2019年4月30日に幕を下ろす「平成」。マイナビニュースでは、「平成」の中で生み出されたエンタメの軌跡を様々なテーマからたどる。この連載は、「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志が、平成元年から31年までのドラマを1年ごとに厳選し、オススメ作品をピックアップしていく。第10回は「平成10年(1998年)」(※以下はドラマの結末などネタバレを含んだ内容です。これから視聴予定の方はご注意ください)。
平成10年(1998)は、スポーツで日本列島が沸騰した年だった。2月に長野五輪が開催され、スキージャンプの男子団体、フリースタイルスキー・女子モーグルの里谷多英、スピードスケート男子500mの清水宏保らが金メダルを獲得。地元開催の盛り上がりによって、朝のワイドショーから夜のスポーツ番組まで五輪一色となった。
6月には、サッカー日本代表がワールドカップフランス大会に初出場し、「日本vsクロアチア」が60.9%、「日本vsアルゼンチン」が60.5%、「日本vsジャマイカ」が52.3%と、軒並み超高視聴率を記録した。ちなみに、現在も続く深夜のスポーツ番組『GET SPORTS』(テレビ朝日系)も、同年4月にはじまっている。
バラエティでは、4月には『情熱大陸』(TBS系)、10月に『ウンナンのホントコ!』(TBS系)、『笑う犬の生活』(フジ系)などがスタートしたが、例年と比べれば動きが少なかった。
数多くの名作がある中、ドラマのTOP3には、フジテレビらしいエンタメ度の高さで高視聴率を記録した3作を選んだ。
学園モノと教師の新フォーマットを確立
■3位『GTO』(フジ系、反町隆史主演)
すでに漫画原作は大ヒットしており、実写化へのハードルは高かったが、人気絶頂の反町隆史と松嶋菜々子のコンビが軽やかに突破。陽気に暴れまくる反町とマドンナ教師にハマった松嶋に加え、遊川和彦の脚本らしい学校問題を盛り込んだ社会派の一面もあり、幅広い年代が楽しめる学園ドラマとなった。
扱われた学校問題は、イジメ、授業ボイコット、援助交際、校内暴力など、当時としては深刻なものばかり。だからこそ、「鬼塚が底抜けの明るさで解決する」という展開が評判を呼び、視聴率は右肩上がりに。最終回の視聴率は35.7%を記録してドラマ部門の年間1位となった。
学園ドラマらしく、小栗旬、窪塚洋介、池内博之、山崎裕太、徳山秀典、希良梨、中村愛美ら若手俳優がフレッシュな演技を披露。特にイジメられて自殺を考える吉川のぼるを演じた小栗の役作りは、以降とのギャップもあり、語り草となっている。
鬼塚英吉(反町隆史)の理解者である桜井あきら理事長を演じた白川由美、鬼塚を陥れようとする内山田ひろし教頭を演じた中尾彬ら教師役の俳優もしっかり機能。ただ、藤木直人が演じた元暴走族の冴島龍二だけは、「謎キャスティング」と言われていた。
意外なのは、『ブギ』シリーズ(TBS系)、『女王の教室』『家政婦のミタ』『過保護のカホコ』(日テレ系)など、オリジナルにこだわる脚本家・遊川和彦が漫画原作の実写化に挑んだこと。それだけ作品や鬼塚英吉というキャラクターに魅力を感じたからだろう。
反町と遊川によって進化を遂げた鬼塚英吉というキャラクターは、21世紀の学園ドラマにおける教師像のフォーマットになった。実際、いまだに反町の演じた鬼塚を超える人気教師は現れていない。
主題歌の反町隆史「POISON ~言いたい事も言えないこんな世の中は~」も大ヒット。今でもイントロのギター音を聴くだけで、“反町鬼塚”の姿が蘇ってくる。
今こそまぶしい長編ミステリー
■2位『眠れる森』(フジ系、中山美穂、木村拓哉主演)
視聴率確保のために一話完結のドラマが大半を占める今、よりまぶしく見える長編ミステリー。たった1つの物語を3か月かけて追う分、事件はより奥深く、登場人物はより繊細に描かれ、視聴者の思い入れは増していく。そして、真実が明らかになる最終回の衝撃とカタルシス……当作はこれらのすべてを備えていた。
清楚で可憐な悲劇のヒロイン・大庭実那子(中山美穂)、彼女につきまとい婚約者との仲を引き裂こうとする伊藤直季(木村拓哉)、実那子の婚約者でエリートの濱崎輝一郎(仲村トオル)、一家惨殺事件の罪で逮捕され、仮出所後に実那子を探す国府吉春(陣内孝則)、直季の幼なじみで、ともに事件の真相を追う中嶋敬太(ユースケ・サンタマリア)、期間限定で直季とつき合っていたが、未練を断ち切れない佐久間由理(本上まなみ)。
主要キャストたちが醸し出す華やかさと、中江功と澤田鎌作の手がける映像の不穏なムードが共存し、見れば見るほどハマっていく視聴者が続出。当作も右肩上がりで視聴率を上げ、最終回はドラマ部門の年間3位となる30.8%を記録した。
今でこそ「何を演じてもキムタク」と言われるが、その見方は当作での演技には当てはまらない。愁いを帯びた表情、不遜な態度に潜む優しさ、使命のために悪を演じる葛藤など、抑えの効いた役作りで、作品へのフィット感は木村拓哉のベストにも感じる。
せっかちな現代の視聴者は、各回放送での解決を望むため、毎週放送される“連ドラ”であるにも関わらずミステリーは短編ばかりになってしまった。また、亡き野沢尚のような脚本家がいなければ、オリジナルの長編ミステリーは難しいのかもしれない。それでも、昨年放送された『リバース』(TBS系)の熱狂を見る限り、「『眠れる森』のような作品を待っている視聴者も多いのではないか」という希望の光は残っている。
主題歌は竹内まりや「カムフラージュ」。同曲が流れるオープニングに、犯人や死に方を暗示するネタバレを潜んでいたことが当時話題に。「遥か昔何処かで出会ってた そんな記憶何度も甦る」「瞳と瞳が合って指が触れ合うその時 すべての謎は解けるのよ」などの歌詞は、見事に物語とリンクしていた。