2019年5月1日に新元号「令和」がはじまり、4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどり、この連載では「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選。オススメ作品をピックアップしていく。第18回は「平成18年(2006年)」。
※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
平成18年(2006)は、現在も続く国民的番組『笑点』(日本テレビ系)が放送2,000回、40周年を迎え、司会者が5代目三遊亭圓楽から桂歌丸に変更。『徹子の部屋』(テレビ朝日系)は30周年、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)は放送6,000回を迎える節目の年となった。
バラエティ番組の注目は、『SMAP×SMAP』(フジ系)にマイケル・ジャクソンが出演したこと。「バラエティ出演は世界初」であり、「日本の番組も唯一」というレアさで今も伝説となっている。
ドラマのTOP3には、制作サイドのチャレンジングな姿勢が光った3作を選んだ。
■東野圭吾ファンも魅了した大胆な脚色
3位『白夜行』(TBS系、山田孝之、綾瀬はるか主演)
2年前に『世界の中心で、愛をさけぶ』(TBS系)で視聴者を感動させた山田と綾瀬が再共演。「田舎町の純粋な高校生・朔太郎と亜紀」から一変、「悪事に手を染める悲劇の主人公・亮司と雪穂」を演じた。
亮司と雪穂の関係は、「被害者の息子と容疑者の娘」。しかし、実際は「父親を殺した息子と母親を殺した娘」だった。その後も数えきれないほどの犯罪を重ねていく二人。しかし、人としての道を外れるほど二人の絆は強くなり、「替えが効かない」という意味での純度は増していった。
その救いなき展開に、「哀しくてこれ以上見ていられない」「それでも目が離せない」という感情を抱く視聴者が続出。視聴率以上に熱狂的なファンを集めた最大の理由は、森下佳子の脚本だろう。原作小説では描かれていない二人のやり取りや心の機微を見事に映像化し、「二人の目線から描くと違った面白さがある」と東野圭吾のファンを喜ばせていた。
そんな東野圭吾の世界観と森下佳子の脚色でキャストが躍動。山田は「生きているのか死んでいるのかわからない」空虚と狂気を併せ持つ男を、綾瀬は「暗い過去から抜け出したい」願望と諦念を併せ持つ女を、武田鉄矢は「わしがあいつらを捕まえてやらなければならない」と病的なほどに執念を燃やす刑事を熱演した。
もう1つ忘れてはならないのは、1話で見せた子役2人の演技。重要な2時間スペシャルのほとんどを泉澤祐希と福田麻由子がけん引し、作品の世界観を印象づけた。朝ドラや大河ドラマなどの大作では、主人公の幼少期を子役が演じるのが定石だが、子役だけでここまで惹きつけたのはレアケースと言えるだろう。
近年ネット反響を狙って「衝撃作」とうたった作品が多いが、今なお見た人の心に強烈な印象を残す当作こそ、紛うことなき衝撃作ではないか。以降、ここまでダークサイドに偏ったプライム帯の連ドラは制作されていない。この先も、その空白期間が長くなるほど、当作の価値は上がっていくだろう。主題歌は、柴咲コウ「影」。
■1話完結に背を向けた本格長編ミステリー
2位『アンフェア』(フジ系、篠原涼子主演)
最終的に、連ドラに加えて、スペシャルドラマ、映画3作、スピンオフ3作が制作されるヒット作となったが、当初は決して注目度の高い作品ではなかった。しかし、謎が連鎖する難解なミステリーと、クールな女刑事・雪平夏見(篠原涼子)の魅力で徐々にファン層を拡大。犯人予想が盛り上がるとともに、シリーズ作を望む声が増えていった。
現在では刑事ドラマもミステリーも1話完結ばかりだが、当作はさにあらず。1つの事件が数話にまたがりながらも興味を引きつけて飽きさせず、原作小説にはない複数のオリジナルエピソードをつなぎ、怪しい人物を巧みに描き分ける佐藤嗣麻子の脚本が光った。
各局ともに、判で押したような1話完結の事件解決ドラマを量産しているが、本当にその形でなければ求める結果は得られないのか? 『アンフェア』のことを思い出すたびに、そんな疑問が頭をよぎってしまう。
特筆すべきは最終回のエンディング。悲劇的な結末でドラマは終了したのだが、エンドロールに併せて流れた映像は、真犯人によるすべての殺人シーンだった。「本編の中で見せるのではなく、最後に見せることで、あえて後味の悪さを感じさせ、事件や人生の虚しさを描く」という手法は斬新というほかない。
篠原だけでなく、瑛太、阿部サダヲ、香川照之、寺島進、西島秀俊、木村多江、三浦春馬と、その後、主演俳優に登り詰めた俳優が多く、加藤雅也、志賀廣太郎、眞島秀和、濱田マリら演技派バイプレーヤーも含め、キャスティングの先見性が高かったことも「名作」と言われる理由になっている。
ファンの間では公然の事実だが、雪平の娘・美央を演じていたのは4月1日付けでAKB48グループの総監督に就任した向井地美音。過去のトラウマやイジメから声が出せなくなった7歳の少女を懸命に演じた。主題歌は、伊藤由奈「Faith」。