次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第59回は「朝ラーメン」。
朝ラーメンって何?
コロナ渦で外食事情がすっかり変化してしまった昨今。飲食店の夜の営業時間に関しては制限が設けられていることもあり、仕事などで遅い帰宅になってしまったときでも、外でちょっと食事をして帰る、ということが難しい状況だ。こうした背景から、従来昼ごろ~夜にかけての営業だった飲食店が、営業時間を朝型にシフトし始めている。少しでも営業時間を確保し、売上につなげる狙いと、店内の混雑解消で3密を避ける狙いもあるようだ。
中でも人気が高まっているのが、朝から営業するラーメン店。朝からラーメンなんてヘビーすぎる!と思う人もいるかもしれないが、ラーメン好きの中には「朝でも営業する店があるならありがたい」と考える人も多い。朝なら出勤前に立ち寄ることが可能なうえ、ラーメンなら短時間でもパパッと食べられる。店内が混雑する時間帯に食事をするよりは3密も避けられるので、店側にとっても、客にとってもメリットがあるといえそうだ。
一日を通して同じ味のラーメンを出す店もあるが、朝の時間帯のみ味付けを工夫している店も。あっさりと食べられる味も朝ラーメンの特徴だ。
朝ラーメンはどこで食べられる?
朝ラーメンを提供している店は増えつつあるが、特に駅構内や駅直結の商業施設にあることが多い。出勤や出張等で駅を利用する際に立ち寄りやすい立地だ。
東京駅八重洲口直結の東京駅一番街内「東京ラーメンストリート」に店舗を構える「東京煮干し らーめん玉<GYOKU>」も朝ラーメンが味わえる店のひとつ。2018年のオープン時は開店時間が10時30分だったが、コロナ禍の影響もあり昨年11月から8時30分に変更した。朝から旨味たっぷりのラーメンが食べられると評判で、このまま朝営業を継続する見通しだ。
人気商品は、長時間炊いた鶏の濃厚スープをベースに、数種類の煮干しを大量に加えたという「特製とろりそば」。歯切れがよく喉越し抜群の自家製麺にたっぷりの具材と、同店がこだわっている鹿児島県指宿産のかつお節がトッピングされた、旨味が濃厚な1杯だ。
同社販売促進部 鈴木宏彦さんは「少しでも密を避けて、コロナ対策を徹底した店内でゆっくりと食事を楽しんでいただきたいと考えています。出勤前の方や出張の方、都内へ帰ってきた方等の利用が多く、女性のお客様も多くご来店されますよ」と話す。
JR赤羽駅構内のエキュート赤羽にある「舎鈴 エキュート赤羽」も、朝6時30分から10時までの営業が好評だ。立地的にも朝食として利用する人が多いため、2つの朝食用メニューを展開している。
澄んだ清湯(ちんたん)スープと細麺だけで食べる直球勝負の「素らーめん」(400円/本記事冒頭写真)は魚介出汁の旨味と麺ののどごしを堪能する1杯。ネギやチャーシュー、のりなどの具材を乗せた「朝らーめん」(500円)は梅干しの酸味がアクセントになってキリっと引き立つ味で、通常メニューに入れて欲しいとの声もあるそうだ。
「朝ラーメン」を食べてみた
今回は、東京駅直結の「東京ラーメンストリート」に店舗を構えるつけめん専門店「六厘舎」を訪ねた。同店では2010年1月から朝営業(7:30~9:30L.O.)を行っている。ランチタイムは行列必至の人気店のため、「東京駅まで足を運んでいただいたお客様でもお召し上がりいただけないこともあり、お一人でも多く召し上がっていただきたいという思いで始めました」(六厘舎を運営する松富士食品 総務部 広報 販促担当の名久井守さん)という。
平日の朝8時ごろに店に到着すると、行列はできていないものの店内はほぼ満席。男性客が多く、ビジネスマンや旅行用の荷物を持った人、制服姿の駅員の姿も見られる。入口で朝限定のメニュー「朝つけめん」の食券を買って注文、テーブルで待っていると、ほどなくしてつけめんが運ばれてきた。
超極太麺、魚介の香りが豊かな濃厚スープの器が並ぶ。スープにはメンマ、ネギ、ロースチャーシュー、のりが入っており、全体的な見た目はなかなかヘビーな印象だ。麺をスープにつけて、一口すする。麺に絡んだ濃厚スープの旨みが口いっぱいに広がり、コシのある麺は噛めば噛むほど小麦の旨み・甘みが感じられる。ロースチャーシューも厚切りでボリュームがあるが、メンマやネギの食感がアクセントになり、食べ疲れしない美味しさだ。
「朝つけめんは通常よりつけダレの濃度も粘度もあっさりと仕上げており、朝からでも重たくありません」(名久井さん)という話のとおり、見た目の印象よりもさらっと食べることができた。なお、テーブルには柚子胡椒、魚粉、黒七味、ライム酢といった調味料が並んでいるため、味変を楽しむのも良さそうだ。
コロナ禍によって客層にも変化があり、以前は日本全国や海外からの旅行客などが主流だったが、現在は東京駅近隣の就業者や関東近隣からの来店が多いという。特に朝の時間帯は行列ができづらいため、出勤前や夜勤明けのエネルギーチャージに名店の味を選ぶ人が足を運んでいるようだ。
朝の時間帯のラーメン店は、人気店でも行列が少ないのもいいところ。3密を避けながらおいしいラーメンをすすれるのは、ラーメン好きには見逃せないものだ。がんばって早起きした日に、立ち寄ってみてもいいかもしれない。