次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載ではビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第29回は「テイクアウトグルメアプリ」。
「テイクアウトグルメアプリ」って何?
テイクアウトグルメアプリとは、その名の通りテイクアウトできる商品を注文し、店舗まで受け取りに行って購入できるアプリのこと。アプリに登録されている店舗の中から食べたいメニューを選択し、受取日時を指定して店舗に行く、というのが購入までの主な流れだ。ピザや寿司など出前を注文できるアプリとの大きな違いは、自分で店舗へ商品を受け取りに行くという点。デリバリーと違って最低注文金額や配送料等がかからないため、一人でも一品から気軽に利用できるのが特徴だ。
また、2019年10月の消費税増税に伴い導入された軽減税率制度により、飲食店内で食事をした場合の消費税率は10%だが、テイクアウトすれば増税前の8%で食品を購入できる、という背景もテイクアウトグルメアプリが注目されている理由だ。
購入側のメリットは、受取日時を指定できるため行列に並んだり商品ができるまで時間を潰したりする必要がないこと。また、スマホのGPS(位置情報)機能を使って現在地に近い店の中からも探せるので、自宅やオフィスの近所を探して「こんな店があったんだ!」と新たな名店に出会うきっかけにもなる。商品を販売する店側も、繁忙時に電話では対応しきれない予約注文をスムーズに取れたり、新規顧客の獲得にもつながったりと、購入側・販売側双方にとってメリットがある。
どんな「テイクアウトグルメアプリ」がある?
2019年のトレンドにもなった"サブスク"でテイクアウトグルメのサービスを提供しているのが、RYM&CO.が運営する「POTLUCK(ポットラック)」だ。月額定額制で「3食トライアル」(税別497円/1食 ※初回限定)、「12食プラン」(税別650円/1食)、「ランチ毎日プラン」(税別12,000円/月)の3つから選択できる。現在は渋谷区や港区を中心に約200店舗が提携している。
「お店を経営していくうえで、普通に接客をしているだけだと、その人が初めて来たお客様なのか常連のお客様なのかわからないことがよくあります。顔が見えるテイクアウトで、かつ顧客と関係性を築きやすいサブスクモデルであれば、このような課題が解決できるのでは、と思いこのようなサブスク×テイクアウトサービスの提供に至りました」と話すのは、RYM&CO.広報担当の和田祐里香さん。
その狙い通り、店舗側からは「POTLUCKでよく注文されていたお客様が、夜に飲みに来て常連になってくれた。お互い顔を知っているから話しかけやすい」といった声が届き、利用者からも「知らないお店だと入りにくいけど、お店の人と顔なじみになると行きやすくなる」という感想が寄せられるなど、サービスを通して店舗と顧客を繋ぐきっかけづくりができているようだ。
余った料理や食材を廃棄する"食品ロス"の削減を目的にテイクアウトを取り入れているのは、コークッキングが運営する「TABETE(タベテ)」だ。同社の幹部が飲食店で働いていた際、日々の食品廃棄に心を痛めており、イベントなどを通して食品ロス削減の啓蒙活動を実施。2018年4月から「フードシェアリングサービス」としてTABETEを開始した。
アプリの使い方はほかのテイクアウトグルメアプリと同様、現在地の近くやキーワードから店を検索し、メニューを選んで注文、店舗に受け取りに行く(TABETEでは「レスキュー」と呼んでいる)、という流れ。店側はあらかじめテイクアウト用に料理を作るのではなく、あくまで料理や食材が余ったときにTABETEを利用するため、日によって提供数は変わる。提供数が少ない場合もあるため、店側が出品したタイミングで運よく注文できれば、リーズナブルな価格で商品を購入することができる。
販売側は悩みのタネだった食品ロスや廃棄コストを減らすことができ、購入側からは「普段の買い物の中で環境に良いことができて嬉しい」「以前よりも食品ロスへの関心が高まったと感じる」といった声が届くなど、環境問題への啓蒙にも一役買っているようだ。現在は首都圏を中心に、金沢、浜松、名古屋などで、計453店舗が導入。将来的には日本全国でTABETEが使えるようエリア拡大を目指すという。
「テイクアウトグルメアプリ」を使ってみた
テイクアウトグルメアプリを使って、実際に料理を注文してみた。利用したのは東京都内で約2000店が加盟している「menu(メニュー)」。menu執行役員 二ノ宮悠大朗さんは、サービスを開始した理由として、都心は飲食店もコンビニでさえも混んでいてランチ選びの選択肢の幅が少なくなっていること、また、飲食店も事前に注文を取ることで混雑時の調理場の負荷を下げたいという要望があることを知り、「双方の課題を解決したいという思いと、2019年10月から始まった軽減税率の対象であるテイクアウトのニーズが期待されているという背景もあり、『menu』の開発に至りました」と語る。
まずは「menu」のアプリをダウンロードしてアイコンをタップし、画面を開く。ホーム画面で店名・ジャンルなどを入力して探すキーワード検索のほか、「現在地から探す」「テイクアウト受取日時から探す」「エリアから選ぶ」「ジャンルから選ぶ」など、さまざまな検索方法があるのは便利だと感じた。
今回取材に協力してくれたのは、恵比寿にある「ミート矢澤 テイクアウト恵比寿」。行列のできるハンバーグ・ステーキ店として知られるミート矢澤が2019年7月にオープンしたテイクアウト専門店で、同年10月からmenuを導入しているという。アプリ画面のキーワード検索で「ミート矢澤 恵比寿」と入力。検索すると、該当店舗がヒットした。
9種類並ぶメニューの中から、一番人気という「ハンバーグ弁当」(1800円税込)をタップ。必要であればソース変更やハンバーグのサイズアップ、トッピングの追加など(いずれも有料)を選択し、数量を入力して「カートに入れる」ボタンをタップすると、カートに一時的に保存される。カートを開いて受取日時や数量を改めて変更することも可能だ。注文内容に問題がなければ、「購入手続きへ」→「注文を確定する」を順番にタップ。確定すると、店舗に設置されたmenu専用のタブレットに通知が飛び、店舗側が注文を承認すれば完了だ。
支払いはアプリに登録したクレジットカードで決済されるため、当日はmenuアプリの入ったスマホを持って店舗に向かえばOK。店に向かう途中でアプリを見ると、注文状況のステータスが「調理中」に変わり、予約時間の数分前には「出来上がり」の通知が届いた。店舗に到着し、注文画面を店舗スタッフに見せ、弁当を受け取る。これですべての工程が完了した。ちなみに、商品受け取り後はアプリ内で領収書を発行することもできた。
早速、「ハンバーグ弁当」を実食。箱を開けるとほんのり湯気が上がるほど、出来立ての状態だ。ゴロっと大きいハンバーグは黒毛和牛100%で、サーロイン、シャトーブリアン、モモなどの高級な部位の切り落とし肉、ウデ、スネ、ネックなどの赤身の部位をバランスよくミンチにしているという。
箸を通すと、中からじゅわっと肉汁が出てくる。和風ソースをたっぷりとつけて頬張ると、肉々しい食感と共に肉の旨味・甘みが口の中いっぱいに広がった。野菜と果物をすりおろした和風ソースは甘みとさっぱり感があり、ジューシーなハンバーグとの相性は抜群。さらに白米も合わせると、うっとりするようなおいしさだ。価格は1800円と高額だが、テイクアウトでこの満足感なら納得。買ってすぐ食べられるよう、割りばし、プラスチックのフォーク&ナイフ、おしぼりが付いているのも嬉しいポイントだ。
「最高級の黒毛和牛を使った弁当は、やはり勝負メシ・ご褒美メシなので、弁当箱を開けた瞬間の感動、ボリューム感も大切にしました」と話すのは、ミート矢澤統括マネージャーの横山亮太さん。焼き立て・出来立てのハンバーグやステーキを入れるため、弁当の蓋をした際に中に蒸気が籠らないように、空気が逃げるような容器を採用したという。
同店は焼き立て・出来立てにこだわっているため、店頭でテイクアウトのオーダーが入ってから調理を始め、提供まで15分ほど時間がかかる。「menuでのオーダーなら、店舗としても調理に必要な時間を確保でき、お客様をお待たせせずに一番良い状態で提供できる点が良いと感じています」(横山さん)と、アプリ注文の便利さを実感しているそうだ。
仕事で忙しい平日のランチ、自炊をサボりたい休日のディナーなど、テイクアウトグルメアプリの利用シーンは幅広い。普段は長い行列ができるような店でも、テイクアウトなら並ばずに受け取りができる。テイクアウトすることは節約にもつながるため、今後ますますアプリの利用者やサービスは拡大していきそうだ。
気になるあの店がテイクアウトをしていないか、アプリをダウンロードしてチェックしてみては。