・相対的な大きさ(Relative Size)
一般に、観測者から見て大きいものは近くにあり、小さいものは遠くにあるとして判断できる。
いうなれば透視図(Perspective)的な遠近判別手段を人間は身に付けているのだ。
なお、オブジェクトが静止している場合において、相対サイズの大小の判別は観測者の知識モデルに依存する。つまり、オブジェクトがなんであるかを認識した上で、そのものが大きいか、小さいのかを判断する必要がある。
・相対的な密度(Relative Density)
群生している植物など、ほぼ大きさが等しいものが、等しい密度で存在する場合、遠方に行けば遠方に行くほど、視界におけるその対象物の存在密度が高くなって見える。この情報を手がかりに遠近や奥行きを判別することができるとされる。
また、遠方のものほど広い範囲が視界に入ってくることになるため、大きさが異なっているものが混在していても、遠方に行けば行くほど視界に入ってくるオブジェクトの数は多くなる傾向にある。
・陰影(Shading)
光に照らされたオブジェクトは陰影を生じるが、人間はこの陰影から経験的に凹凸感や立体感を感じることが出来る。これはオブジェクト感の前後関係や遠近感というよりは、そのオブジェクト単体の立体的な形状を把握する際にも大きな手がかりとなることが多い。
また、光源とオブジェクト達との相対位置関係に応じて陰影の出方に違いが生じるが、その陰影の出方の相関を把握することで、オブジェクト間の前後関係を把握することも可能となる。
・影(Shadows)
陰影とほぼ同質のものだが、人間は、光に照らされたオブジェクトの生成する影を見ることで、そのオブジェクトの空間的な位置を感じ取ることが出来るとされる。
単眼立体視を応用実践した技術
いわゆる立体視ではない3Dグラフィックスを用いたゲームも、ある意味、単眼立体視的な意味合いにおいては、十分に立体視であると言える。
プレイヤーキャラクタを動かして、ゲーム世界を異なる視点で見ることが出来るので、これは実質的には「運動視差」だと言えるし、「視界における高さ」「遮蔽」「相対的な大きさ」「相対的な密度」はグラフィックス・プロセッサ・ユニット(GPU)が提供する描画システムによって自動的に再現されるし、最新のゲームグラフィックスであればプログラマブルシェーダー機能によって「空気遠近」「陰影」「影」などもリアルタイムに再現される。
平面のディスプレイ上で表示されるだけの3Dグラフィックスでは、唯一、「水晶体の焦点調節」だけは再現することができない。なぜならば、ユーザーは、常に水晶体の大きさを一定にしたままで、固定位置のディスプレイ装置内に表示された映像を見ることになるためだ。「水晶体の焦点調節」をサポートするにはホログラフィに対応したディスプレイ装置を用いる必要がある。
ところで、一時、「新手の立体視」として注目を集めたiPhoneアプリの「i3D」や「HoloToy」は、これは、実際のところは運動視差を取り扱った立体視だ。根本的には3Dグラフィックスを用いたゲームとやっていることは変わらない。
i3DやHoloToyで異なっていたのは、実は操作系(インターフェース部分)だけだ。
通常のゲームでは、ユーザーは、ジョイパッドを操作して仮想空間内のキャラクタを動かし、そのキャラクタの動きに連動した連続的な3Dグラフィックスを見て運動視差を得る。これに対しi3DやHoloToyでは、ユーザーは、iPhone自体の動きとユーザー自身の頭部の動きに呼応した3Dグラフィックス表示を連続的に見ることで運動視差を得る。
この違いが「新感覚」だったのだ。
ところで、最近台頭してきた技術で、この単眼立体視技術を元にした、身近な例がもう一つある。
それは3Dテレビに内蔵されるような、「2D→3D変換」機能だ。
2D→3D変換機能では、入力される映像が2Dなので、その入力2D映像から3Dの手がかりを探っていかなければならない。その際には、ここで述べたような、人間の単眼立体視の知識や特性を逆利用して、2D映像を3D映像に変換することになる。この辺りについては、いずれ、回を改めて解説していきたいと思う。
(続く)
(トライゼット西川善司)