働くママ・パパにとって、とってもありがたい"保育士"の存在。できれば良い関係を築きたいと思いながらも、「これを言ったらモンスターペアレンツと思われるかな?」「自分は良い親と思われているだろうか?」などと、不安に感じることもありますよね。

この連載では、保育園の日常をつぶやいたツイッターが話題の男性保育士「てぃ先生」に、保護者の疑問をぶつけ、保育士としての"本音"をお話しいただきます。

1回目は、てぃ先生の活動や、保育・子育て観についてインタビューしました。

男性保育士"てぃ先生"にお話を聞きました

最初は機械がつぶやいていると思われていた

――子どもの面白くてかわいい言動を発信するツイッターが評判です。いつから、どんなきっかけで始めたのですか?

つぶやき始めたのは2012年の年末で、保育士として働き始めて5年目くらいです。保育士の仕事って学校で習うことは100のうちの1くらいで、残りの99は現場で習う感じ。しばらくは日々の仕事と毎年変わる子どもたちの個性を見極めるので精一杯でした。

やっと少し余裕が出てきてもっと何かできないかと考えたときに、ニュースや雑誌を見ると、「子ども」「保育」「育児」などのキーワードで語られる話題って軒並みネガティブな内容ばかりだった。

お金が大変だとか、育児が大変だとか、最近では"保育園落ちた、日本死ね!"みたいな。それを見て、もちろん大変なこともあるけれど、保育ってこんなに楽しいのになとか、子どもってこんなにかわいいのになとか、いろんな思いがわいてきて、ポジティブなことだけを発信するコンテンツがあってもいいんじゃないかと思ったんです。

――発信を始めてからの手応えや、読んだ人の感想などはいかがですか

実は最初はあんまり反応がなかったんですよね。子どものことだけを一方的につぶやいているので、いわゆるボット(bot)だと思われていた。つまり機械ですよね。それで「生身の人間なんだけどなー」っていうことでライブ配信などを始めました。

爆発的にフォロワーが増えたのは、ダンボールで剣を作った子についてツイート(※)したときだったと思います。それから徐々に、中の人はどうやら男性の保育士らしいと認知されてきて、「かわいいですね」などとリプライをもらうようになった。本を出してからはさらに反響が増えて「子どもは好きじゃなかったけれど本を読んで好きになりました」とか、それこそ「ツイッターを読んで保育士になりました」なんていう人も出てきて、やっていて良かったなと感じます。

(※)「男の子(4歳)が段ボールで剣を作って『せんせい!みて!』と見せてくれたので『おぉ、すごい! 誰をやっつけるの?』と聞いたら『だれを やっつけるんじゃない! だれを まもるかだ!』と答えた。僕は何だか恥ずかしくなった。その気持ち大切にしてほしいな」

――リアルタイムに今日起きたことをつぶやいているわけではないですよね? いつごろからメモを書き溜めてきたんでしょうか

リアルタイムではないです。さすがに毎日そんなにいろいろ起こりません(笑)。

メモを始めたのは保育士2年目くらいからです。どうしてかというと、保育園にお迎えに来るママから「うちの子、きょう何をしていました?」って聞かれた時に、「きょう●●ちゃんはAKBのステージをまねて踊っていましたよ」とか具体的なエピソードを伝えたいと思ったからです。

そういうときに「うちのクラスは、きょうはお絵描きをしました」なんて答える保育士は多いかもしれないんですけど、ママたちが聞きたいのはその子だけの特別なエピソードですよね。それで、休憩中などにメモ帳に書き留めておくようになった。ツイートはそこから派生したものです。最近はスマホのメモ機能を使っていますが、未公開のストックはまだまだあります。

園長だけがキャリアハイではないというモデルを示したい

――いま勤務されているのはどんな保育園ですか? また、保育士になった動機やきっかけを教えてください

父親がサラリーマンだったんですけど、毎日同じようなスーツとネクタイを身に付けて出て行く姿は、子どもの目から見てあんまり楽しそうじゃないなぁという印象がありました。

それよりも、ユニフォームを着るような専門的な仕事をしたいと中学生くらいから漠然と考えていて、子どもが好きだったので1日中子どもと触れ合える仕事ということで保育士に。当時の幼稚園は昼過ぎに子どもは帰ってしまうものだったので、そうしたらあとは大人だけの仕事なんだって気が付いて、「子どもがいないなんて嫌だ!」って思って(笑)。

2年制の保育科を卒業してから都内の私立保育園に勤め始めて、私立ばかりで4カ所目です。

1日中子どもと触れ合いたくて、保育士になったというてぃ先生

――現在は本業の保育士と"てぃ先生"と"顧問保育士"という3つの肩書きがあるとか。顧問保育士というのはどういう仕事ですか?

簡単に言うと、コンサルティングのような仕事です。僕が作った職名ですが、これまでもそういう仕事はあったはずなんです。例えば公立の保育園で何年も園長をしていた人が退職したあとに、さまざまなカリキュラムを提案するアドバイザーとして保育園に入るとか。でも、その仕事自体に名前がなかった。それに、現場を離れてからでないとできない仕事だったんです。

いま複数の保育園と顧問保育士として契約していますが、ある園では月1回の研修の講師を務めていたり、また別のところでは新しい保育園を作る監修をしていたりします。そのほかに、講演に呼ばれて日本全国に駆けつけることもあります。現場で働きつつ、顧問保育士としても働いているところがポイントなんです。

――忙しいですね。労力はどこにどれくらいかけている感じですか?

通常の保育士の仕事が10だとしたら、10はそのままで、そこにてぃ先生3と顧問保育士2が乗っかって15くらいに拡大しちゃっている感じです。でも、いまががんばり時だと思っています。

保育士としてのキャリアハイって、いまのところ園長だけなんですよね。どんなに知識を積んで技術を磨いても、園長以上のものにはなれないし、それ以上のお金も手に入らない。

でも、私立の園で言えば、園長になったとしても30数万円しかもらえない。その待遇では、女性もそうですが、男性はもっと厳しい。結婚して奥さんと子ども2人を養いつつ、家のローンを支払うという人生設計は成り立ちません。

だから男性でももっと保育士を目指していいし、知識と技術を積み重ねることで園長だけでない選択肢があるんだというモデルを示したかった。保育士の専門性がきちんと評価されれば立場の向上にもつながるし、それに伴ってお金も潤っていくのではないかと思っています。

意見はしても、人の保育を否定するな

――ツイッターのほうは、いまやフォロワー数が43万人を超えています(9月20日現在)。多くの人の目に留まることは喜びがある一方で、好意的な反応ばかりではなくなるのでは?

うーん、反対意見もなくはないですが、僕はあんまり「批判的なリプライが来た」という風には捉えていないんです。というのは、保育はこの方法でやればこういう数字が出る、というような分かりやすい仕事ではないんですね。

だから例えば、僕が「ご飯は無理して食べるものじゃない。残したっていいよ」ってつぶやいたとして、「ご飯は残さずに全部食べたほうがいい」って言う人がいたとしても、それは保育観の違いであって、どっちが正しいとか間違っているとかではない。むしろ、自分と違う考えの人にたくさん出会って話を聞いておいたほうがいいと思う。

今年のクラスに自分のやり方がハマらないな、手応えがないなっていうときに、「ムカついたあの人だけど、そういえばこんなことも言っていたな」って引き出しから出せるでしょう? なので「こんなこと言われてマジで傷ついたわー」みたいなナイーブな感じはないです(笑)。

僕が現場の保育士によく言うのは、「意見はしても、人の保育を否定するな」ってことです。それは家庭の子育てでも同じ。親の勤務状況や子どもの性格、環境など一人ひとり違うので、必ずしも正解はない。いまは子育て情報が溢れていて、あれが正しいとか間違っているっていうのがあまりに多く、お母さんたちのプレッシャーになってしまっている感じがする。

お母さんたちも周りの話を聞きすぎずに「うちはこうだから」って思えば、それでいいんですよ。もちろん僕がこうやって話すことだって絶対ではない。「"てぃ"とかなんとかっていうあの人、こんなこと言っていたな」っていう程度の参考にしてくれればいい。周りに気を使うよりも自分の子どもに目を向けられる子育て環境になるように、僕もできることから始めています。


次回からは、良い保育園の見極め方、子どもは何歳から預けるのが理想か、「こんな親は困る!」など、保育士としての本音を9回にわたってお話しいただきます。ぜひご期待ください。

てぃ先生

都内の保育園に勤める保育士。子どもの面白くてかわいい言動などをつぶやくツイッター(@_HappyBoy)が話題となり、フォロワー数は43万人(2017年9月20日現在)を超える。「顧問保育士」の肩書きを持ち、講演や研修の講師、保育園のプロデュースなど保育の幅広い分野で活躍している。著書に『ほぉ…、ここがちきゅうのほいくえんか。』『ハンバーガグー!』(KKベストセラーズ)がある。漫画『てぃ先生』(KADOKAWA/メディアファクトリー)のアニメもアプリ上にて配信中。