次々に新しい料理や食材などが登場するとあって、『食のトレンド』は刻一刻と移り変わっていく。しかし、クライアントや職場の同僚と「あれ食べた?」という話になることはよくある。そんなときに「……聞いたこともない」というのは、かなりマズい。この連載では、ビジネスマンが知っておけば一目おかれる『グルメの新常識』を毎回紹介していく。第19回は「クラフトジン」。

  • 中国醸造のクラフトジン。左「SAKURAO GIN ORIGINAL」(税別2,000円/700ml)/右「SAKURAO GIN LIMITED」(税別5,500円/700ml)

「クラフトジン」って何?

クラフトビールはすでにブームを超えて定着した感があるが、いまじわじわ人気が高まっているのが「クラフトジン」だ。

ジンは、蒸留酒(スピリッツ)の一種。大麦やライ麦、トウモロコシなどの穀物を原料とした蒸留酒に、ジュニパーベリーをはじめとするさまざまなボタニカル(草根木皮)を加えて、再蒸溜してつくるお酒だ。アルコール度数は40%前後と高めで、カクテルの王様ともいわれるマティーニのベースにも使われる。

そんなジンが数年前から世界的なブームになっている。とくに話題なのは、「クラフトジン」と呼ばれるもの。明確な定義はないが、一般的には、産地や製法にこだわった少量生産のジンを指してクラフトジンと呼ぶことが多い。

ジンは使用するボタニカルに地元の素材を選ぶなど蒸留所の個性を出しやすく、飲み手にとっては味の違いを楽しみやすいのも大きな魅力になっている。また、ウイスキーなどと違い熟成が不要なため造りやすいという造り手側のメリットもある。

クラフトジンブームの先駆けは、2008年にドイツで生まれた「モンキー47」や2009年にイギリス・ロンドンでスタートした「シップスミス」といわれている。これらプレミアムなジンブランドが注目を集め、クラフトジンブームがロンドンやアメリカ、さらには世界へと広がっていった。近年は日本でもクラフトジンを造る蒸溜所が増え、「ジャパニーズクラフトジン」として注目を集めている。

「クラフトジン」はどこで飲める?

最近はホテルのバーから居酒屋まで、クラフトジンを置いている店も増えており、飲むチャンスは多い。また、酒屋やオンラインショップでも気軽に購入できる。多様なクラフトジンのなかでも、近ごろ目にする機会が増えているのが国産の「ジャパニーズクラフトジン」だ。

  • 中国醸造が設立した広島発のクラフト蒸溜所「SAKURAO DISTILLERY」

広島県にある総合酒類メーカーの中国醸造では、2017年12月に広島初のクラフトジン蒸溜所を設立。「地元広島の海や山などの豊かな原料を商品に使用し、広島そのものを商品を通して表現し、多くの方に伝えたい」という使命感からボタニカルを使うジンに着目。ロンドンで製造方法を習得した。

2018年3月に発売された「SAKURAO GIN(サクラオジン)」シリーズ2種は、広島産の素材にこだわり、レモンや柚子などのかんきつ類や牡蠣殻のほか、同社創業の地である廿日市市桜尾の象徴である桜を使用。ドライ・ジンの本場イギリスの伝統的な製法で蒸留しているため、日頃からジンを使い慣れているバーテンダーや外国人からも好評だという。

発売から間もない2018年8月には早速イギリスで開催された酒類のコンクールIWSCにて、「SAKURAO GIN LIMITED(サクラオジン リミテッド)」が「ゴールドアウトスタンディング(最高金賞)」を、「SAKURAO GIN ORIGINAL(サクラオジン オリジナル)」が「ゴールド(金賞)」を受賞。LIMITEDにおいては、ジュニパーベリーをはじめ、17種類すべてのボタニカルを広島産のものにすることにこだわり、"ユニークな純日本産原料のジン"を目指したそうだ。

  • 養命酒製造のクラフトジン。左は「香の森」(税別4,500円/700ml)、右は「香の雫」(税別880円/300ml)

薬用養命酒でおなじみの養命酒製造でも、2019年3月から2種のクラフトジン「香の森(かのもり)」、「香の雫(かのしずく)」を販売している。クスノキ科の和製ハーブ「クロモジ」をベースにしているのが特徴だ。同社では、薬用養命酒の生薬の原料として使用しているクロモジを長年にわたり研究してきたことから、クロモジを使ったジンの開発に着手したという。クロモジはリナロールを主成分とする森林のさわやかな香りがあり、気持ちをリラックスさせてくれる効果もあるそうだ。

19種類のボタニカルを組み合わせた「香の森」は、静寂な深い森を思わせる香りが特徴。一方、11種類のボタニカルを使った「香の雫」は新緑の森のような爽やかな香りとほのかな甘みの余韻がある。価格も手頃なのでクラフトジン入門にも適した一本だ。

ジャパニーズ「クラフトジン」を飲んでみた

今回は、総合酒類メーカーの本坊酒造が製造しているクラフトジンを飲んでみた。鹿児島県にあるマルス津貫蒸溜所にて、県産のボタニカルを用いて2017年からつくっている「Japanese GIN 和美人」だ。

  • 「Japanese GIN 和美人」(税込4,104円/700ml)

ベースとなるライススピリッツは米焼酎を精製したもの。蒸溜所のある鹿児島県南さつま市加世田津貫で収穫した金柑の果実やけせん(ニッケイ)の葉をはじめ、柚子・檸檬・辺塚橙(へつかだいだい)・緑茶・生姜・月桃・紫蘇という鹿児島各地で収穫された9種類のボタニカルが使われている。

飲んでみると、ジュニパーベリーの香りを軸に、和のかんきつの爽やかな香りや米由来の芳醇な香りが感じられる。味わいにはかんきつの甘さや米焼酎のような旨み、生姜のスパイシーさなどがあり、まろやかで深みがある。

「ジントニックや冷凍庫で凍らせてお楽しみいただく方も多いです。地元のボタニカルを使用していることから、バーテンダーやジンマニアの方々が興味を持ち、コンセプトに共感してくださったり、"和美人"というネーミングから女性のバーテンダーの方々にお使いいただいたり、新たなブランドの広がりもあります」(マルス津貫蒸溜所 ジン製造担当 加治佐健太郎さん)

ちなみにアルコール度数の高いジンは冷凍庫にいれても凍らず、少しとろっとした舌触りになる程度。アルコールの強さを感じにくくなり、味わいを堪能しやすくなる。

自然由来の豊かな香りと味わいで、世界各国で、そして日本でも注目を浴びているクラフトジン。ブームはこれからも続きそうだ。