次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第74回は「オンライン直売所」。

  • オンライン直売所「食べチョク」の公式サイト

「オンライン直売所」って何?

オンライン直売所とは、旬の食材を農家や漁師などから直接購入できる通販サイトのこと。生産者は注文を受けると、生産者は卸売業者を通さずに、そのまま商品を注文客に送り、サイト運営側に手数料を払う仕組みだ。配送料がかかるためスーパーで購入するよりも割高になってしまうにもかかわらず、オンライン直売所の利用者は激増している。

背景には、コロナ禍で飲食店が休業したり給食がなくなったりしたことで販路が閉ざされてしまった生産者を応援したい人が増えていることがある。また、外出を控えて自炊する機会が増え、消費者側がより安心・安全な食材を手に入れたいという声も大きくなった。応援消費の広がり、健康意識の高まりが利用者を増やしていったといえるだろう。

どんな「オンライン販売所」がある?

  • 食べチョクは、2021年6月に開催されたポップアップレストラン「#RESQ」で単品販売をおこなった

ビビッドガーデンが運営する「食べチョク」は、2021年5月にユーザー数50万人を突破した利用率No.1のオンライン直売所だ。実家が農家だった代表の秋元里奈さんは、SNSやマスコミを通じて、自然災害やコロナ禍で悲鳴を上げている生産者の気持ちを代弁してきた。

食べチョク広報担当の下村彩紀子さんは「既存の流通では形や大きさで価格が決まるため、有機栽培やオーガニック栽培などのこだわりが価格に反映されにくく、少量しか作らない生産者は収益化に悩んでいるという課題がありました。その問題を解決するために誕生したのが『食べチョク』です。生産者自身に商品の価格を決めてもらい、直接販売できるようにしました」と説明する。「生産者ファースト」の姿勢は生産者のみならず、消費者にも響き、順調に利用者を増やしてきた。

2021年10月からは食べチョクの利用者が多い首都圏在住者向けに新サービス「食べチョクカー」を開始。いわば移動型の八百屋だ。「コロナ禍の生活に寄り添い、生産者のファンづくりにつなげていくためにマンションの敷地内や公園に『食べチョクカー』を運行。より生活に入り込んだ場所で産直食材に触れる機会を提供しています。新鮮な食材を身近で購入したい、買い物をラクにしたいといった都心在住者の声に応えました」(下村さん)とのこと。今後の展開も楽しみだ。

  • 産直ECサイト「ポケットマルシェ」の公式サイトは、生産者と消費者が直接やり取りできる

2016年にリリースされた産直サイト「ポケットマルシェ」は、2020年2月に約2,000名だった生産者の登録数が、2021年11月の時点で3.1倍の約6,100名になった。それだけ生産者側にとって、新型コロナの影響は深刻ということだ。また、2020年2月で約5万2,000名だった登録ユーザー数は、2021年11月の時点で7.7倍の約40万名に増加した。このことからもオンライン直売所の需要の高まりが見て取れる。

ポケットマルシェ広報担当・仲野脩さんは「生産者と消費者をつなぎ、関係性を深めていただくことを重視しています。そのため、食材の購入前後に調理方法や保存方法を生産者に直接質問できる『メッセンジャー機能』や『コミュニティ機能』を用意しました。これらの機能を通して、生産者と親交を深め、実際に生産現場へ遊びに行くようなヘビーユーザーの方もいらっしゃいます」と話す。ユーザーの励ましの声が生産者の励みとなる一方、コロナ禍でつらい状況のなか生産者とのつながりがユーザーの支えとなったという声があったのだという。

「ポケットマルシェ」では、食品ロス削減を目的とした「訳ありポケマルシェ」を実施している。“訳あり”の理由を知ったうえでユーザーが選択できるよう「#規格外な品」「#賞味期限が近い品」「#売り場ない品」のタグを付与して商品を紹介している。また、2021年9月末から寄附者と生産者が直接つながる「ポケマルふるさと納税」のサービスを開始した。自治体が寄附者と生産者の間に入る既存のふるさと納税サービスと異なり、生産者との直接のやり取りを通じて、地域の魅力を知ることができるのが大きな特徴だ。どのサービスも「つながり」を大切にしているのが「ポケマルらしさ」といえる。

  • ザファームでは「畑で収穫し、すぐ食べる」体験が自宅でもできるような仕組みづくりをしている

収穫体験やバーベキュー、グランピングなどさまざまなアクティビティが楽しめる農園リゾート「ザファーム」(千葉県香取市)。2013年のオープン以来、都心からの来訪者で賑わっていたが、2020年の春に発令された緊急事態宣言で休園を余儀なくされた。収穫体験のための野菜が大量に余ってしまったのがきっかけで、全国から農家仲間を集めオンライン販売を始めたのだという。

ザファームのオンライン直売所広報担当の荒井陽太さんは「オンライン直売所をご利用いただいている約半数がザファームに来園いただいたお客様です。ザファームの人気アクティビティである収穫体験は、年間約3.5万人が参加していました。みなさん『あのとき食べた野菜をまた食べたい』といって注文してくださっています。逆にオンライン直売所での購入がきっかけで来園された方もいます」と話す。ザファームでは、畑で採れた人参を使った「にんじんドレッシング」や地元のいちじく農家とコラボした「いちじくジャム」などオリジナル商品にも力を入れている。

また、生産者自らがライブ配信しながら農作物をアピールして販売するライブコマースでの販売をスタートさせ、とても好評だという。こういった試みは、生産者と消費者がお互いを身近に感じる貴重な機会といえるだろう。

オンライン直売所で商品を買ってみた

  • 食べチョク経由で注文したシェフのレシピ付きのお米1.5kg(750円/送料別)。採れたて野菜のおまけも同梱されていた

今回は「食べチョク」が開始した「米の消費応援プログラム」で販売しているお米を購入してみた。商品にはすべてフランスの伝統的なお米のスイーツ「リオレ」のレシピが付いている。食べチョクがフランスの一流シェフからレシピを買い取り、登録する米農家すべてに無償で提供。生産者はシェフのファンにもお米を購入して応援してもらえる、シェフには考案したレシピで料理してもらえる喜びがある、消費者は日本ではまだ馴染みのないリオレを自分でつくる楽しみがある。生産者・シェフ・消費者で相乗効果を生み出しているのだ。

今回オーダーした米農家からは、お米とリオレのレシピに加えて、サービスで採れたて野菜も送られてきた。別の生産者からはお礼の手紙や食材の食べ方や保存方法を書いたメモが入っていたこともある。消費者はサイト内の生産者のページにメッセージを送り、お礼の声を届けることができる。こういった生産者と消費者との心温まるやり取りは、スーパーでは味わえないオンライン直売所の魅力だ。

オンライン直売所は自然災害で市場に出せなくなった農産物や水産物、畜産物を販売するプラットフォームとして重要な役割を担っている。新鮮な食材がすぐに届き、生産者をより身近に感じられるオンライン直売所の需要は今後ますます高まっていくだろう。「応援消費」も兼ねてぜひ活用してみてほしい。