働き方改革の目的は、多様な働き方を認めることで、労働力人口を増やして日本の経済力を維持向上させることにあります。
体力と気力の続く限り残業をいとわない男性のフルタイム労働者だけをアテにしていては、企業経営が持たない時代になってきた、ということです。
男性ですら昇進や労働時間、仕事に対する価値観が変わってきています。つまり、働き方改革は、法律の面でも、企業文化や経営戦略の面でも、確実に残業を減少させる方向に向かっていると言えるでしょう。
残業の上限規制
単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間以内。違反すると罰則もある
ここでは、まず、労働時間や休息・休暇に関する法改正から整理してみましょう。
長時間労働によって肉体的・精神的な疾患や過労死を引き起こすことは、人の幸福や生存を脅かすことであり、同時に貴重な人財を失うことでもあります。
そのため、今回の労働基準法改正で、従前の大臣告示や判例をもとに、はじめて法的な拘束力と罰則のある「残業時間の上限規制」が設けられました。
これまでも法律上は、法定労働時間を超える残業をさせてはならないのが原則ですが、「時間外労働、休日労働に関する労使協定」および付随する「特別条項」を締結・届け出することにより、残業をさせることができましたが、新たに以下のような上限が明記されました。
・残業の上限は、原則として月45時間、年360時間までとする。
・特別条項付きの場合は、年6回までは月45時間を超えて残業をさせることができるが、年720時間以内でなければならない。(休日労働を除く)
・月45時間を超えて残業をさせる場合でも、単月100時間未満、2~6か月の複数月平均80時間以内でなければならない。(休日労働を含む)
※建設業、運転手、医師については当分の間、適用猶予あり
これに違反した場合は、懲役6月または罰金30万円以下の罰則が科されます。
中小企業における時間外労働の上限規制
これらの法律は、大企業だけを対象としたものではありません。中小企業における時間外労働の上限規制も、施行時期の差はあるものの、同水準で求められます。大企業が2019年4月施行なのに対して、中小企業は2020年4月施行です。
月60時間を超える時間外労働の割増賃金率
また、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率も、現在は大企業のみが5割以上とされていますが、中小企業も2023年4月からは5割以上支払わなければなりません。
中小企業にとっては、人材確保や経営力の観点で難度が高いため、猶予期間が長く設定されていますが、いよいよ期日が明記されたわけです。
他にも多くも改正事項がある
これ以外にも、労使の協議により、勤務終了から翌日の勤務開始までの間に一定の休息時間を確保する「勤務間インターバル」の促進が、罰則はありませんが努力義務として明記されました。政府は2020年までに導入企業の割合を10%以上とする数値目標を7月24日付けで閣議決定しています。
ちなみにEU諸国では11時間の勤務間インターバルが法制化されています。また、管理監督者や裁量労働制の適用対象者を含めた労働時間の適正把握義務化、年次有給休暇の年5日取得義務化など、労働時間や休息・休暇に関する法改正があり、全体として働き方改革関連法改正を形作っています。
積極的に推進する企業が増加
さて、働き方改革は、国の法改正だけではなく、各企業の企業文化や経営戦略からのアプローチという側面もあります。
採用競争力の向上や優秀な人財の確保のためのキラーコンテンツとして、積極的に改革を実行し、新たなルール作りを進める企業が増えています。
また、労働時間と企業収益が必ずしも比例しない業態やビジネスモデルが増え、日本独自の労働慣行に縛られないグローバル戦略、経営者自身の世代交代により、旧来の発想や価値観にとらわれない経営者や企業も多数現れています。
そのような企業では、本来の意味での成果主義とセットで働き方改革を模索しようとする動きが見られます。
企業にとって、働き方改革の先には、業績や成果を時間の長さに比例させる時代が終わりを告げ、働くことの価値を再定義する時代がやってくるのではないでしょうか。
著者プロフィール : 米澤 実(よねざわ みのる)
社会保険労務士事務所 米澤人事コンサルティングオフィス代表
千葉県船橋市出身。株式会社リクルート(現リクルート・ホールディングス)でクリエイティブディレクター、ライン組織マネジメント、グループ企業の人事部長を経て、2010年独立。現在は「元気で強い成長企業の実現を支援する人事労務コンサルタント」として活動している。