2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」が生み出してきたエンタメの軌跡を様々な企画でたどっていく。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から30年までのドラマを1年ごとに厳選し、2019年5月1日からの新元号「令和」にも残したいオススメ作品をピックアップする。第16回は「平成16年(2004年)」。
※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください。
平成16年(2004)は、3月26日で久米宏がメインキャスターを務める『ニュースステーション』(テレビ朝日系)が終了し、4月5日から『報道ステーション』がスタート。メインキャスターに同局の元アナウンサー・古舘伊知郎を起用して話題を集めた。
その他では、『がっちりマンデー!!』(TBS系)、『天才!志村どうぶつ園』(日本テレビ系)、『Qさま!!』(テレ朝系)、『世界一受けたい授業』(日テレ系)などの現在も続く長寿番組がスタート。一方で『特命リサーチ200X II』(日テレ系)、『ザ・ジャッジ! ~得する法律ファイル』(フジテレビ系)、『天才クイズ』(TBS系CBC)などが終了した。
ドラマのTOP3には、『オレンジデイズ』(TBS系)や米倉涼子版『黒革の手帖』(テレ朝系)などの人気作もある中、切なさあふれるヒューマン作を選んだ。
■徐々に育まれる父娘の絆に涙
3位『僕と彼女と彼女の生きる道』(フジ系、草なぎ剛主演)
関西テレビの制作で脚本は橋部敦子……と言えば、ドラマファンなら“僕シリーズ3部作”がすぐ浮かぶのではないか。「愛と死」をテーマにした前年の『僕の生きる道』に続いて制作された当作のテーマは「父娘の絆」。草なぎ剛演じる小柳徹朗と美山加恋演じる凛とのハートフルなやり取りで視聴者の涙を誘った。
まず素晴らしかったのは、前作で用いた難病のような強烈な設定に頼らず、普通のサラリーマン家庭を選んだ舞台設定。そのことが視聴者にとって、より身近で、より「本当の幸せとは何か?」を考えさせられる作品となった。
スタート当初は、絵に描いたような仕事人間の徹朗と、愛くるしい幼児の凛を見た視聴者の感想は、「本当に実の親子なの?」。しかし、回を追うごとに徹朗は心を入れ替え、凛はそんな父を慕いはじめ、2人は誰がどう見ても、愛情あふれる親子になっていった。
決して華やかな作品ではなく、ハラハラドキドキさせられることもないが、その穏やかな世界観がジワジワと心に染み、思わず我が子を抱きしめたくなる……ネグレクトのニュースが当時と同等以上に報じられる現在にも、求められている作品なのかもしれない。
キャストでは草なぎ、美山、小雪の熱演に加えて、特筆すべきは小日向文世と大杉漣。『僕の生きる道』では、優しい主治医と人情派理事長だったが、今作では厳格な上司と父親に一変し、演技の深さを見せた。両作での好演が、今年に至るまでのスーパーバイプレーヤーぶりにつながったのではないか。
当時7歳の美山は同作でブレイクし、凛が満面の笑みで繰り出す「はい!」のかわいらしさにやられてしまう視聴者が続出。その人気から翌々年には実写版『ちびまる子ちゃん』(フジ系)のたまちゃん役も演じた。現在も女優として活動しているが、成人してたびたび酒豪ぶりを明かすなど、時の流れの早さを感じさせてくれる。
主題歌は、&G「Wonderful Life」。当初は歌い手が稲垣吾郎であることは明かされず、公表したこともドラマの人気を決定づけた。
■中居正広が悲劇の犯罪者を熱演
2位『砂の器』(TBS系、中居正広主演)
中高年層なら大半の人が知っている松本清張の小説を実写化。1961年に小説が発売されて以降、1962年に全2話のドラマ、1974年に映画、1977年に全6話のドラマ、1991年に単発ドラマ、2004年の全11話のドラマ、2011年に全2話のドラマが制作されたが、最も原作から脚色されたのが当作だった。
原作や先行作は、今西(渡辺謙)刑事が犯人を追い、真相を明かすミステリーだったが、当作の主人公は和賀(中居正広)。犯人の視点から物語が進み、「捕まるか? 捕まらないか?」や、「どんな犯行背景があったのか?」などを楽しむ骨太なサスペンスとなっていた。
そのことで和賀の焦りや葛藤、怒りや諦めなどの心理が浮き彫りになり、哀しいムードを加速。「これでもか」というほど厳しい宿命が和賀に突きつけられ、終盤は胸を締めつけられるような展開が続き、視聴者はのめり込んでいった。
最後の「父ちゃん……」と泣き崩れる和賀の姿は、ドラマ史に残る名シーン。和賀は全編を通してセリフの少ないタイプの主人公だったが、福澤克雄らの演出と千住明の音楽が見事にフォローして、目と耳で美しさや切なさを感じる作品となった。スタッフたちが「いかに過去の作品を超えるか」を考え、力の限りを尽くした産物であることは間違いない。
象徴的だったのは、和賀が指揮するコンサートと、暗い過去や警察の捜査をカットバックで見せた演出。千住明が作・編曲し、日本フィルハーモニー交響楽団が演奏した『宿命』の音色とともに、ダイナミックかつドラマティックだった。
中居は『白い影』(TBS系)に続いてシリアスな役柄に挑戦。その役作りは過剰気味だったが、そのまま和賀の持つ凄みにつながっていたとも言える。バラエティでおどける姿とは別人であり、当作を“俳優・中居正広”のベスト作に挙げるファンも多い。
一部で「ハンセン病の設定を変えたから無理がある」「時代背景が違いすぎる」などの批判もあったが、全11話をたっぷり使って描き上げた充実度では、名作と称えられる映画版に負けていない。主題歌は、DREAMS COME TRUE「やさしいキスをして」。