パワハラ、モラハラをはじめ、職場においてはさまざまな、いじめ・嫌がらせが発生するおそれがあります。そして、これらの問題を放置した場合、職場環境や企業に及ぼす影響は計り知れません。
本稿では、職場で起きたいじめ・嫌がらせの事例と、企業への影響や対策について解説していきたいと思います。
職場での嫌がらせの事例
「もう耐えられません。辞めさせてください」そう答えたのは、とある食品メーカーに勤める新人社員のS美さん。
彼女をそこまで追い込んだ原因は、一緒に働く先輩社員のA子さんにあります。
「A子さん、はじめは丁寧に教えてくれて、休憩時間も楽しく談笑し、いい関係ができていると思ったのですが……」そう話すS美さん。しかし、日を追うごとに、A子さんの実態が明らかになっていったそうです。
「機嫌がコロコロ変わるんです。機嫌が悪い時は挨拶しても無視されるし、この間も仕事の相談しようと声をかけたのですが、忙しいから声をかけないでと冷たく断られました。原因はよくわからないのですが一週間、口をきいてくれないこともありました」。
「とにかく自分に甘く他人に厳しいタイプですね。自分もミスをするくせに、私がちょっとしたミスをするとため息や舌打ちをするんです。みんなの前で怒鳴られることもありました」。S美さんの口から次々にA子さんに対する不満が噴出しました。
A子さんは、要領良く仕事をこなすタイプで、部長や課長からも信頼されていました。はじめのうちはS美さんも自分の要領が悪いからだと思い込んでいたそうですが、日々繰り返されるA子さんの言動が強いストレスとなりメンタル不全に陥ってしまい、最終的には退職を余儀なくされることになったのです。
じつは、これまでにも、A子さんが原因で退職していった人は複数いたのですが、退職理由が結婚や親の介護など自己都合によるものであったため、Aさんの上司である部長や課長は何の疑いも持たず、退職を受理していたのです。
その後のA子さんはといえば、ひとりですべてを抱えることになり、数カ月後、体調を崩して退職したそうです。新人クラッシャーは自分自身もクラッシュする末路をたどったそうです。
さらには、インターネットの口コミサイトで、これまでのA子さんのことやそれを放置した会社に対する批判が書き込まれ、会社の採用に影響してしまう事態を招くことになったのです。
このケースの一番の原因は、問題が発生しているにもかかわらず見過ごしていた、上司および会社にあるといえるでしょう。たとえA子さんが優秀であったとしても、関わった人が次々に退職していく状況が続いていたのであれば、事実確認を行い、原因を明らかにして、しかるべき対処を取らなければならなかったのです。
いじめによる影響
職場でのいじめや嫌がらせにより職場環境が悪化すると、従業員のモチベーションが下がり、優秀な人材の流失や企業の生産性に大きな影響を及ぼすことになります。また、口コミサイトの書き込み等により、会社に対するネガティブな評判が広まると企業イメージが低下し、採用困難につながってしまうこともあるのです。
最悪の場合には、会社が使用者責任を問われ、多額の損害賠償を請求されるといった恐れもあり、その損失は計り知れないでしょう。
いじめの相談体制
上述のとおり、職場でのいじめや嫌がらせが企業に与える影響は非常に深刻です。会社としては、相談窓口、社内ルール策定など、問題が発生した際の対策や社内体制を整備することはもちろんですが、職場においていじめや嫌がらせが起こらないよう、日頃から未然防止に努めることが大切です。
説明会や研修等による周知・啓発や定期的なアンケート調査により実態を把握するといったことも有効でしょう。
現場の管理職においては、トラブルの芽はないか普段から目を光らせ、SOSのサインを見逃さないように心掛けましょう。
職場におけるいじめ・嫌がらせを当事者間の個人の問題としてではなく、職場全体のリスクととらえ、働く一人ひとりが自覚して行動することが重要です。
筆者プロフィール: 薄井 崇仁
大槻経営労務管理事務所 人事BPO事業部 執行役員。2007年の入所後、大小様々な規模のクライアントの労務相談およびアウトソーシング業務を担当。その後従業員からの問い合わせに直接対応する「社労士ダイレクト」事業部に配属。現職では、執行役員としてクライアントに対し総合的なアウトソーシングサービスを提供しており、人事BPOサービスの開発にも積極的に取り組んでいる。労働環境に様々な変化が起きている現在、企業にとってベストは何かを考えて課題解決へと導く。丁寧なヒアリングをモットーにクライアントのチャレンジを全力でサポートしている。