟・福原蓮(平岡祐太)との姉弟愛が際立ち、障害者施設スタッフの安西真紀(紺野まひる)、健常者のママ友・野村陽子(MEGUMI)、ひまわりが通う保育園の園長・下柳(音無美紀子)と担任・笹岡(田中幸太郎)、亡き恋人の妹・沢田琴音(福田沙紀)とのやり取りも視聴者を癒した。
知的障害者本人の困難だけでなく、家族や近しい人々の苦労を正面から扱いながらも、どこか明るいムードがただよっていたのは、香里奈の熱演によるところが大きい。香里奈は“モデル女優”のイメージから脱皮するべく、髪をバッサリ切ってショートカットで初主演に挑み、今作で一気に演技派の評価をつかんだ。
最近では、めっきり扱われなくなった繊細かつヘビーなテーマであり、平成が終わる現在のほうが希少性は高く、魅力を感じてしまう。主題歌は、melody.「遥花~はるか~」。
■謎と不穏を散りばめたラブミステリー
2位『薔薇のない花屋』(フジ系、香取慎吾主演)
花屋をたった一人で営み、血のつながらない娘を男手一つで育てる汐見英治(香取慎吾)、パペットマペットのような頭巾をかぶって暮らす娘・汐見雫(八木優希)、盲目のフリをして英治に近づく看護師・白戸美桜(竹内結子)、英治を憎悪する安西(三浦友和)。
そして、英治の花屋は看板商品であるはずのバラを置かない……。「なぜ?」という謎と不穏、暗い過去と痛みを散りばめたラブミステリーは、いかにも野島伸司の脚本であり、引き込まれる視聴者が続出した。
90年代の野島作品と異なるのは、全編を通して温かいムードが流れていたこと。過去を一人で背負う英治の人柄はどこまでも穏やかで、周囲の人々への愛情で満ちていた。ともに暮らす、娘の雫と、花の手ほどきをしもらった菱田桂子(池内淳子)とのやり取りは心温まるものがあり、視聴者は彼ら家族を応援せざるを得ない心境に。悪役たちも、「自分の愛を貫くために悪事を働いていた」という点も、また愛の伝道師たる野島らしい。
香取と竹内はこれまでの明るいイメージを封印し、影のある人物を落ち着いたトーンで好演。つらさや悪意を胸に秘めたキャラクターを違和感なく演じたことで、ともに新境地を開いた。
家族の愛、男女の恋愛、ミステリーがバランスよくミックスされ、中江功ら演出陣が手がけた映像の美しさも含め、同年の中でもトップクラスの高品質な作品だった。主題歌は、山下達郎「ずっと一緒さ」。