前回は「回す力」の全体像と、その重要性についてお伝えしました。第2回となる今回は、現役の面接官の視点から、「回す力」の欠如によって起こりがちな、典型的な失敗例をご紹介します。
なぜ些細な行動で評価が下がるのか
「たった30分程度のグループディスカッション(以下、GD)で、なぜそこまで厳しく評価されるのか」と思う方もいるかもしれません。しかし、面接官の立場からすると、GDでの行動には、その人の実務での振る舞い方が如実に表れるのです。
ある面接官は言います。
「GDは、入社後の『仕事の現場』の縮図なんです。ここでの行動から、プロジェクトでの振る舞いや、チームへの貢献度が想像できてしまう。だからこそ、些細な言動も見逃せないんです」
では、実際にどのような行動が、面接官の評価を下げてしまうのでしょうか。
わかりやすくするために、具体例として典型的な5つのケースを見ていきましょう。
失敗事例1:独善的な議事進行
新卒採用のGDで、Aさんはすぐに議事進行役を買って出ました。
しかし、その進め方は「では私が進行役を務めますので、時計回りで一人1分ずつ意見を述べてください」と機械的なものでした。誰かが意見を言い終わる前に「はい、ありがとうございます。では次の方」と遮り、議論が深まる気配すらありません。
面接官の本音
「リーダーシップを見せたいのはわかるが、これでは単なる進行係。メンバーの意見を深めようという意識が全く感じられない。実務でも、形だけのミーティングしかできない、深みのない人材になりそうだ」
失敗事例2:知識自慢の空回り
テーマが「地方活性化」のとき、Bさんは統計データや政策名を次々と引用し始めました。「私の知る限り、この施策の実施率は●●%で……」「ちなみに、私は●●のような成功ケースを知っていて……」と、まるで講義をするかのように話し続けます。
他のメンバーは引き気味になり、議論が一方通行に。せっかくの知識が、コミュニケーションを阻害する要因となってしまいました。
面接官の本音
「知識をひけらかして満足しているようだが、それを活かして議論を深めようという意識が全くない。実務でも、周りが委縮してしまい、チームの生産性を下げかねない」
失敗事例3:消極的な受け身姿勢
Cさんは終始、隣の人の顔を見て小さくうなずくだけ。与えられた30分のうち、自分から発言したのは最初の自己紹介と、その後の「はい、その通りだと思います」という相槌だけでした。
議論が停滞しても、困っている参加者がいても、何も行動を起こそうとしません。
面接官の本音
「これでは『その場の一員』という意識すら感じられない。周りへの貢献意欲が皆無なのは問題だ。実務でも、指示待ち人間として、チームの負担になりかねない」
失敗事例4:対立を生む否定的な姿勢
Dさんは他のメンバーの発言に対して、必ず「でも」から始まる反論を繰り返します。
「でもそれは理想論ですよね」「でもコストがかかりすぎます」と、建設的な代替案を示すわけでもなく、ただ否定するだけ。最後は全員が発言を躊躇するような空気に。
面接官の本音
「健全な反論は必要だが、これでは議論が前に進まない。このままでは、実務でもチームの士気を下げる存在になってしまうだろう」
失敗事例5:仲間内だけの盛り上がり
たまたま同じ大学出身者が2名いることがわかったEさんとFさん。2人は意気投合し、「うちの大学の●●祭でもそうでしたよね」「あの教授の授業みたいですね」と、部外者には分からない話題で盛り上がってしまいます。
他のメンバーが置いてけぼりになっているのに気付かず、その状況を改善しようともしません。
面接官の本音
「せっかくの共通点を議論の活性化に活かすのではなく、内輪で盛り上がることしか考えていない。実務では、社内の派閥化や情報格差を生みかねない危険な兆候だ」
これらの失敗から学ぶべきこと
これらの事例に共通するのは、「回す力」の本質である「チーム全体のパフォーマンスを高める」という意識の欠如です。
持っている能力や知識を、積極的にアピールすることは決して悪いことではありません。しかし、それが他のメンバーの可能性を引き出し、チーム全体の成果に結びついていなければ、GDの場面で評価されることはないでしょう。
そこでは、あなたの「個人としての優秀さ」ではなく、「チームの中での活かし方」を見ているのです。
次回からは、いよいよ、GDでうまく「回す」ための技法をお伝えして参ります。できるだけわかりやすく解説しますので、是非引き続き読んでみて下さいね。
次回予告
第3回:GD必勝! 「人を回す力」の基本テクニック
GDの序盤戦を制する重要性
信頼関係を築く4つの基本テクニック
GDで陥りやすい5つの落とし穴
場面別対応術